海外ドラマ

バティスト 〜ブダペストに消えた影〜

頑固なスーパー・ボランティアおじいちゃん、バティストもついに最後の仕事を迎える!

Baptiste Series 2
2021年 イギリス カラーHD 60分 全6話 Two Brothers Pictures、All3Media BBC One スーパー!ドラマTVで放映
クリエイター:ハリー・ウィリアムズ、ジャック・ウィリアムズ 監督:トーマス・ナッパー、ホン・カウ
出演:チェッキー・カリョ、 フィオナ・ショウ、アナスタシア・ヒル、ドルカ・グリルシュ、ガブリラ・ハモリ、スチュアート・キャンベル、コンラッド・カーン、エース・バティ ほか

 クリエイターのウィルアムズ兄弟が、「ザ・ミッシング 」シリーズの登場人物、元刑事の失踪者捜索専門探偵ジュリアン・バティストのイメージを発展させて描く、スピンアウト作。当初は3部作を考えていたらしいが、シリーズ2で終焉させるらしい。そのせいか、バティストの活躍も壮絶で、確かにこれじゃ終わっちゃうよな〜の雰囲気だ!前作よりも緊張感があり、出来栄えは素晴らしい。

 前作では、アムステルダムに移住し、ヤク中の娘も結婚して引退を考えていたバティスト(チェッキー・カリョ)が、元恋人の依頼で仕事に戻るストーリーで、ややほのぼのしていたが、今回はのっけからバティストもボロボロで一人、うらぶれている。理由は、徐々にわかるのだが、どうやら前回結構幸せだった娘のサラは、一転してヤク中がぶり返し、子供そっちのけで過剰摂取した挙句に死んでしまったらしい。バティストは、自分が仕事上ポーランド・マフィアに関わったために、一家はオランダを離れねば成らず、娘の依存症の再発は自分のせいである・・・と自らを責めているようだ。そのせいで、妻セリア(アナスタシア・ヒル)との間にも壁を作り、今は家を出てアパートで一人呑んだくれている。トホホ。

 そんなバティストがTVで目にしたのは、ハンガリー山岳地帯に休暇に来ていた、英国のハンガリー大使エマ・チェンバーズ(フィオナ・ショウ)の夫と2人の息子アレックス(スチュアート・キャンベル)、ウィル(コンラッド・カーン)が忽然と姿を消してしまった事件のニュース。バティストは、これは俺の仕事だとばかりに、現地に飛んで捜査を手伝うことを申し出る。
 「なんで、手伝ってくれるの?」と訝るエマに、「私には、それができるからだ」と答えるバティスト。久々にやる気になったバティストは、目撃者の証言を洗い直し、反対側を捜索して夫リチャード(エイドリアン・ローズ)の死体を発見する。その殺害後にホテルの脇を走り去った車は、「首に4本線のタトゥーがある男が運転していた」という証言も引き出した。バティストは、この男をのちにブタペスト西駅で発見し、追跡するが、最後には逃げられてしまう。
 しかし、それは1年以上前の話。今は前よりもひどくボロボロ&アル中になって、サンタクロース並みにヒゲも伸ばし放題で引きこもっているバティスト。そこへ、ある事件で車椅子になってしまったエマとその協力者が現れる。
 「私は、もう降りたんだ・・、あまりに多くの血が流れた・・」と言うバティストを車に引っ張ってゆくエマは、「まだ、終わってないわ!こいつを使って、ウィルを見つけ出してちょうだい」と言い放つ。バティストが覗き込むと、車のトランクに積まれた檻の中に監禁されていたのは、首に4本タトゥーがある男、アンドラーシュ・ユースト(ミクロシュ・ビロス)だった。

 相変わらず、時間が現在と過去と、短く入れ替わる手法でリニアに話は進まない。その度に「現在」とか「14ヶ月前」とか頭に出るテロップを見逃したら、まったく内容がわからなくなる。少々面倒ではあるが、それが驚きを演出しているのも確かだ。
 今やヨーロッパを埋め尽くす、移民排斥とヘイトクライム。それを煽る、極右のポピュリスト政治家たち。その社会状況を背景に、複雑な親子の感情が絡み合うストーリーが展開する。脚本には、いくつか穴があるが、複雑な脚本と意表をつく演出で、そこを深く考えさせない。後半を監督している、カンボジア生まれの中国系監督ホン・カウの手腕もなかなかだ。
 ウィルアムズ兄弟の失踪者をめぐる脚本は、基本探す側と見つけ出された側のギャップが、あっと驚く結末を見せるパターンなので、結末は予想通りといえば予想通りではあるが・・・、最後まで目が離せいないのは間違いない。
 今回も人柄が出ている、チェッキー・カリョの演技は温かみがあるが、演技のレベルで言えば、まさにエマ・チェンバーズを演じたフィオナ・ショウのドラマといっても過言ではない。「キリング・イヴ / Killing Eve」では冷酷なMI6の上司キャロリンを、「ミセス・ウィルソン」でも、秘密情報部でスパイとしてもアレクザンダー・ウィルソンのハンドラーであったコールマンを演じていた、ショウ。よほど、偉い官僚とか、情報部の上司に見える人なんだろうと思う。
 いかなる逆境にあっても、最後までユーモアを失わない、伝統的英国人を見事に演じきっていた。

 タイトルにあるように、舞台にはブダペストの街がフィーチャーされていて、印象的なブダ地区とペスト地区を結ぶ橋がなんども映される。
 ブダペストは、とても写真写りがよい街で(近寄ると意外に建物自体はちゃちいのだが)特に冬の風景はおとぎ話のようで印象的な街だ。残念ながら、ドラマの中では、冬の景色はでてこない。
 テロが起こるヨージェフ街は、架空だろうか。ハンガリーの詩人、ヨージェフ・アティッラの名を冠した大通りは、街の中心地だし、郊外には同じ名前の団地があるが、ここの整備された綺麗な地区である。

By 寅松