オンランシネマ

未成年

父親の不倫を知った娘と相手の娘、不倫された妻と不倫した母!おっそろしいことが起こりそうだが・・、なるほど深い!

미성년/Another Child
2019年 韓国 96分 Studio Santa Claus Entertainment(Huayi Brothers Korea)/Redpeter Films/Showbox、Amazon Primeほかで視聴可能
監督:キム・ユンソク 脚本:キム・ユンソク、イ・ボラム
出演:キム・ヘジュン、パク・セジン、ヨム・ジョンア、キム・ソジン、キム・ユンソク、キム・ヒウォン、イ・ヒジュン、イ・ジョンウン、ヨム・ヘラン ほか

 大昔、新大久保に韓国鴨料理を掲げる店ができたことがあった。(今もあるようだが・・)遅くまでやっている店なのでなんどか行ったことがある。店の主人は、韓国では、鴨はよく食べるのだと言っていたが、韓国鴨料理というのは日本ではその店しか見たことがなかったので、ほんまかいな?と思っていたのだ。ところがこの映画で頭から出てくるのは、ちょっと郊外にある民芸風の鴨料理屋だ。なるほど、韓国でも鴨料理はよく食べるのか!
 なぜか、鴨料理屋の窓の外で、宴会をやっている会社のおじさんたちを覗く女子高生。部長と呼ばれたおっさんは、どうやら、ちょっと色っぽい店のママと出来ているらしい。女子高生は、その鴨屋に帰ってきたらしい同じ学校の女子高生に気づいて、慌てて逃げ出す。
 短いオープニングで全体の構図を見せる出だしもなかなか見事。ベテランの監督かとおもったら、なんとこれが初監督??
 いや、キム・ユンソクは俳優としては、大物ではないか!『1987、ある闘いの真実』や、Amazon Primeで見られる『暗数殺人』でも多くの賞を受賞している名優だ。そのユンソクが、初めて監督したという作品らしい。もちろん自分は、すべての元凶である父親、デウォン役として出演している。
 気負った映画になりそうなものだが、これが肩の力も入っていない地味なながらなかなか良い映画なので驚く!日本映画の秀逸な作品のようなタイプだ。
 凶悪な事件も、奇跡も、どんでん返しも起こらない。あるのは、あくまで苦々しい現実味のある世界。それだと、そうなるよなあ〜というようになってゆく。しかし、なぜか最後はそれでも清々しい。だって主人公は「未成年」なのだ。まだ先が長い!

 主人公は同じ高校に通う2人の女子高生。優等生のジュリ(キム・ヘジュン)と、評判もよくないユナ(パク・セジン)。ジュリの家庭は、教会に通う上流っぽい母親ヨンジュ(ヨム・ジョンア)と会社の部長らしいデウォン(キム・ユンソク)の3人暮らし。しかし、その父親は外に女を作っているらしい。その相手は、郊外の鴨料理屋を営む、少しエキセントリックな女将のミヒ(キム・ソジン)。そしてその娘がユナである。
 ジュリはもちろん、父親に不倫をやめさせたいと思っているが、母親にはなるべく知られたくない。ユナも母親の妻子ある男と関係をやめさせたいのだが、自分が言っても、母親ミヒがやめないことはよく知っている。すでに、ミヒは、デウォンの子供を妊娠していたからだ。

 親たちの浮気を巡って、学校で派手な取っ組み合いの喧嘩をするジュリとユナ。
 デウォンの浮気を認めざるを得なくなったヨンジュは、鴨料理屋にミヒを訪ね、彼女の態度に耐えきれなくなって、突き飛ばしてしまう。
 その衝撃で、ミヒは早産をしてしまい、ヨンジュとミヒは病院に。病院で顔をあわせる4人の女たち・・。父親のデウォンは、なんとか言い訳をつけて、家庭からも、愛人からも、娘たちからも遁走するだけ。
 しかし、保育器に入れられた未熟児を、2人並んで眺めるジュリとユナには、不思議な連帯意識が生まれつつあった・・。

 最初から最後まで、個性のはっきりした4人の女たちの、それぞれの考え方、生き方を提示する女の映画である。
 それにひきかえ、男たちのなんと影の薄いこと・・。わざとやっているのだが、ユンソク自身が演じるデウォンの情けないおっさんぶり、しかり。地方まで娘のユナが訪ねてきても、カジノへの送迎バスに乗ることしか考えていないクズ男のユナの実父。大げんかをしたジュリとユナについても、全く理解不能なだけでなすすべがない男性教師。男たちは、誰一人、理解力がない。(笑)

 ジュリを演じたキム・ヘジュン、ユナを演じたパク・セジン。女子高生を演じた2人は、メイクも演技も実に自然で、リアリティがある。ヘジュンは、Netflixドラマ「キングダム」で頭角を現し、この映画で40回青龍映画賞の新人女優賞を受賞している。受賞は逃したが、パク・セジンもこの作品で、56回大鐘賞の新人女優賞にノミネートされた。
 ベテラン、ヨム・ジョンアの抑えた演技はもちろん素晴らしいが、『ザ・キング』『KCIA 南山の部長たち』などで知られる、キム・ジソンが演じた、ユナの母親、ミヒもいい。身勝手ながら、人を惹きつける魅力のあるエキセントリックな性格も彼女の表現はドラマに深みを与えている。

By 寅松

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