海外ドラマ

ブランニック警部〜非情の大地

アイルランド人の情深さは、ピューリタン的正義感にまさる!んだな・・。

Bloodlands
2021年 イギリス カラーHD 57分 全4話  HTM Television/BBC One AXNミステリーにて放映
クリエイター:クリス・ブランドン 監督:ピート・トラヴィス
出演:ジェームズ・ネスビット、ローカン・クラニッチ、シャーリーン・マッケンナ、ローラ・ペティクルー、リーサ・ドゥワン、イアン・マコゥヘニイほか

 英国で最高視聴者数1,000万人以上というのが謳い文句。多分瞬間視聴率だろうなあ。一応「ボディガード-守るべきもの-」などを製作しているジェド・マーキュリオのプロデュースというので、本国では話題になったのかもしれない。
 この物語を重要なネタバレなしで説明するのは非常に難しい!
 たしかに、あっと驚く展開。というかドラマ的に、予想しない終わり方なのは、確かだが、これだけは強調しておきたいが、全部見終わって全然気持ちはすっきりしません!いやあ、少々やな気分になるでしょう。(笑)
 ただし、このドラマの狙い・・そのくらい北アイルランドにおける20年前(「ベルファスト合意」前後)の状況が、絶望的な憎しみの連鎖の果てに訪れた極限の状態であったのかは、十分に伝わってくるだろう。

 脚本的には、説明不足なのか重大な欠点があるように思える。
 ドラマは20年前、ベルファスト合意の前後に、駆け込みで起こったカソリックとプロテスタント双方のテロ関係者の連続殺害事件が、元IRA活動家の誘拐事件をきっかけに再捜査されることから始まる。この事件のなかで妻のケイトを殺された主人公のブランニック警部(ネスビット)は、謎の殺人犯「ゴリアテ」の再捜査に乗り出すが、20年前を知るブランニックの親友でベルファスト本部の警視ジャッキー・トゥーミー(クラニッチ)が、わざわざ郊外のストラフォード湖の所轄に戻り、自ら捜査を指揮する名目で、「ゴリアテ」の捜査に圧力をかける。
 しかし、後半の意外な展開を考えれば・・・、そもそもなんでブランニックは、「ゴリアテ」の再捜査に乗り気な様子を見せたんだ??トゥーミーと意見一致で消極的でも問題なかったのでは?
 単に部下のニーアム刑事(シャーリーン・マッケンナ)にいいところを見せたかったのか?
 それとも、誰が「ゴリアテ」について情報を持っているのか?を確かめようとしたのか?それにしても、脚本上その辺の説明は十分されていない。
 ドラマは2回目で、えええっ!?という展開を見せ始め、あとはおいおい、こまったなあというお話である。最初から、まさに苦虫をかみつぶしたような表情と悪い人相で登場する男が、最後まで顔通りの人格をあらわにすることになる。
 確かに驚くでしょうけどね。

 アイルランド人というものを再認識するドラマだろう。アイルランド人は、本当にいい人たちだ。特に南のカソリックの人たちは、親切だし人がいい。情にあつすぎて、情に大いに流される。アングロサクソン的(ピューリタン的)な倫理観や、厳密なルールの適用は、彼らの「情」の判定の元では大変地位が低い。
 ケルトとアングロサクソンという人種的相違、歴史的繰り返されたイングランドによるアイルランドの弾圧、これらが確かにアイルランド問題の根底だが、2者の根本的な考え方の違いが、実は多くの遠因になっているのかもしれない。(アメリカで、いかなる科学的証拠を突きつけられても、未だにコロナの蔓延も、ワクチンの有効性も信じないで、一度仲間だと認定したドナルド・トランプに死ぬまでついていく・・、こういうアメリア中西部のプアホワイトには、紛れもなくこのアイルランド気質が息づいてるのだろう)

 もちろん、主人公のブランニックは、親友のトゥーミーとは違いプロテスタント側の人間だと思うが、それでもアイルランド人として一番大事なのは家族への愛情であり、倫理観や法の遵守の地位は全然低いということなのだ。

 「ゴリアテ」(英語ではゴライアスと発音)は、もちろん旧約聖書に出てくる巨人兵のことだが、ドラマの中で出てくる絵葉書に写っている、造船所などで使用する、大型門状クレーンの名称(ゴライアス・クレーン)でもある。このドラマの中で指しているのは、クレーンのようだ。

By 寅松

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