海外ドラマ

私だけに見える探偵

幽霊探偵ホップカーク+刑事リバーの韓国ホラー/サスペンス/メロドラマ!

오늘의 탐정/The Ghost Detective
2018年 韓国 カラーHD 40分 全24話 KBS BS12トゥエルビ/KBS Worldで放映 Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:ハン・ジワン 監督:イ・ジェフン
出演:チェ・ダニエル、パク・ウンビン、イ・ジア、キム・ウォネ、イ・ジェギュン、イ・ジュヨン、シン・ジェハ、ホ・ジョンウン ほか

 韓国でのオリジナルは、KBS2で2018年に放映された35分の32話構成のもの。BS12などでは、2話づつ32話放映されたようだが、Amazon Primeで視聴できるのはDVD用に40分24話で再編集されたののようだ。本稿は、このバージョンでの評である。
 正直24本でよかった。32本だったら途中でめげていたろう。もし、このドラマが、不要なメロドラマ部分をカットして長くとも16話以内でまとめられていたら、傑作ダーク・サスペンスの部類にはいると思う。しかし、そこはいかんせん韓国TV地上波なので、そうは問屋が卸さない。

 それでも、このドラマにはよくある韓流ドラマにはない美点がある。突然主人公が記憶喪失にならないし、若いのに珍しい奇病で数ヶ月の命と宣告もされないし、巡り合った恋人が実は兄弟であったりもしない。もちろん謎の老人が現れて(ま、霊は出るが)時間をワープさせてくれたりもしない。
 ま、その代わり助手にだけ見える探偵が登場するが・・それはまだ納得がいく方だろう。探偵もので、片方は死んでしまうが、幽霊となって相方にだけ見えるという骨格は、伝説的なプロデューサー、デニス・スプーナーが1969年に英国ITV(制作ITC)で手がけた探偵ドラマ「幽霊探偵ホップカーク」<Randall and Hopkirk (Deceased) >を踏襲している。「幽霊探偵ホップカーク」は男同士の相棒だが、心を寄せる相手が死んで幽霊となって見える刑事物なら、アビ・モーガンの脚本で2015年にBBCが放映した「刑事リバー 死者と共に生きる」が記憶に新しい。
 このドラマでは主人公の探偵の方が幽霊であり、それが見えるのは自ら志願して助手となったアルバイト女性のみ。長年の相棒の所長にもまるで見えない。その状況の説明も極めて曖昧だ。

 でっかいチェ・ダニエル(「ファントム」「ビッグマン」)が演じるイ・ダイルは、所長のハン・サンソプ(キム・ウォネ)とともに探偵事務所を営んでいたが、いよいよ廃業の危機で古ビルに陣取ったいい感じの事務所も引っ越しを迫られている。
 ダイルは、軍隊の不正を告発して除隊になった男だと説明されるが、聡明で腕っ節も強く、頼り甲斐のある探偵として描かれる。
 そこに現れたのが、女性弁護士と実業家。ダイルは、所長をせきたててソファーを事務所に戻すと、仕事の依頼がくると囁く。実はのちにダイルを過去に弁護した弁護士だとわかる女性ペク・ダヘ(パク・ジュヒ)から、2人に提示されたのは行方不明の少女を探す依頼。社長はすでに事務所の古ビルを買い取っており、依頼を達成すれば賃料も免除するという。
 よろこんで捜査を始めるダイルとサンソプだが、実は行方不明になったのは一人ではなく、その友達の2人の幼稚園児も神隠しのように行方不明となっていた。捜査を進める過程で、ダイルはそれとなく自分たち監視している女の存在に気づく。

 子役から大人への転身に成功したパク・ウンビン(「ホジュン〜伝説の心医〜」「江南ロマン・ストリート」)が演じるチョン・ヨウルだ。韓国女優としてはかなりナチュラル顔なウンビンが演じるヨウルは、日本で言えば、ヤクルトおばさんのバイトをしているが、何と言ってもこの制服が一番よく似合う清楚系。彼女は翌日、ダイルたちの事務所に履歴書をもって現れる。探偵助手のアルバイトとして雇って欲しいというのだ。もちろん、ダイルは断ろうとするが、彼女の真の理由を聞いて、助手として雇うことを承諾する。
 彼女の妹イラン(ぜんぜんウンビンの姉妹には見えないチェ・ジアン)が、突然理由不明の自殺をした真相をダイルなら暴いてくれるのではないか?というのだ。実はダイル自身にも5年ほど前、軍を除隊になったのちに一緒に暮らしていた母親が意味不明の自殺をしたという過去があった。2人には共通のトラウマがあったのだ。

 しかし、2話目でダイルが、幼稚園の子どもを教師の一人が監禁していたことを突き止めて事件を解決しようとするさなか、何者かに後ろから殴られ行方不明になる。ダイルは、ドロドロになり町外れの沼地から這い上がって出てくるが、どうやら周りの人間は誰も彼に気づかない。幽霊になってしまったらしいのだ。しかし、なぜかヨウルのマンションに向かうと、ヨウルだけはダイルが見え、その腕をつかむことができる。ダイルは、ヨウルと共に自分が殺される前に見かけた赤い服の女を探しはじめる。イランがレストランでの仕事中に自殺した現場で、ヨウルだけが目撃したのも赤い服の女だったのだ。

 幽霊になったダイルは腹はへるものの、ものがつかめず食べられない。しかし、とぼけた所長サンソプは、ヨウルがダイルが幽霊になって一緒にいると説明するサンドウィッチ店で、「幽霊は、供えてやれば食べられるんだ」と年長者の知恵を見せる。サンドウイッチにフォークを刺してお供え物にすると、ダイルは確かに食べられると大喜び。ここだけは韓国風で笑える。

 ドラマにはほかにも、霊は信じていないものの、ヨウルに心を寄せて心配しているエリート若手刑事パク・ジョンテ(イ・ジェギュン)や、パク刑事に密かに心を寄せるらしいボーイッシュな解剖医キル・チェウォン(イ・ジュヨン)。彼女は、幼少期に巫女の夫婦に引き取られ、自分も15歳まで巫女(霊媒師)をしていた過去がある。ダイルの裁判で負けたことに、いままで罪悪感を抱いているやり手弁護士のパク・ヘダ。ヨウルの同級生でイランと付き合っていたが、彼女を守れなかったキム・ギョル(シン・ジェハ)。軍隊でダイルの部下で、同房の兵士自殺の責任を取らされたフリー・ジャーナリスト、カン・チョウン(ユ・スビン)など、それぞれの物語に関わる背景を持った登場人物が配置されてくる。
 事務所ばかりか、豪勢なSUV車や、病院/警察の手配までしてくれる、誘拐犯された娘の父親で、企業家イ・ギョンウ(パク・ホサン)の真の意図がそのうち明かされるのかと思っていたら、(DVD版では)最後まで曖昧な説明しかされなかった。

 40分だが、物語はテンポよく、最初の10話程度までは、ホラーとしてもなかなか怖い。しかし、如何せん話を引っ張らないとならないので、全てを操っていたことがわかる悪霊、ソンウ・ヘ(イ・ジア)が生き霊であることが判明し、その体は殺すものの、こんどは意味不明に実体を伴ったゾンビとして犯行を続け、ついにはテロまで起こし、確保のために機動隊が出動する事態にまで進む・・・となると、何が目的のドラマなのかはよくわからなってくる。
 ダイル自身も生き霊であったことがわかり、さらにはヨウルとダイル、そしてその方法を知るチェウォンは、それぞれが自分を犠牲にしてソンウ・ヘを葬るしかないと譲り合うメロドラマは、かったるさが爆発だ。18話を超えてからはかなり厳しいし、最後のハッピーエンドのために付け足した24話目は、正直、最悪の蛇足である。

 しかし、韓国地上波視聴者や日本のコアな韓流ファン層を対象にしている限りはこの辺が限界なのだろう。(最近韓国ではNeflixなどが進出して、地上波とは違うオリジナルシリーズが話題をよんではいるが・・視聴者層はさほど変わらないだろう)
 このドラマは、出だしの最高視聴率ですら4.4%ほどで、平均視聴率は2.67%と散々な結果に終わっているので、おそらくその意味でも韓国らしいメロドラマに転換しろというプレッシャーは高かったにちがいない。
 2015年の「軍師リュ・ソンリョン 〜懲毖録<ジンビロク>〜」、2016年の「ウォンテッド〜彼らの願い〜」で実力を認められてきた女性脚本家のハン・ジワンは、それでも現代の社会の実情から背を向けた、無意味なホラーや恋愛ドラマにならないよう、最大限の努力をしているように見える。社会的なサポートもなく、貧困の中で一家心中するまでになった子ども時代のソンウ・ヘの内部に渦巻く怒りは、とんでもない怪物でありながら、理解可能なものとして描かれている。ソンウ・ヘに操られる人々が抱える、自らの状況の理不尽さも割と丁寧に描かれる。
 ちなみに、もはや実年齢もまったくわからない修正美女のイ・ジアが演じる大人のソンウ・ヘもとても怖いが、演技力としてはずば抜けているのが ソンウ・ヘの子ども時代を演じたホ・ジョンウンである。綺麗になりそうだし、本当に目力が強い!

 演出も欧米並みの実力が感じられる。このドラマに関しては、脚本/演出ともにBBCやCh4などの英国ドラマ影響が感じられるので、かなり研究しているのだろう。オープニングのアフター・エフェクト(コンポジット)処理から、ライティング、音楽/効果音の使い方までそっくりだ。20年前でも韓国映画には優れた作品が出てきていたが、第一次韓流ブームのころのTVドラマは正直ひどかった。それを思えば、まさに隔世の感がある。
 ロケーションも十分凝っている。かなり広めで、ノスタルジックな作りにしてある探偵事務所こそ、スタジオだと思われるが、そのほかの犯行現場、幼稚園、ソンウ・ヘの隠れ場、教会やカフェなど、どれも手抜きなくロケ地が選ばれている。
 事件が起こってから、もう一度その裏側を説明付きで繰り返す脚本なども、最近の英国ものや米ミニシリーズでよく見かける手法だ。
 安易に音楽で処理するのは、今や世界共通だが、最後に流れる音楽はさすがにK-Popというか韓国風歌謡曲。しかし、なんと18回目にはそれまで女性ボーカルだった歌謡曲が男性ラップ・バージョンに差し替えられる遊びも。
 
 このドラマには、従来の韓国ドラマの定番要素がないとは書いたが、なぜかこのドラマと同時期の2018年の韓国映画、『ザ・ソウルメイト』(원더풀 고스트)(2009年の韓国ドラマ「ソウルメイト」、Aamzon Primeでリリースされた2020年AMCの最新オムニバス・ドラマ「ソウルメイト」とは別物)でもまったく同じ設定が使われている。(正義感のある刑事が生き霊となり、正義感ゼロの乱暴な柔道館館長にしか見えない存在に)さらに、2020年には同じKBS2が「ゾンビ探偵」(좀비탐정)という設定がそっくりなコメディ・ドラマを投入しているので、これからの韓国モノはどいいつもこいつも安易に幽霊になったりするのかもしれない。
 あとは、フジテレビがよりひどいリメイク版を作ろうと思わないように祈るばかりだ。

 有料のdTVやApple TVのほか、Amazon Primeなどさまざなプラットフォームで視聴可能だが、Gyaoでは、1話目だけ無料で見ることができるようだ。(2話以降レンタル)
https://gyao.yahoo.co.jp/store/episode/A347088001999H01

by 寅松

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