海外ドラマ

ギルティ 人生まっさかさま

結局は、スコット・ランドのベター・コール・ソウルなのか?

Guilt
2019年 イギリス カラーHD 60分 全4話 BBC Scotland/BBC2 Amazon Prime、U-Nextで視聴可能
クリエイター:ニール・フォーサイス 監督:ロバート・マキロップ
出演:マーク・ボナー、ジェイミー・サイブス、ルース・ブラッドリー、シャーン・ブルック、イーモン・エリオット、ビル・パターソン ほか

 2019年に本国で放映されたばかり。BBC2が、新しくBBC Scotlandと変更されて初めての、制作ドラマである。
 知人の結婚式パーティーから帰る途中の車のなかで、酔っ払った2人の男。どうやら兄弟らしく、兄の車ではあるようだが酔っ払いすぎた彼に代わって、弟が運転しているらしい。それが住宅街の夜道で何かにぶつかる。慌てて、外に出てみると老人を轢き殺してしまったらしい。
 驚いてすぐに警察に電話しようとする弟ジェイク(サイブス)に、「お前、わかってるのか。お前は刑務所行き、俺は間違いなく弁護士資格剥奪だぞ!」と怒鳴る兄のマックス(「埋もれる殺意 〜39年目の真実〜」などのマーク・ボナー)。おや、兄は弁護士らしい。しかし、ギルト(罪悪感)が極めて低い兄の方は、弟を従わせて死んだ老人を近くの家の庭まで運ぶ。ちなみに邦題は、日本人になじみがないとおもったのか「ギルティ」(これじゃ有罪だ)となっているが、原題は<Guilt>(ギルト)で罪悪感のこと。
 その家は、老人の家らしくドアの鍵は開いていた。なんとかカウチまで死んだ老人を運び、服を脱がせる2人。マックスがふとサイドテーブルを見ると、緩和ケアを受けるための書類が。死んだ老人はどうやら、末期癌だったようだ。これなら、警察も検視するはずがない。確信したマックスはジェイクにキツく口止めしてやり過ごそうとするのだが・・・。
 まずはこの出だしで、実はうまくいきそうに見えて、次々危機が訪れるブラックなコメディだろうと期待すると、どうもテンポがイマイチ。こちらがアメリカ・タイプのドラマに慣れすぎているせいかもしれないが・・じわじわ事件は思い通りにいかなくなるのだが、危機連発とは行かない。マックスに命じられて、(老人とレコードを通じた知り合いだったと名乗り)死んだ老人宅を偵察に行く弟ジェイクは、アメリカから来た死んだ老人の唯一の肉親=姪のアンジー(ブラッドリー)に惹かれている様子だ。
 死んだ老人のレコード・コレクションが素晴らしいと、最初から気付いていたジェイク。老人は、元ジャズ・トランペッターらしかった。今はエディンバラで中古レコードを営んでいるジェイクも、実は元ミュージシャン。アンジーと親しくなるにつれ、ジェイクの音楽についてのオタク度合いが披露されて、なんだかこいつは、ニック・ホーンビーの『ハイ・フィデリティ』のロブみたいな人格に見えてくる。見る側は、この「いい人具合」が笑いを誘うケルト的コメディだったのか!?と思い直すのだが、これがそうでもない。だんだんと、ほのぼのではなくて、話は危険になってゆく。
 兄のマックスがいろいろ隠し事をしているのはともかく、マックスの妻クレア(ブルック)に近づくインストラクターのティナ(マヨ・アカンデ)、死んだ老人の隣に住む老婆、道路に監視カメラをつけている向かいの家の男、そしてアンジーまで、みんなが何かを隠しているようだ。次第に話は大きな事件につながり、結局エピソード4では、マックスが関わっている大きな犯罪が露わになる展開に。
 しかし、最後の最後にテーマになっているのは、ジェイクとマックスのお互いに対する、やりきれない気持ちなのかー。兄弟<あるある>である!こりゃまるで「ベター・コール・ソウル」か「コタキ兄弟と四苦八苦」じゃないか!
 何れにしても、あんまり単純にすっきりしない。だからといって深みがあるというのでもなくて、なんとなく消化不良な終わりかただ。この辺がスコットランド的なのだろうか?
 しかし、明らかにスコティッシュだなーと思わせるいいところもある。音楽のセンスが全編を通してなかなかかっこいいのだ!
 スティーリーダンの初期名曲、<Do It Again>が挟み込まれたり、アネット・ピーコックの<I’m The One>やら、ロキシーミュージックも何気なく・・。目立つのは、エピソード3のエンディング。ヴァン・モリソン(ゼム)が歌う、<It’s All Over Now, Baby Blue>。沢山カヴァーされた、ボブ・ディランの65年の名曲だが、なかではマリアンヌ・フェイスフルのバージョンもかかる。エピソード4のエンディングには、70年代のマニアックなソウルシンガー、ダロンドの名曲<Didn’t I>(ブレイキング・バッドでも使われていたはずだ)が使われる。これも渋い!
 面白いのは、普通なら劇伴を用意するような場面も、あえて既存の代わった曲を使用して、奇妙な雰囲気を出しているところ。70年代CANの実験的なサウンドをたくさん(<Moonshake><Pinch><Spoon>)使用したかと思えば、サンダーキャットやブラジルのクロスオーバーサウンド、デオダートまで自由自在で、洒落ている。この点は、レコードオタクモノ的な良さがある。

by 寅松