オンランシネマ

魂のゆくえ

イーサン・ホークの牧師姿が似合いすぎ!いやでも神と人間の営み、宗教の意味について考えさせられる。

First Reformed
2017年 アメリカ カラー 1.37 : 1  113分 Killer Films/A24 Amazon Prime/U-Nextで視聴可能
監督/脚本:ポール・シュレイダー
出演:イーサン・ホーク、アマンダ・サイフリッド、セドリック・カイルズ、ビクトリア・ヒル、マイケル・ガストン

 やたらに、あのポール・シュレイダーが構想50年で完成させた!とPRされている映画。究極にエンタメ度が低いので、こうとでも言うしかないのか?ドイツとオランダの血を引くポール・シュレイダーは家が厳格なカルヴィン派で18歳になるまで映画を見たことがなかったと言われているが、実は、これはその宗教的ルーツに深く関わる映画である。
 オリジナル・タイトルの<First Reformed>は教会の名称だが、素早く改修でもされた教会なのかと思ったら、大間違いだった。(笑)これは宗派のことで<Dutch Reformed Church>という言い方をする、「オランダ改革派」の教会を指す言葉のようだ。
 主人公のトラー(イーサン・ホーク)は、ニューヨーク州に初期のオランダ移民によって建てられたこの小さな教会の牧師である。南北戦争時代には、奴隷のカナダへの亡命を助けたりと先鋭的な活動した教会だが、今では取り壊される寸前で、大口の寄付者を持つメガ・チャーチ、アバンダント・ライフの傘下で生きながられている。アバンダント・ライフは、この教会を観光教会にして、さらに美しい建物と伝統的なイメージを自らのイメージアップに利用しようと、この教会の建立250周年式典を計画していた。
 父の代からの従軍牧師であったトラーは、息子にも軍への入隊を薦めた過去があった。息子は、半年後にイラクで戦死。息子の従軍に反対していた妻との関係も悪化し離婚に。自暴自棄で軍を去った彼を拾ってくれたのが、アバンダント・ライフのジェファーズ牧師であった。
 ある日曜の礼拝の終わりに、トラーは美しい若妻、メアリーに「夫と話をしてほしい」と頼まれる。メアリーの夫のマイケルは熱心な環境保護主義者で、妊娠した彼女に対して、生まれてくる子供にこの世界を残すことは残酷で、自分にはとても許せないと言い続けているらしい。
 マイケルに対して、命の選別をするのは君のすべきことではないと諭すトラーだったが、気候変動と世界の危機的な状況を熱心に語るマイケルの言葉に、自分も心を動かされずにはいられなかった。
 メアリーは、ガレージでマイケルが隠れて製作していた自爆ベストを発見し、その場に呼ばれたトラーが、そのベストを隠すために持ち帰る。しかし、その数日後にマイケルは、公園で自殺してしまうのだ。
 マイケルの葬儀は遺言によりゴミの最終処分場で行われ、その遺骨は聖歌隊の歌うニール・ヤングの<Who’s Gonna Stand Up>が流れる中、散骨された。しかし、そのことが地方紙に報道されると、アバンダント・ライフの大口寄付者で、250年式典のスポンサーでもあるバルク産業のエドワード・バルクが「政治的な話題に関わるな」と口出しをしてくる。
 エネルギー産業にもかかわるバルクは、まさに営利追求を最優先し、地球温暖化を促進している悪徳企業の一つであった。
 体の状態が悪いことは承知しながらも、そのことに対面するのを拒否してきたトラーだが、ジェファーズに強く命じられて病院で検査を受け、消化器系の癌であることと、余命が短いことを知る。改めて、マイケルの作った自爆ベストを取り出したトラーは、250周年式典で自らを犠牲にしてでも、自らの信じる神への忠誠を果たすべきではないかと決心を固めるのだが・・・。
 
 静かな映画である。アリフレックスのProRes 2.8Kで撮影された映像は、今時珍しい4:3形式の映像だが、表現力は豊か。劇中で、賛美歌は歌われるが、基本的にBGMはなく、時折ノイズ系の効果音が低く唸るだけで進行する。
 小津から大きな影響を受けたポール・シュレイダーらしく、淡々とした物語の進行は現代のアメリカの映画とはとても思えない。まるで日本映画を見ているようだ。そして驚愕のラストシーン。
 これは、ある意味すごい!
 イーサンホークの牧師ぶりは、あまりにリアルである。実はホーク自身の家族も熱心なパブティストで祖母は、彼を聖職者にしようと思っていたらしい。ホークのリアルな演技があってこそ、この物語の根底にある「真面目さ」が際立つのだと思う。

 主人公のトラーは、マイケルに説得されて単純に環境保護主義に傾倒したということではない。トラーはおそらく最後に、今まで向きあうことを避けてきた、様々な信仰の矛盾に回答を出そうとしたのだろう。
 カルヴィン派は、プロテスタントの中でもひときは厳格だが、一方オランダの商業地域で広まったことからも分かる通り、ドイツ農村をベースにしたルター派とちがい、商売や収益事業には肯定的だという側面がある。この物語は、神が許すはずのない人間の行為を、信仰が容易に肯定してしまう背景に、どんなことがあるのかを考えさせてくれる。
 素晴らしい演技をしたイーサン・ホークだが、この年のオスカーにはノミネートすらされなかった。ハリウッドにも、バルク産業のようなスポンサーがはびこっているということなのだろうか?

by 寅松

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