海外ドラマ

宿命の系譜 さまよえる魂

ライフ・オン・マーズのクリエイターが放つ、ゴシック・ミステリーを凌駕する超展開歴史サイコドラマ

The Living and the Dead
2016年 イギリス カラーHD 60分 全6話 BBC Cymru Wales/America AXNミステリーにて放映 Amazon Prime / U-Next / dTVなどで視聴可能
クリエイター:アシュリー・ファラオ 監督:アリス・トラフトン、サム・ドノヴァン
出演:コリン・モーガン、シャーロット・スペンサー、ニコラス・ウッドソン、アイザック・アンドリュース、ケリー・ヘイズ、マルコルム・ストッリーほか

 怖い!怖すぎる!とんでもないドラマです!
 話は19世紀末、都会で出会った輝くような美男美女のアップルビー夫妻がサマセットの田舎屋敷に、夫ネイサンの母親を見舞うところから始まる。妻のシャーロット(シャーロット・スペンサー)は、写真家のパイオニア。夫のネイサン(コリン・モーガン)は精神科医。2人は子宝に恵まれないためにロンドンでの忙しい生活から離れ、ネイサンの田舎でしばらく過ごして環境を変えようと戻ってきたのだ。ご主人様である、ネイサンの母親が病気で臥せっているために、心配していた使用人たちはネイサンの帰郷を喜ぶが、再会を喜ぶ間も無く母親がなくなり、ネイサンとシャーロットは、都会の生活を捨てて、村人のためにも屋敷と領地を引き継ぐ決心をする・・。
 2人は、この時代の最新鋭の蒸気機関耕運機を導入したり、鉄道を呼び込んで作物を都会へ出荷しようと考えるが、保守的な村人や悪意を持つ使用人達からは様々な抵抗が起こる。そして、そのような人間的な問題だけでなく、悪霊の仕業と思われる怪奇現象も起こり始めるのだ!村の牧師の娘に取り付いた成仏しない霊魂、死んだ赤い子供達の霊、魔女として葬られた薬草調合師の女性などなど、メチャメチャ怖い困難が1回ごとに起こり、なんとか毎回2人は立派なご主人様としてそれらを乗り越えて行くのだが・・・。なんと・・・!
 ネイサンが継ぐ、アップルビー家はドラマのなかでも称号は付けられていないので貴族ではないが、ジェントリ(郷紳)と呼ばれる地元の地主階級であろう。ジェントリ階級は、先住民族の時代からその土地土地を支配していた家族であることもしばしばで、要するに村全体がその家の所有物のようなものである。しかし、19世紀には資本主義が進み、ジェントリ階級はそのまま時代に乗って資本家階級へ移行するものと、没落するものに二分化していった時期でもある。都会で教育を受けた、ネイサンとシャーロットが、機械化や様々な挑戦により農業の近代化に取り組もうとするのも、この時代の雰囲気を上手く伝えている。日本人から見れば、ものすごく小規模な「ダウントン・アビー」的な楽しみもあるだろう。
 かなり加工してあるのだろうが、田舎の風景は驚くほど美しく、それぞれのカットは、「まるで絵画」という言葉がぴったりくるほど構図が練られている。アーサー王伝説を下書きにしたBBCのファンタジー「魔術師 MERLIN」シリーズで主役を務めたコリン・モーガンと、12歳の頃から舞台でメアリー・ポピンズを演じていたシャーロット・スペンサーは、まさに輝くような美男美女カップルで、本当に絵になるのだ。
 音楽も実に怖い。ブリストルのユニット<The Insects>が手がける音楽は、30年代のフォーク・ミュージシャン、リチャード・ダイル=ベネットのペンになる<The Reaper’s Ghost>のリメイクや、トラディショナルの<She Moves Through the Fair>を巧みに取り入れて、不気味で物悲しい雰囲気を盛り上げている。
 あの「時空刑事1973 ライフ・オン・マーズ」(米国版はもちろん、最近は韓国ドラマでもリメイクされた人気ドラマ)のオリジナル脚本をマシュー・グラハム、トニー・ジョーダンと共に担当した、アシュリー・ファラオのストーリーは、説明しすぎることもなく、だからと言って全く意味不明に驚かすホラーでもなく、生きている人間と、死んだ人間、つまり霊の動機や感情も納得がいくようにほのめかしてゆく。優れていて、大変ドラマに引き込まれる。サマーセットで育ったファラオは、地元の習俗にも精通しているのだろう。田園風景の中にも古代ドルイド教的な遺跡や習俗が色濃く残る、西イングランドの土俗的な恐怖感も巧く取り込んでいるように思う。アメリカのそれとは懸け離れた、古代ドルイド教のサウィンの祭りの感触がある恐ろしげなハロウィーン(万聖節)の仮装などは格別だ。
 そんなこんなで、見始めると19世紀のイングランドにどっぷりはまってしまうのだが、そう思って見ていると、画面に突然あれが現れるのだ!「な、なんだ今の?」
 ネイサンは「光る本を持った女」などと幽霊の一人として片付けるが、現代の我々が見たらあれは明らかにアップルの・・・!?
 ドラマは次第に恐ろしさを増す。幸せで実に立派な若き領主に見えるネイサンには、シャーロットとの出会いの前に、最初の結婚でできた息子を沼で死なせたという過去があった。その過去が次第にネイサンを蝕んでゆく。そしてなんと最後の回には、あっと驚く展開が!いやあびっくりする。これはただの歴史ドラマでもないし、ただのゴシック・ホラーでもないのだ。
 最後まで見ると、ようやく邦題の意味がいきてくるのだが、少々ネタばれの疑いも否めない。難しいところである。見だしたら、一気に見ることをお勧めする!

by 寅松