オンランシネマ

バード・ボックス

観たら「目隠し」したくなるSFホラーは
現実逃避を勧めるネットフリックスの戦略か!

Bird Box
2018年 アメリカ カラー スコープ 124分 Netflixで配信
監督:スサンネ・ビア 原作:ジョシュ・マラーマン
脚本:エリック・ハイセラー 撮影:サルヴァトーレ・トチノ
出演:サンドラ・ブロック、サラ・ポールソン、ジョン・マルコヴィッチ、トム・ホランダー

 全米で社会現象化しているという「目隠し」ホラーSF。ある日突然、地球を襲った超常現象。「それ」を見たものはみな自殺してしまうというので、みな家に閉じこもり窓をふさいで必死にサバイバルを試みる……。
 映画は、その5年後に2人の子供を連れて安全な場所へと川を下ろうとするサンドラ・ブロックの冒険と「事件」の経過を交互に描いて観るものをグイグイ引っぱって飽きさせない。ひとつの大邸宅の中でサバイバルする集団はアメリカの理想のような人種配分で構成されていて少々鼻白むも、怪優ジョン・マルコヴィッチとトム・ホランダーの参加で一気に引き締められる。個人的には家の所有者がどうやら同性婚をしたとおぼしい東洋人(BD・ウォン)で、監視カメラなら「それ」を見ても大丈夫なはずだ、とまるで『スタートレック』のパイロットのような姿でパソコンモニターに向き合う場面が面白かった……まさかジョージ・タケイへのオマージュ?
 「見る」(あるいは「見ない」)ことがテーマなので、役者たちの「目」「眼」「目力」「眼の見え方」が重要になってくる。齢50代半ばで子供を産む女性を演じるサンドラ・ブロックは、メイクを含めていろいろ「いじった」末の未来人間的な目元になっているので、観客は「この女、何かウラがあるのかも」と勝手にミスリードする。あえて「瞳」の異常さを見せる演出もあるが、(誰だって怪しいと思う)ジョン・マルコヴィッチのようにそこにいるだけで「眼力」が違う者もいる。ところで、題名の「バード・ボックス」は、なぜか危険(「それ」)を察知すると騒ぎ立てる小鳥(インコ)を入れている箱のこと。炭鉱夫も大事にしてましたな。もちろん、人類が「籠(カゴ)の鳥」になるしかない未来社会の隠喩でもあるのだろう。

 人類を襲った「それ」が何かはまったく説明されない。セリフでは「クリーチャー」と言っているが、姿も見せることはない。与えられるヒントは、見た者は「肉親(?)の声を聴き」「自殺する」。精神病院の患者は見ても大丈夫(なので目隠しなしで暴徒化している)、そして、もちろんもともと目が見えない者=盲人は生き延びている。
 それは「現実を見てしまったものは自殺するしかない」という現代社会批判と取れなくはない。そして、生きていくには、外に出る時は目隠しをし(現実から目をそらし)、家では窓から外が見えないようにしてひっそり暮らせ。つまり、「精神病患者と盲目」以外はネットフリックスでも見て暮らせ、といいたかったのかもしれない。
 とにかく、『宇宙大戦争』×『ミスト』×『LOST』×『ウォーキング・デッド』+『激流』な世界を、デンマークのドグマ95の生き残りらしい『ナイト・マネジャー』の監督スサンネ・ビアが見事に描き切る。撮影は『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズのサルヴァトーレ・トチノ。劇場公開しても大ヒットしたに違いないと思うが、シネコンの帰りに皆が目隠し運転したら今より大問題になったかもしれない。
 ちなみに、劇中では窓を黒く塗った車でカーナビを見ながら運転する。自動運転車があったらよかったのに、と自動車会社が宣伝に使いたがるかも、ね。

By 無用ノ介