KIZU-傷-

ロスでもボストンでもNYでもマイアミでもない。ディープ・サウスでも、テキサスでもない。いままで取り上げられることのなかった退屈なアメリカ、真ん中あたりの恐ろしい真実をじわじわと見せつけてくれる!

Sharp Objects
2018年 アメリカ カラーHD 55-61分 全8話 HBO スターチャンネルで放映。
原作:ギリアン・フリン クリエイター:マルティ・ノクソン 監督:ジャン・マルク・ヴァレー
出演:エイミー・アダムス、パトリシア・クラークソン、クリス・メッシーナ、エリザ・スカンレン、マット・クレイヴン、ヘンリー・ツェニー、ミゲル・サンドバル、テイラー・ジョン・スミス、マディソン・ダヴェンポートほか

 南部のアーカンソーやテネシーと州境を接するミズーリは、南北戦争でも南軍支持と北軍支持に分断された。まさに中間的なアメリカで、住民も自分たちこそ典型的なアメリカ人と思っているような地域。この地域の南の端にあるウィンド・ギャップ(架空の町)は、のどかで退屈すぎる小さな田舎町だ。その町で少女の殺人事件があり、続いて同じ年頃の少女が失踪する事件が起こる。
 セントルイスの新聞社の編集長フランクは、記者のカミール・プリーチャーを呼びつけて、その町に取材に行くように命じる。「連続殺人になるかもしれん」。ウィンド・ギャップはカミールの出身地なのだ。しかし、カミールは全く乗り気でない。
 カミールはのっけから問題を抱えた美人さんとして登場する。崩れかけた黒人地域のぼろアパートで、自堕落な生活をしている彼女は完全なアル中。自傷行為で入院していた過去もあるらしい。そんな彼女の心の闇の原因の一つは、仲の良かった妹をなくしたことと、支配的な母親との確執にあるらしい。だから、里帰りなど彼女には迷惑な話だったのだ。彼女の現状を心配している編集長は、もちろんそれを承知で彼女を呼び出したのだ。育った町で、過去の自分に対峙することが、彼女を変える端緒になると信じて・・。
 しかし、いやいや地元に帰ったカミールの様子はやはり変だ。しかも彼女がたどり着いた実家はとんでもない豪邸。実は彼女の実家は、この町の唯一の産業である養豚場を仕切っている町の支配者であり、母親がその当主(再婚した夫は婿殿)なのだ。町の住民は全員知り合いで、噂話だけが生きる糧のように見える。そんな町でただ一人、本気で失踪した少女探しているように見えるのが、カンザスから来たよそ者の刑事。カミールは、その男に近づいて情報を引き出そうとするが・・。
 原作は、デヴィッド・フィンチャーが映画化してヒットした「ゴーン・ガール」の原作を書いた作家ギリアン・フリン。「ゴーン・ガール」以前に書いたデビュー作だという。
 しかし、最初に目を引くのは美しい映像と、記憶や幻想と現在を区別なくつなぐ編集手法だろう。分かりにくさはあるが、斬新で、カミールのような精神的な問題を抱た人の意識を的確に表現している。女性同士のセレブな足の引っ張り合いを美しい映像で描いた「ビッグ・リトル・ライズ」でディレクターを勤めたカナダ人、ジャン・マルク・ヴァレーが監督としてクレジットされているので納得。ヴァレーには「ヴィクトリア女王 世紀の愛」のほか、名作「ダラス・バイヤーズクラブ」という実績もあるので信頼できる。
 話が進むと、今度は内容の真の恐ろしさにゾクゾクしてくる。街全体を自分の所有物のように扱う、カミールの母親アドーラ。アドーラが再婚したアランとの間にもうけた、若い娘(カミールの父違いの妹)アマ。家族の友人で、カミールに優しいがアル中のジャッキー。アマの友達の姉で、異常な自己顕示欲を見せる、被害者ナタリーの兄ジョンの恋人アシュリー。どこまで行っても女性達が主役のドラマである。
 ギリアン・フリンと共に脚本を仕上げたクリエイターのマルティ・ノクソンは、なんとあの過激な女性テロドラマ「ダイエット・ランド」を手がけた脚本家。なるほどと納得させられた。
 主演のエイミー・アダムスは、ディズニー映画「魔法にかけられて」や「ダウト〜あるカトリック学校で〜」「アメリカン・ハッスル」「ビッグ・アイズ」「ジャスティス・リーグ」などで知られる人気女優。とても40代とは思えない美貌だが、バーンと張った腰回りは、中西部の女の感じはよく出ている。基本自傷行為をするタイプには見えないが、今回は一皮むけて、いままでの役柄を思い出させない。
 母親アドーラ役のパトリアシア・クラークソンの南部出身らしい威厳は、大変役にはまっていてすばらしい。また、アマを演じた、オーストラリア出身のエリザ・スカンレンもまだ19歳だが、時に無邪気で時に悪魔的な少女をまったく自然に演じこなせている。
 物語に登場する、カミールの義理の父アラン(「ゾンビーノ」や「特攻野郎Aチーム」のヘンリー・ツェニー)、町の警察署長ビル(マット・クレイヴン)などどこか諦めたような町の男達は、みな陰が薄い(二人ともカナダ人俳優)。よそ者で、真面目に事件に取り組むが、閉鎖的な町に壁を感じる刑事リチャードは、男では主役級だが、結局事件に関してはまさに脇役でしかない。「ニュースルーム」であまり印象に残らない放送局のCEO(オーナーの息子)を演じていたクリス・メッシーナが、これまた淡々と演じている。
 音楽もこだわりが感じられる。
 主人公カミールが大音響でかけるのは、レッド・ツェッペリン!リハビリ病院に入院中、親しくなったルームメイトの少女(のちに自殺)が遺品として残したスマホに入っていた音楽で、今も心の支えだ。
 オープニングのテーマ曲は回によって変わるが、全体のテーマとしてはフランツ・ワックスマンが手がけた、1949年の名作「陽のあたる場所」のサウンドトラック<Dance and Angela>が流用された。また彗星の如く現れた実験的DJ集団<The Acid>が手がける楽曲が効果的に使われており、特にエンディングで使われた<Tumbling Lights>は実に恐ろしい。

 ドラマは、半ば嫌な予感が当たり後味の悪い終盤を迎えるが、さらにあっと驚くオチもつく。その意味でも最後まで見る価値は十分だ。

by 寅松

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