謗法〜運命を変える方法〜
人を呪い殺す悪鬼は、やっぱり日本から入ってきたらしい!(笑)
2020年 韓国 カラーHD 60分 全12話 Lezhin Studio/tvN
クリエイター:ヨン・サンホ 監督:キム・ヨンワン
出演:オム・ジウォン、チョン・ジソ、ソン・ドンイル、チョ・ミンス、キム・ミンジェ、コ・ギュピル、キム・ジュア、キム・イングォン、キム・シンロク、チョン・ムンソン、イ・ジュンオク ほか
映画『新感染 ファイナルエクスプレス』(2017)で、ソンビホラーの新境地を開拓したヨン・サンホ監督がクリエイターを務めた。土着的な「呪い」とSNS社会の根底渦巻く嫉妬や恨みの感情をリンクさせたホラーを志向した作品。ネット企業と悪鬼と呪い・・とは確かに斬新な取り合わせだ。
本来なら、このようなホラー系は、本来OCN(オリオンネッットワーク)の特技だろうが、この企画はウェッブトゥーン企業として有名なレジンが、動画制作に参入したものらしく、韓国ではtvNで放映された。
原題の「謗法」(방법:パンボプ/日本語読みは、ほうぼう、ぼうぼう)というのは仏教用語である。「誹謗正法」を略した言い方で、簡単に言うと、仏法の正しい教えを軽んじて、非難したり、罵ったりすることで、「成仏」するのを妨げることを言う。
韓国でも同じ意味かはわからないが、要するに「成仏できない行い」という部分を拡大したのか、ドラマの中では、日本で言う「呪い殺す」ことを指している。
童顔の女子高生が出てきて、真顔で「謗法します!」と宣言する絵面は、若干日本のアニメを思わせる。『豚の王』などのアニメ監督としてスタートした、ヨン・サンホならではのキャラクター設定だろう。
10年前の釜山郊外の田舎の村。依頼者から金を取って、その恨む相手を「謗法」してきた巫女シ・クヒ(キム・シンロク)がいた。ただ、実際に「謗法」をするのは、彼女の幼い娘であった。少女は、すごい力を持っているのだ。しかしある夜、庭の縁台で酔っ払っていたクヒは、尋ねてきた怪しげな女と、その部下によって惨殺され、家には火が放たれた。こっそりと家を抜け出して逃れた幼い娘は、母を殺しにきた女と、部下を後ろで見守っていた中年男の姿を目に焼き付けていた。
話は現在に飛び、正義感の強い新聞記者のイム・ジニ(オム・ジウォン)は、上場を控えた新興IT企業「フォレスト」の元社員への暴行事件を追っていた。ようやく、その証言インタビューを録ることに成功したジニだが、その元社員は不可解な交通事故で殺され、新聞社の上司キム・ジュファンに、勝手にフォレストの関与を否定する記事を掲載されて取材に蓋をされてしまう。
一方、ジニの真面目すぎる夫で刑事のチョン・ソンジュン(チョン・ムンソン)も、フォレストがらみの事件を追っていたが、行き詰まっていた。上司からは、推薦書類を渡されて、警察大学校の教師職を検討するように言い渡されている。以前の事件で足を撃たれたソンジュンは、今も片足を引きずる不自由な体で刑事を続けていたからだ。
ジニは、向こうから連絡してきた高校生のペク・ソジンと喫茶店で会う。ソジンは、自分は「謗法師」であると明かし、「フォレストの代表チン・ジョンヒョク(ソン・ドンイル)は、悪鬼が取り付いた存在で、法の力では止めることができない。このまま放置すれば大変な事態になる。謗法するしかないので、力を貸して欲しい」と訴える。
ソジンの謗法は、古典的な謗法師とは違い、対象の写真、漢字名、所有物があれば簡単にできると言うのだ。信じてもらうために、この場で誰かを謗法するというソジンにジニは、呆れ顔でその場を立つが、「必ず必要になる」と送られた携帯番号は保存した。
後日、会社でキム・ジュファンを問い詰めたジニは、実はジュファンがフォレストの買収で記事を握りつぶし、ジニに暴力を振るったことで、初めて事態の深刻さを知るとともに、堕落したこの男に殺意を抱く。とっさに、部長室の机の上にあったジュファンの万年筆のキャップをポケットに忍ばせた。
記者と刑事。夫婦チームがぞれぞれに、疑惑のIT企業フォレストを追うと、フォレストが立ち上げて人気となっているSNS「呪いの森」の存在が明らかになってくる。「呪いの森」は、登録者が誰でも自分が恨む人物を、写真付きで登録でき、その相手を呪って欲しいとリクエストできるSNS。代表、チン・ジョンヒョクの狙いは、この「呪いの森」で他人を呪う多くの人の「承認」を集めることだということだったのだ・・・。
太古からある呪術や呪いの感情と、他人へのそねみや反感があらわになりやすいSNSの世界。これを結びつけるアイディアはいいが、正直具体的な結びつきを、納得がいく説明で繋ぐのが難しい脚本ではある。
そのあたりを、ヨン・サンホは、様々な立場の人間、ジョンヒョクを助ける巫女チン・ギョン(チョ・ミンス)や、韓国内有数の呪術の専門家で大学の民俗学教授、タク・ジョンフン(コ・ギュピル)に「呪術」の歴史的な背景を語らせることで、深みを持たせようと腐心している。
ソジンについている神、そして最後にはチン・ジョンヒョクについている神も、元々は同じ呪いの神であることがわかるのだが、その由来は日本の「犬神」であるというのも面白い。
韓国にはもともと存在しなかった人を呪う神(悪鬼)は、日本から日本人部落があった釜山へ輸入され居着いたらしい。「神降し」が得意な巫女のシ・クヒはこの神を誤って娘に降ろしてしまったらしいのだ。
「犬神」は中で説明されている通りの悪辣な呪いの神だ。大分や島根、山口、四国などのど田舎では、根強く残っていたようだ。平安時代にはすでに禁令が出た「蠱術」(こじゅつ)の一種で、民間に広まっていったものだという。
具体的には、飢餓状態にした犬が死ぬ間際に、餌を目の前においてくらいつかせた途端に首を切るなどして、怨念を込めたアイテムを作り、それで対象を呪うもの。ワンちゃんは伝統的においしい食材であった韓国人から見ても、あまりに恐ろしく野蛮な信仰だろう。
「犬神」を呪いの森の象徴である、呪いの木みたいなものに乗り移らせるために日本から呼ばれたのは、表向きは妖怪画家(水木しげるか!)として活動する呪術師・大友先生というのもご愛嬌だ。
また、人間を描くという意味では、高校時代に一緒にいじめの対象となっていた親友ソジン(ペク・ソジンと同じ名前)を庇えなかったイム・ジニのエピソードや、養護施設から通う高校で、当然のように差別/いじめにあうペク・ソジンの日常、身重の妻に叱咤されて警察を退職するつもりだったのに、フォレストの部下に拉致されて殺されてしまうソンジュンの部下、ヤン・ジンス(キム・ドユン)のエピソードなどをうまく盛り込んでキャラクターに厚みを出している。
演技者としては、もちろん主役のソジンを演じたチョン・ジソ(『パラサイト 半地下の家族』)が印象に残るが、大人の脇役もなかなかいい仕事をしている。
特にすごいのは、二人の巫女を演じたチョ・ミンスと、キム・シンロク。
『The Witch 魔女』で、恐ろしいプロジェクトの責任者、Dr.ペクを演じたチョ・ミンスが演じたのが、チン・ジョンヒョクに取り付いた「神」を見出して、その大きな野望に加担しようとする謎の巫女チン・ギョン。もともと美人なのだろうが、執着心が強そうな雰囲気をうまく出している。
「怪物」で、主人公イ・ドンシク(シン・ハギュン)らの同級生で、ムンジュ署の刑事を演じていたのが印象に残っているキム・シンロク。今回は、娘に鬼神を降ろしてしまい、その後悔から酒浸りになる巫女シ・クヒを見事に表現した。シンロクは見込まれたのか、ヨン・サンホ脚本の次回作「地獄が呼んでいる」でも神からの告知を受けるシングルマザー、パク・ジョンジャを演じている。二人とも、巫女としての儀式のシーンの熱演もすごい。
またソン・ドンイルは、神降ろしをされる以前の、情けのなさそうな失敗した中小企業のオヤジと、殺人も楽しそうに見届ける、悪鬼が乗り移った後のチン・ジョンヒョクを見事に演じ分けた。
サブキャラクターだが、「デブオタク」役では必ず出てくるコ・ギュピルが演じたオタクの民俗学者タク・ジョンフン、『タチャ 神の手』や『不倫する理由』など映画の出演も多いキム・イングォンの演じる都市探偵キム・ピルソン、KBSの「ゾンビ探偵」で、バカ探偵事務所の助手を演っていたのが印象的なイ・ジュンオクが演じる、巫女チン・ギョンの気弱な助手、チョン・ジュボン。どれも漫画的だが、印象に残るキャラクターだ。
ドラマは、最後にスカッとは終わらないが、微かな希望を残して終了する。この後シーズン2なのかと思ったら、『謗法:在此矣』という続編が、映画として2021年に公開された。映像がさらに派手になっているが・・とりあえず、ソジンもリターンするようだ!
By 寅松
日本語
映画版『謗法:在此矣』トレーラー