海外ドラマ

ミスター・ベイツvsポストオフィス

笑い事ではない!日本の悪徳企業が引き起こした、英国史上最悪の大量冤罪事件の真相!

MR BATES vs THE POST OFFICE
2024年 イギリス カラー 53分 全4話 Little Gem、ITV Studio/ITV ミステリーチャンネルで放映
脚本:グウィネス・ヒューズ 監督:ジェームズ・ストロング
出演:トビー・ジョーンズ、ジュリー・ヘスモンドホール、モニカ・ドラン、ウィル・メラー、リア・ウィリアムス、キャサリン・ケリー、イアン・ハート、ショーン・ドゥーリー ほか

 実に地味な、事実を基にした再現ドラマである。ほとんど、準高齢者と中年以上の中産階級の男女しか出てこないし、派手な盛り上がりは皆無だ。
 にもかかわらず、ITVによりこのドラマが放送されると、それまでITVで放映された全ドラマの中で最高視聴率記録を誇っていた「ダウントン・アビー」を抜き去り、視聴者数は1000万人に達したという。
 また、このドラマにより、ようやく事件の真相を知った国民から批判が殺到。ドラマの中では、失ったものに対して大した保証金を得ることもできなかった被害者たちだが、スナク首相はこの3月に特別法案を提出して、被害者に一人60万ポンドもの保証をすると説明している。

 話自体は、イギリスの地方の郵便局の、サブ・ポストマスターと呼ばれる個人経営の郵便局長たちが、1999年に導入された「ホライズン」というコンピュータ会計システムの不具合で、横領したとにされて、個人的にその不足分を補てんさせられたり、訴えられたりした問題である。
 実は、この事件はこれまで英国国内でも報道されたりはしているのだが、正直ほとんどの国民の関心を集めることがなかった。なにせ、まず話の内容がわかりづらい。コンピュータの不具合といっても、確な証拠はないし、被害になったの人たちは、正直最下層のかわいそうな人たちでもない。
 非常に保守的な、英国民そのものみたいな、地方の中間層。地域でもある程度信頼されていて、それなりの地位もある郵便局の経営者たちなのだ。貯金も何もかも失った!と悲痛な声をあげる被害者たちの生活も、日本人から見たら随分優雅に見えるからおかしい。(笑)

 日本でも郵政民営化以前は、明治時代に設置された三等郵便局から移行した特定郵便局があり、局長も事実上の世襲で個人が経営する商店のようなものであったが、英国のポストオフィス・リミテッドの地方の郵便局というのも、そんな印象だ。
 そのどれもが、個人商店の傍らで営業されいて、雑貨屋だったりパン屋だったりの一部が郵便局になっていたりする。
 運営は個人に任せられていて、ポストオフィスはその個人たちと契約を結んでいるのだ。実は、ひどいのがその内容で、会計と現金が合わない場合は、有無を言わさず局長が個人で保障しなければならない条項がある。

 この条項をもとに、2000年から2014年までポストオフィスは、3500人もの局長の横領不正を疑い、裁判で700人以上を有罪に、236人を実際に収監した。この件で、自殺した被害者も4人いる。
 しかし、その「不正」「横領」と呼ばれた数字の間違いは、1999年に導入された「ホライズン」というコンピュータによる会計システムが、話にならないバグバグの代物で、リアルタイム・フィックスを行うために、会社側からローカル端末に侵入して数字を修正したりする過程で出たものらしいのだ。
 おいおい!
 そんなアホな!そんなひどいITベンダーあるかいな・・・!

 あるんですね〜。
 その会社こそ、我が国の超大手ITベンダーで、無用の長物マイナンバー・カード計画を強力に推し進めてきた最大幹事会社「富士通」という会社ですな。
 マイナカードの運用でも、コンビニの端末で全く別人の個人情報が出てきてしまうような、信じられないバカ・エラーが続出して、修正してもまた同じ間違いを犯すという犯罪的な無能ぶりを国民に知らしめたあの富士通。(コンビニ端末の運用は、地方自治体案件を扱う「富士通Japan」の担当だが、同社は富士通の100%子会社で、事実上同じ会社。)
 ホライズンを運用しているのは富士通の現地法人。もともとは60年代末に国策で設立された、英国のコンピュータ会社ILC(International Computers Limited)という会社で、ホライズンはもともとそこで開発されたシステムだ。
 富士通は80年代から同社と接近し、1998年には筆頭株主になって2002年に正式に社名を「富士通」としている。とういうことで、まあ、英国人にとっても、100%「日本からはきたバカ会社がやらかした!」という印象じゃないのだろうが・・この隠蔽体質や反省のなさは、日本の富士通を見ていてもよくわかる、この会社に共通する根本的な問題だろう。
 
 しかし、この製品のしょうもない出来栄えとともに、この冤罪事件をさらに大きくしたのがポストオフィスの体質。
 2019年までポスト・オフィスのCEOを務めた、ポーラ・ヴェネルズ(リア・ウィリアムス)というおばさんがえぐい。自身は、国教会の司祭でもあり、最後にはポスト・オフォスの発展に努めた功績により、大英帝国勲章(CBE)を授与された超セレブだが、「ポスト・オフィスのブランドを守り抜く!」と宣言して、会計の合わない局長を片っ端から起訴した張本人だ。(笑えることに、さすがにこのドラマが放映されると、この人の勲章を取り消すべきだという嘆願書に請願書に100万人以上の署名が集まってしまい、返納されることになった。)
 しかし、こんなに続々と会計不一致や横領が報告されていて、おかしいと思わないとは考えられない。
 なにしろ、ポスト・オフィスには、ホライズンの不具合の都合い合わせに対してのマニュアルがあり、必ず「その問題は、そちらでしか起きていない」と答えることになっていたのだ。
 ポーラと、その部下のアンジェラ(キャサリン・ケリー)は、最初からホライズンの欠陥を把握していて、そのことを指摘させない目的で、次々起訴を起こしたということになる。
 英国のポストオフィスは、警察の力によらず、独自に横領などの捜査権を持つというところもこの件を大きくしたように思える。

 兎にも角にも、訴えられた郵便局長たちにの方はふんだり蹴ったりだ。
 そもそも、コンピュータなどというものとは縁がなかった、田舎の真面目なことが取り柄のおじさんおばさんばかり。コンピュータ画面で勝手に、不足額が増えたりしても驚くばかりで、どうしようもない。
 ポスト・オフォスの本体に問い合わせると、「そちらだけで起きている一時的なものだ」と説明されたり、「とりあえず自分で穴埋めしてくれ」と言われたりする。
 最初のうちしたがっていると、そのうちとんでもない金額に膨れ上がる。そうすると執行官が突然やってきて、「自分で保証できないなら、局長を解任して責任を取らせる!」と宣言。自分の店や自宅を取り上げられて、貯金なども全て召し上げられてしまうのだ。これじゃ詐欺みたいなもんだ!?
 しかも、高圧的な執行官に、横領を認める書類にサインをさせられると、即座に起訴までされることになる!

 ただこの事件の初期の被害者の一人、アラン・ベイツ(トビー・ジョーンズ)という人物は少々変わり者で、頑固者だった。ウェールズのラランドゥドノ(ウエールズ読みでスランディドノ)と言う町で局長を勤めていた2004年に、最後までホライズンの不具合を主張、その調査を求めたために、強制的に解雇され、妻のスザンヌ(ジュリー・ヘスモンドホール)とともに、田舎の一軒家に引っ越さざるを得なかったが、諦めずに資料を保存し、政府や報道機関に苦情の手紙を送り続けたのだ。
 ある時、同じような経験をしたという人物が登場したのをきっかけに、以前手紙を送ったコンピュータ・サイエンス誌が記事を掲載。最初の7人の局長の名前が知れ渡ると、ベイツは妻とともに行動を起こす。
 被害者たちの居住地のちょうど真ん中あたりに位置する、ファニー・コンンプトンという田舎町の集会場を借りて、局長たちにミーティングを呼びかけたのだ。数人しか集まらないと、思われたが、ミーティングには続々人が押し寄せるようになる。
 アランが、JSA(Justice for Subpostmasters Alliance:郵便局長組合に正義を)と名付けたこの同盟は、同様の被害者で南ハンプシャーのジョー・ハミルトン(モニカ・ドラン)を助けてきた下院議員ジェームズ・アーバスノット(アレックス・ジェニングス)の尽力、ポストオフィスが任命した中立の調査員ボブ・ラザフォード(イアン・ハート)らの努力で、ようやくポストオフィス側との交渉を始める。が、それも単なる引き伸ばしであることがわかったために、その点を指摘すると、ポストオフィスは一方的に交渉を打ち切り、調査員も解雇されて資料は押収されることになった。
 法的に、郵便局町側が公開を求めたホライズンに関する資料は、日本政府自民党でもおなじみの全面黒塗りのものが届くという、怒り爆発の対応だ。
 しかし、アーバスノットのラジオのインタビューを聞いた事務弁護士のジェームズ・ハートリーがベイツに連絡を取り、さらに元富士通の社員ロール(マーク・アレンズ)がリーク電話をして来たことで、ポストオフィスを相手にした本物の起訴が始まるが・・・。

 結果的にJSAは、起訴に勝訴するが、投資家が用立てた起訴費用を差し引くと、局長たちの手元に戻るのはささやかな金額だった。ドラマで描かれるのは、ここまでだが、このドラマ自体がきっかけになって、国が保証に乗り出したのは明るいニュースだろう。
 しかし、これまでのところ、ポストオフィスはおろか、欠陥システムをリリースした富士通でも誰一人、責任を取っていないということらしい。

 物語で大変印象的だったのは、ITシステムの問題なのに、誰一人専門的な話をする人が出てこないこと。
 少なくとも、ここまでバグだらけのシステムが流通していたら、日本なら画面をそのまま録画してYoutubeで、技術的な欠陥を指摘する人が出て来そうだが・・・英国郵便事情に関わる人は、局長たちはもちろんポストオフィスのトップも徹底的に文化系で、「ホライズンには欠陥がある!」と主張するか「ホライズンは堅牢で間違えない!」というかのどちらかしかないかないところだ。(笑)
 もちろん現実にそうだったのか、監督のジェームズ・ストロング(「ブロードチャーチ〜殺意の町〜」「ドクター・フー(2006~2009)」)と脚本のグウィネス・ヒューズ(「ヴァニティフェア」「黒衣の天使 〜女性連続殺人鬼メアリー・アン・コットン」)が、コンピュータの話を出さないという判断をしたのかはわからないが・・。
 事件の方は、救いのない酷い話なのだが、さっさとウェールズの田舎に引っ込んで、素晴らしい景色の中でビールを飲み、英国流のユーモア溢れる会話を楽しみながら、20年間も趣味のようにポストオフィスとの戦いを続けたベイツ氏とスザンヌの夫婦の生き方には、誰でも感心させられるだろう。
 ベイツ氏を演じたトビー・ジョーンズは、小柄で印象的な風貌のため、ファンタジーやSFでも活躍する怪優!(『ハリー・ポッター』シリーズでは、CGの妖精トビーを演じている)一方では、『裏切りのサーカス』のティンカー(パーシー・アレリン)役など、深みのある役でも定評がある。
 スザンヌを演じた、ジュリー・ヘスモンドホールは、21年の「秘密同盟〜空白の殺人事件」や「ハッピー・バレー 復讐の町」「ブロードチャーチ」などでも知られるが、もともとは、ITVの「コロネーション・ストリート」というロングラン作品で有名になった女優さんである。

 このドラマの教訓はただ一つ!

 とにかく富士通などという会社の技術力は信用してはいけない。

 マイナカードを国民に強要した河野太郎バカ・デジタル相は、そのうちポーラ・ヴェネルズをしのぐ、日本国民の間抜けぶりを象徴する人物になりぞうだ!

By 寅松