海外ドラマ

ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜 (パート1/2)

Netflix世界ランキングでついにNO.1となった韓国ドラマ!しかし、この終わり方は???!

더 글로리/The Glory
2022/2023年 韓国 カラー2:1 73分 全16話  Hwa & Dam Pictures/Netflix Netflixで配信
クリエイター:キム・ウンスク 監督:アン・ギルホ
出演:ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン、イム・ジヨン、ヨム・ヘラン、パク・ソンフン、チョン・ソンイル、キム・ヒオラ、チャ・ジュヨン、キム・ゴヌ、パク・ジア、キム・ジョンヨン、チョン・ジソ、チョン・ジソ ほか

 見ている最中から、そうなるよな〜と思ったが・・・、ついにNeflixのTVショー部門で全世界の1位(2023.3.14)を獲得した。アメリカでは3位だが、日本を含む38カ国で1位を獲得している。勢いのある韓国ドラマだが、日ごろよく使われる肩書きは、(「イカゲーム」のような特殊なものを除けば)「Neflix非英語圏ランキング1位」がほとんどなので、これがいかにすごいことかはわかるだろう。本当に世界を制覇したドラマということになってしまった!

 クリエイターのキム・ウンスクは、地上波のSBS専属脚本家からスタートし、2010年の「シークレット・ガーデン」がヒット、「太陽の末裔」、そしてなんといってもtvNで手がけた「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」の大ヒット、「ミスター・サンシャイン」の高評価で知られている脚本家だ。
 本作の制作会社Hwa & Dam Picturesは、スタジオドラゴンの子会社だが、SBS社時代からキム・ウンスクとともにやってきたプロデューサーが設立し、ウンスク自身も所属するプロダクションなので、キム・ウンスクは名実ともにクリエイターとして関わっているのだろう。
 歴史ファンタジーのラブロマンスもので知られるウンスクだが、あるインタビューでこのドラマを手がけた動機を、「高校生の娘から『お母さんは私が誰かに死ぬほど殴られるのと、私が誰かを死んでしまうくらい殴るのとでは、どちらのほうがつらい?』と聞かれたことに衝撃を受けた」と話している。

 現在ほとんどのシリアスな韓国ドラマの背景にテーマとして存在する、「極端なまでに進行した貧富の差」はもちろん同作のテーマではあるが、ここで描かれるのは、金銭的な格差だけではない。社会関係資本を含む全方位的で徹底した格差、全く機能しない社会システムに阻まれて、絶望的ないじめを受けつづける主人公ドンウン(チョン・ジソ/ソン・ヘギョ)と、彼女のその後の人生に思いを馳せた物語だ。
 ドンウンと、彼女をいじめ抜くパク・ヨンジン(シン・イェウン/イム・ジヨン)ら5人は同じ地方都市の公立らしき高校の生徒であり、家庭の金銭的な格差はあっても、財閥と貧民みたいなマンガ的格差ではない。ただ、地元の有力者で、地元警察の刑事や高校の教員のキーマンにコネを持っていたヨンジンの母ヨンエ(ユン・ダギョン)の悪辣な支配欲と、自分の娘からも搾取しようとするドンウンの実の母、ヒミ(パク・ジア)のおかげでドンウンの高校時代は壮絶な地獄絵となる。彼女の周りでただ一人「まとも」な人間で、あまりのことに意義を申し立てた保健教師アン・ジョンミ(チョン・スア)は、学校をさることになった。(ただ、長い年月の後ドンウンと再会を果たし、彼女の協力者となるのだが。)
 ドンウンは、苦しみから逃れるために死を選ぶことを考えるが、5人組のオモチャとして、自分の前にいじめられていたユン・ソヒ(イ・ソイ)が廃工場の最上階から落とされ殺されたことを知り、残りの人生の目標を、加害者達への復讐に捧げることを誓った。

 キム・ウンスクの脚本は、やや昔風のモノローグが多いが、大変複雑な復讐の過程を過不足なく構築していて感心させられる。物語の中で囲碁の勝負がモチーフになっていて、囲碁の勝負のように少しづつ相手の守りの弱い部分から壊していって、最後に相手を孤独の中に取り残すという、文学的な復讐の過程がゆっくり描かれていく。
 ストーリー的には多少の綻びがないではないとしても、悪役も主人公側も、端役までも、人物造形が完璧になされているために、雑な印象をうけない。
 最初に殺される、ソン・ミョンオ(キム・ゴヌ)を除いても、もともと他人への共感力が一切ない加害者たちーーパク・ヨンジン、チョン・ジェジュン(パク・ソンフン)、パク・ソンフン(キム・ヒオラ)、チェ・ヘジョン(チャ・ジュヨン)ーーは、自分たのピンチで集まっても、お互いを些細なことで罵り合って話が進まない様子は、まさに人間をよく見ていると思わざるを得ない。

 しかしそれでも、実際問題としてこのドラマをここまで強力で世界に通用する精度に仕上げたのは、監督アン・ギルホの力に違いない。
 韓国ドラマにおけるサスペンスの金字塔である「秘密の森〜深い闇の向こうに〜」と「ウォッチャー 不正捜査官たちの真実」を手がけた彼の手法は、実にオーソドックス。特に、細部のリアリティを確保することに手抜きがないのは、いつも感心させられる。ヨンジンの名札が、殺害の証拠になるように見せかけて、実は証拠能力はない・・ので単に証言を引き出すための餌にするなど、実に細かい部分も、視聴者に見透かされないような配慮がなされている。


 
 もちろん出演者の演技も賞賛されるレベルであったことはいうまでもない。主演ソン・ヘギョとイ・ドヒョン(チュ・ヨジョン役)、ヨンジンの夫、ハ・ドヨンを演じたチョン・ソンイルも動きの少ない演技が要求され、難しかったろう。
 悪役の演技のキレは、もっとわかりやすい。何にでもすぐキレる、甘やかされたジェジュンを演じたパク・ソンフンも熱演だったが、世界が驚いたのは、これまで美人さんを演じてきたイム・ジヨンの悪辣な変貌ぶりだったろう。最後までイき切った演技だった。
 演劇出身で、ポン・ジュノの映画『殺人の追憶』が映像デビューという実力俳優、ヨム・ヘラン(「ディア・マイ・フレンズ」「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」「悪霊狩猟団:カウンターズ」)が、「おばさん」「奥様」と呼び合う、ドンウンの数少ない最初からの協力者カン・ヒョンナムとして登場するのも嬉しい。実に多くの感情を内に秘めた人物を、彼女ならではの演技力で表現していた。
 アル中のドンウンの母親を演じたパク・ジアも迫力があった。
 実際にいじめ抜かれるドンウンの高校時代を演じた、チョン・ジソと、ヨンジンの高校時代を演じたシン・イェウンもいい。
 子役からスタートし、『パラサイト 半地下の家族』で世界的な名声を得たのち、ヨン・サンホ監督「謗法〜運命を変える方法〜」で主演を務めたチョン・ジソは、髪型で実にロリ顔になるが、(2023年3月現在)23歳。暗い演技は特にうまい。
 「A-TEEN[」でデビューし、「彼はサイコメトラー」「おかえり〜ただいまのキスは屋根の上で!?」などアイドル的な役柄が多かったシン・イェウン(25歳)も、この悪役で一皮むけたようだ。もともと典型的なアイドル顔だが、笑い顔にほのかな意地悪さが透けて見えるところが、このドラマでは役立っている。

 ドラマは、復讐をあらゆる面で終結させたのち、チュ・ヨジョンの元を去ろうとするドンウンを意外な人物が引き止め、今度はドンウンがヨンジョンの協力者としてタッグを組んでその恨みを晴らしに進む、ブレイキング・バッド調の展開で幕を閉じる。
 その復讐劇は描かれないが、そういうエンディング自体はあるだろう。
 ただ、どうしても解せないのは、その最後の計画をスタートさせる前に、まず一度連絡を絶ったおばさん(チュ・ヨジョン)をメールで招集する場面が描かれ、さらにはこの部分だけ登場する刑務所の受刑者を登場させ、意味ありげにヨジョンが取引を持ちかけることだ。この受刑者を演じているのが、「謗法〜運命を変える方法〜」では主人公ジニの夫でソドン警察署強力チーム長ソンジュン、「賢い医師生活」では、胸部外科レジデントのト・ジェハクを!さらにNeflixで放映されているJTBCの最新作、「離婚弁護士シン・ソンハン」主人公ハンソンの親友ジョンシクを演じているチョン・ムンソン。大俳優というほどではないかもしれないがミュージカル界では大物で、いくらなんでもこのシーンだけのために呼んだとは考えにくい俳優である。
 全く発表されていないが、シーズン2はとのかく、パート3の10話くらいは計画されているのかもしれない。
 
 本作の監督のアン・ギルホに対して、放送後に「アンギルホ監督から学生時代に暴行された」という投稿があり、「いじめをした人がいじめのドラマを作るのか」という批判が上がったという報道があったが、この件に関してギルホ法的代理人は「アン・ギルホ・プロデューサーには1996年のフィリピン留学時に交際を始めた女性がいたが、この女性が自身のことで学校でからかわれたという話を聞き、瞬間的に感情が抑えられなくなり、他人に消すことのできない傷を与えた」と発表し、この事実を認めたという。
 このドラマをちゃんと見ればわかる通り、アン・ギルホ監督が描いたのは、「校内暴力は道徳的にゼッタイダメ!」というドラマではない。むしろ、自分が受けた仕打ちには、自分の力で復習するしかないのだというドラマである。
 もちろん言ってることが嘘でなければではあるが、その意味では、アン・ギルホは、少なくとも終始一貫した人物なのは間違いない。

By 寅松