刑事ファルチャー 失踪捜査

長い長い長い、犯罪物再現映像のような実話ドラマ!

A Confession
2019年 イギリス カラーHD 45分 全6話 ITV Studios Urban Myth Films
/ITV WOWOWプラスで放映
原作:スティーブ・ファルチャー クリエイター:ジェフ・ポープ 監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
出演:マーティン・フリーマン、イメルダ・スタウントン、シヴォーン・フィネラン、オウェイン・アーサー、メイミー・マッコイ、ジョー・アブサロム ほか

 出だしから映像が生ビデオ画質で違和感があるが、これは手法としてわざとやっている。ほとんどが手持ちカメラ、カメラズームも頻繁に行われる。<The Office>などで有名になったモキュメンタリーともいえるが・・TVドキュメンタリー/ニュース映像を見ている感覚で、ドラマを見ることになる。
 感覚的には、すごく長〜い長〜い、実話再現ドラマを見ている感覚だ。
 2011年に、ウィルトシャー州スウィンドンで発生したシアン・エマ・オキャラハン(22歳)の実際の行方不明の捜査、さらに途中から浮上した犯人が連続殺人犯である可能性を確信した捜査官、スティーブ・ファルチャー警視の目を通して描かれた原作を元に、多くの証言を再検証してまとめ上げたもの。ITVの「ロンドン警視庁コリン・サットンの事件簿」や「適切な大人〜連続殺人犯フレッド・ウェストとの対峙」、NDRの「死を招く森〜引退刑事ベトゲの執念」の系列と言える作品だろう。

 完全に実話なので、出だしはそれこそ何気ない。母親エレイン(シヴォーン・フィネラン)ですら、「友達の家にでも泊まったはず」とその失踪を認めようとしない時点から、シアン(フローレンス・ハワード)と同棲していた恋人ピート(デレック・リデル)とシアンの兄リアム(ジェイク・デイビス)が心配して警察に通報する。
 この事件に最初からかかわったのが、ウォルトシャー署のスティーブ・ファルチャー警視(マーティン・フリーマン)である。
 捜査の過程は、ごくごく一般的だが、ファルチャーたちは早い時期に街頭の防犯カメラの記録から、シアンが車に乗った可能性を割り出し、さらにその車がクリストファー・ハウエル(ジョー・アブサロム)という運転手のタクシーであることを確認する。
 本来は、ハウエルを尾行してシアンの居場所を特定するつもりが、疑われていることを察知したハウエルが大量の鎮静剤を購入したことで、自殺の恐れがあると判断してファルチャーは、捕獲を命じた。
 ドラマ第2回目にして、なんともう逮捕をしてしまうのだ。

 問題はここから!普通の手順なら、ハウエルに弁護士をつける権利や黙秘の自由を説明して、署に連行し、弁護士を待って型どおりの尋問をすることになる。が、その場合は、誘拐された被害者がいる場合、(積極的にではないにしろ結果としては)その命は見捨てることになってしまうのだ。
 後から出てくるIPCC(警察の苦情に関する独立調査委員会)の委員などは、「通常通りの取り調べでは、犯人が絶対自白しないとはいえない」と言い放つが、事実上殺人罪で逮捕された被告に弁護士は黙秘を勧めるし、現実問題として被害者が死ぬ可能性が変高い。官僚機構は、被害者家族の気持ちなどは気にかけていないが、2人も可愛い娘がいるフォルチャーには、それだけは許せなかったのだろう。
 自分の責任で、ハウエルを(一度警察の尾行が巻かれた、郊外の寂しい地域)バーバリ城に連れ出し、そこで「このままだと、お前の家族もマスコミにつけまわされて大変なことになるぞ」とやんわり脅して、自白を引き出す。
 ハウエルは、シアンの遺体をしてた場所へ車で案内し、驚いたことにさらにもう一つの遺体を捨てたという場所まで案内したのだ。
 ハウエルの示した場所からほんの少し離れた場所ではあったが、そこから発見されたのは、シアンの母親が住んでいる恋人ピート(デレク・リデル)の家のすぐ隣に住むカレン・エドワーズ(イメルダ・スタウントン)の娘、ベッキーの遺体だった。
 20歳のベッキーは薬物中毒で、2003年に行方が分からなくなっていた。母親のカレンは、元夫のジョン・ゴッデン(クリストファー・フルフォード)が、少し前にベッキーに会ったと嘘を言いつづけているのを信じて警察に届けを出していなかったが、失踪者捜索サイトに登録していたために特定されたのだ。
 
 裁判で犯人側の弁護士は、ファルチャー警視の尋問が、告発前の被告に対するPACE(1984年警察・刑事証拠法:Police and Criminal Evidence Act 1984)の手順を逸脱していると主張。ファルチャーは、尋問の時点で被告の生死がかかっていたため、当然の例外だと主張するが、これまで民事しか担当したことのなかった女性判事は、ファルチャーの尋問に不備があるとして、その証拠を認めず、ハウエルは2012年にシアンの殺害の罪だけで、25年を言い渡される。
 そもそも、ベッキーの失踪について嘘をついて捜索願いも出させなかった父親のジョンは、この判決に怒り、警察苦情処理委員会(IPCC)にファルチャーを訴える。ファルチャーの行動がなければ、ベッキーの遺体が見つかることさえなかったというのに・・。呆れたベッキーの母カレンは、PACEの運用を見直すように運動をはじめ、ついには国会を動かすまでになあるが、PACEは改正されなかった。
 2014年にはIPCCがファルチャーを重大な違法行為で有罪と断罪。首にはならなかったが、閑職追いやられたファルチャーは辞職する。
 実はドラマの冒頭で、ファルチャーの有事人で捜査本部副部長のヘイワード(ジョン・トムソン)が、セクハラの苦情を申し立てられて、上層部の奴らにはめられたと・・ファルチャーに言い残して自殺するという事件が起こっていた。元々の所長は、なぜか国境警察に異動になり、新任の所長と副本部長は、無責任な日和見主義者にしか見えない人物が就任する。ドラマでは詳しく説明されないが、これが全体の伏線であるらしい。
 ウィルトシャー警察の上層部は、ファルチャーを厄介払いしたのを見計らって、ハウエルの刑務所内での告白から、森野の中の沼地を捜索して、シアンのブーツ、ベッキーのカーディガン、さらには60点以上の女性物の衣料を発見する。これは裏切った、ファルチャーの元部下、ショーン・メモリー(オーウェン・アーサー)が、世間の注目があるので形だけ進めるべきだと、上層部に取り入って仕切った捜査だった。
 結局のところ、この証拠を元ににベッキー殺害でハウエルは再逮捕され。2016年に裁判となるが、検事はこの証拠だけでの有罪は難しいとして、ファルチャーの証言を証拠として再度提出。新たな判事(ジョン・グリフィス・ウィリアムズ卿)は証拠として認める裁定を出したため、実はソマリアでコンサルタントをしていたファルチャーはイギリスに呼び戻されて、証言台に立つことになる。(警察には恨みがあるがああ、カレンに報いるために戻ったのだ)。
 裁判で、弁護士を立てなかったハウエルは、驚くような主張をし始めるのだが・・・。

 内容は実話で、もともとファルチャー自身が書いた本を元にしてはあるが、追加取材もしてあるようで、客観的な描き方だろうと思われる。多少のバイアスがあったとしても、この警察上層部の、臭いものには蓋という態度には呆れ返る。
 実際のスティーブ・ファルチャーが、今も怒り心頭なのは無理もない。
  PACE自体は、70年代ごろまで大変横暴で、冤罪もたくさん産んできた警察の取り調べに足して、歯止めをかけたもので、全く無用だとは誰も言いはしないだろう。しかし、どんな法律も時と場合による。今や、この法律は、連続殺人犯が、無実を勝ち取って、どんどん犯行を続けるために大変好都合に利用されている状態だ。運用には「捜査官が時として陥る例外的な立場」を考慮すべきだというのがファルチャーの主張である。
 「世間がどう思おうと、私は他の人と同じようにリベラルだ」というファルチャーは、「人の命がかかってる時にどうするんだ!」と言っているわけだ。
 「自分の道徳心」からファルチャーはキャリアを棒にふる方を選んだ。が・・自分のキャリアの方を優先する普通の警察官が見捨てるのは、「人の命」の方である。ファルチャーの行動がなければ、ハウエルは今も世間を歩いていたし、さらに犯行を重ねているに違いない。
 ハウエルは、2人以外にも大勢殺している可能性がある連続殺人犯だと、ファルチャーは断言している。他の殺人をほのめかす電話の会話もあるし、実際に被害者の他に60点もの女性もの衣類を発見しているのに、警察は未だに捜査をしようととはしていない。
 「2011年以降、彼は殺人を犯していないという事実は慰めになる。2011年3月にシアンを、2003年初めにベッキーを殺したのは間違いない。でも、その間に何もないって、本気で言ってるのか?まるで真実味がないじゃないか?なぜこれが英国警察史上最大の、最も長引く、最も精力的な捜査にならないんだ!?連続殺人犯を無視するような警察が存在していいのか!」というファルチャー。
 もちろん、この後に及んでハウエルが連続殺人犯であることが証明されてしまえば、ファルチャーを追い出したIPCCの見解や上層部の判断が追求されることにもなりかねないからだろう。
 まさに呆れた連中としかいいようがない。
 2017年のガーディアン紙のインタビューは、ファルチャーの言葉で、こう締めくくっている。「ある時、自分の娘が誘拐された誰かは、警察に、今後、どんなことが期待できるかを説明される機会を得ます。そしてこう言われるのです。”一般的に言って、明らかにあなたの娘さんを取り戻すことはできません”」ファルチャーは疲れたように首を振った。「あなたの娘さんを取り戻すことはできません!」だよ!

 ドラマでは、本当に色々なドラマ/映画に出ているが、結局ワトスン役のと言われてしまうマーティン・フリーマンが、ファルチャーを演じている。ごくごく地味な普通の人間に見えるのに、ある時限界を超えて絶叫するおかしな人物の役が多い気がする・・・フリーマンだが、スティーブ・ファルチャーの境遇もそんな感じだ。
 「ハッピー・バレー」や「ダウントン・アビー」、「ロックネス」などの名女優、シヴォーン・フィネランがエレインを、『ハリー・ポッター』シリーズやマレフィセントでも知られる大女優、イメルダ・スタウントンがカレンという対照的な被害者の母親を演じている。
 「イーストエンダーズ」や「ドクター・マーティン」のジョー・アブソロムが犯人、ハウエルを演じた。
 また、端役だが巡査として、「警視ファン・デル・ファルク」のルシエンヌ役、メイミー・マッコイが登場する。

By 寅松