ザ・ダート:モトリー・クルー自伝<N>

「女王」なんてクソくらえ!「うさんくさい連中(モトリー・クルー)」の「汚物(ザ・ダート)」こそ ほんとの「セックス、ドラッグ&ロックンロール」だ!

The Dirt
2019年 アメリカ カラー スコープ 108分 Netflixで配信
監督:ジェフ・トレメイン 脚本:リック・ウィルクス
出演:ダグラス・ブース、イヴァン・リオン、コルソン・ベイカー、ダニエル・ウェバー

 いわゆるLAメタルの代表的なバンドとされるモトリー・クルーの、「伝記映画」ではなくて「自伝映画」。オリジナルメンバー全員が著者となった「自伝」を元にしている。ただし、本人たちが演じる「自伝」ではなく、ちゃんとした若手俳優たちがメンバーを演じている劇映画なので混乱しないようにね。
 失礼ながらモトリー・クルーは、アルバムも曲も一度も聞いたことないんだが、これは面白かった。世界中で大ヒットしたクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』が、LGBTという(今ではすっかり認められた)タイムリーなネタを扱いつつ優等生的な仕上がりになっていたのに対し、こちらは劣等生、というか徹底的に「ダメ」な奴らだ。「LAメタル」じゃなくて「ダ・メタル」(古い?)。なにしろ、バンド名は「うさんくさい連中」「寄せ集め」の意味(ただし、カッコつけて発音記号が加えられている)で、映画の題名は「汚物」だ!。

 まず、1980年代は最悪の時代だったと紹介されて始まり、冒頭から、毎夜のように繰り広げられていたメンバーたちの乱痴気パーティでドラム担当がグルーピーをクンニし、壮大な潮吹きとともにメインタイトル……あきれるばかりのバカバカしさ、どころか映画史上最低に下品なオープニングだ。『ボヘミアン〜』がクイーンのファンでなくとも楽しめて曲が好きになり最後には感動する形式が用意されていたのに対し、こちらはモトリー・クルー・クルーのファンでさえ思わず引いてしまうだろう下品でデタラメで犯罪的な上、劇中で演奏される曲も(メタルファン以外には)騒音以外の何物でもなく、感動どころか「80年代のLAって本当にデタラメだったんだなあ」と感心するくらいしかない。

 バンドメンバーそれぞれのバックグラウンドも描かれるが、リーダーのベーシストは父親不在、ギタリストは先天的な病気、ボーカリストはただ女とヤりたいだけのヤリチン男……と、それほど感動のネタにはなりにくい。ドラマーは人気女優と結婚するが、さっさと離婚される。バンドが成功したのは80年代前半、全米でコカイン絶賛大流行のころだ。ピエール瀧の1万倍くらいのコカインを吸いまくり、最初のライブでは観客と大喧嘩、レコード会社のディレクターが来ればまずグルーピーにフェラをさせ、ツアーのホテルでは全裸で走り回って逮捕され、ラリって自動車事故を起こして同乗していたハノイ・ロックス(のひとり)を殺し(マジで)、メンバーのガールフレンドとはわけへだてなくヤリまくり、リーダーはヘロインにも手を出してついに心臓停止に!(救命士のおかげでなんとか生き返る)。助言を与えてくれる先輩オジー・オズボーンは、ホテルのプールサイドで小便をなめる(オエー!)。レッド・ツェッペリンの得意技のオマージュでホテルの窓からテレビを投げ捨てる……などなど。
 まさにこれこそ「セックス、ドラッグ&ロックンロール」だ。いつもドラッグでハイだけど、IQは最低な感じが素晴らしいし、なんといっても評価すべきは、決して「感動」を求めない節度のある演出だ。監督は『ジャッカス』シリーズの人だそうな。なるほど、それで「品」があるわけだ。メンバーたちは入れ替わりナレーターになり、時にはカメラに向かって説明したり弁解したりする。マネージャーは2人いたようだが、(映画的に混乱するので)1人にまとめたらしく、そのことを「残念だけど、これでよかったと思うよ」とか言ってるが、そのマネージャーが「俺はスコーピオンズ、ボン・ジョビ、キッスも担当したが、モトリー・クルーほどデタラメじゃなかったぜ」と何度も証言するのもおかしい(なぜか字幕は毎回「スキッド・ロウ」を省略してるが)。
 結局、死にかけたリーダーの提案でみなでリハビリして健康になるというばかばかしい展開はどうかと思うが、「自伝」なんだからしょうがない。本当に死んでたら「自伝」もできなかったしね。 

 昨今やたらに音楽伝記映画が作られているが、そのほとんどは、ヤバい部分にフタをして実は「いい人」だったみたいにまとまっている。メチャメチャやって死んじゃったミュージシャンの生涯が、「遺族の承認」のもとに「良い話」にまとめられるのを見るにつけ、こうして歴史は洗濯されて漂白されていくわけか、と鼻白む人も少なくないはず。そんな中で、劇場公開したら成人指定必至の「真実に近い」(に違いない)「自伝」映画が作られたことはまさに画期的、ネットフリックスのおかげだろう。
 ところで、 エンドクレジットでようやく本物のモトリー・クルーの演奏が聴けるのだが……なんだ、意外に良いじゃん。

by 無用ノ介