ナイト・マジック/幻想夜曲
ルイス・フューレイ+レナード・コーエンの不思議ミュージカル
まぼろし度 ☆
1985年 カナダ・フランス カラー ビスタ 94分
監督・脚本・音楽・歌:ルイス・フューレイ 共同脚本・歌詞:レナード・コーエン 撮影:フィリップ・ルースロ
出演:キャロル・ロール、ニック・マンキューゾ、ステファーヌ・オードラン、ジャン・カルメ
夜のモントリオールを舞台に、劇作家と天使たちが繰り広げるSFロック・ダンス・ミュージカル。スペースオペラ風な部分はデヴィッド・リンチの『砂の惑星』(84)とクィーンの「ボヘミアン・ラプソディ」みたいだが、夜のストリートダンス(ロックじゃなくてバレエだけど)場面で濡れた道路にネオンサインが反射する『ストリート・オブ・ファイヤー』(84)を思い出させる撮影はフィリップ・ルースロ。『ディーバ』(81)で仏セザール賞、『リバー・ランズ・スルー・イット』で米アカデミー賞を受けている名カメラマンだ。プロデューサーのひとりミッシェル・ド・ブロカは名作『まぼろしの市街戦』も製作、監督フィリップ・ド・ブロカの元奥さん。第38回カンヌ映画祭で特別招待作品として上映され、カナダの映画賞ジェニー賞で「Angel Eyes」が最優秀歌曲賞を得ている。日本ではビデオ発売されていた。
劇作家のマイケル ( ニック・マンキューゾ ) は脚本・演出・主演・作曲・歌までこなす才人だが、自分の才能に自信がなかった。そこへ宇宙のかなたから3人の天使が飛来する。天使たちは「夢見てるだけじゃダメ、願い事をしなきゃ」と励まし、マイケルは舞台で大成功を収める。天使たちはマイケルを酷評するが、ひとりジュディ(キャロル・ロール)だけは彼を好きになる。2人は結ばれ子供もできるが、マイケルは創作の苦しみからジュディに「家を出て行け」「赤ん坊もいらない」「家など燃えてしまえ」と悪態をついて夜の街へ繰り出す。2人の天使はマイケルの願いをかなえ、2人の家は火事になりジュディは絶望する。数年後、2人は再会するが、複雑な心境のマイケルは「暗殺者を呼べ」と歌う。天使を辞めたジュディを天国からの4人組が襲うがジュディは攻撃をかわして劇場へ走る。が、ジュディが呼びかけたとき銃声が響いた……。
監督・脚本・音楽、マイケルの歌の吹替えもルイス・フューレイが担当している。共同脚本と歌詞はカナダのシンガーソングライター・詩人のレナード・コーエン。「世界が揺さぶられるような誓いの言葉が語られると 世界中の人々が涙にくれる」「マルクスやフロイトのようなテロリストに殺されていない人」など印象的な歌詞が続々登場する。キャロル・ロールは、最初ピーター・パンのような少年的衣装で登場し、天使を辞めると赤いドレスで女性的に変身、愛に悩む元天使という役を熱演している。
ルイス・フューレイといえば……円高が進んで1ドル=210円前後になり、東京に輸入レコード店がいくつも開店し世界中のレコードが気軽に買えるようになった1978年頃、カナダのミュージシャン、ルイス・フューレイは一時好事家のあいだで人気があった。フランスのサラヴァ・レコードから出ているのに、どこかフレンチだけじゃないコスモポリタンな味わいで、歌はなんだかよくわからないがルー・リードが場末の劇場で歌っているような……。バイオリン、バンジョー、アコーディオンなど使われている楽器も一味違った。
それもそのはずで、ルイス・フューレイはカナダ生まれで両親はアメリカ人とフランス人。バイオリニストとして認められてニューヨークのジュリアード音楽院で学んでいたそうな。そんなヒューレイが、フランス映画『メナース』(77)やハリウッド大作『勝利への脱出』(80)に出ていた女優キャロル・ロールと夫婦になって音楽活動をするようになり、アンダーグラウンドから少し地上に出てきた。キャロルのソロアルバムや夫婦で共演したパリでのコンサート・ライブなど、妙によかったなあ。なんだか怪しげなヒューレイの歌と女声ボーカル+コーラスがうまく絡み合って絶妙な味わいで、フランス語と英語が交互に出てくるのも面白かった。そんなころにレコード屋に並んだ2枚組のアルバムが「NIGHT MAGIC」だった。同名映画のサントラ盤と書かれていた。あれ、そういえば、この夫婦コンビの1980年のアルバム「FANTASTICA」にもサントラとあったっけ。
2人の結婚のきっかけは、キャロル・ロールが映画出演で得たギャラで買ったカナダ農場で撮影された小品『L’Ange et la femme(天使と女)』(77)で、映画初出演のルイス・フューレイはキャロル・ロールとセックスシーンまで演じた。監督はカナダ人のジル・カルルで、フューレイは彼の前作で音楽を担当していた。ヒューレイが天使で、暴漢に殺されたキャロルを再生させるラヴストーリー。『ナイト・マジック/幻想夜曲』は天使の性別が入れ替わっているだけの姉妹編ともいえそうだ。『FANTASTICA』(80)も同じ監督・主演トリオで作られている。
ルイス・フューレイはセリーヌ・ディオンの1993年にフランスだけでヒットした曲「ジギー」のPV監督を務めているが、男装(?)のセリーヌ・ディオンがゲイの男の子をストーカー(天使?)のようにつけまわし(シャワールームにまで!)、最後にはキスを得るがなんだか表情は暗いという、なんだか本作に似た展開だった(どこが?)。
The Promise & Marriage March from Night Magic (The System) from Lewis Furey on Vimeo.
by 無用ノ介