海外ドラマ

タッカンジョン

イ・ビョンホン監督の癖の強い変身コメディ!

닭강정/Chicken Nugget
2024年 韓国 28~36分 全10話 Studio N、Plus Media/Netflix Netflixで配信
監督:イ・ビョンホン 脚本:イ・ビョンホン 原作:パク・ジドク(「닭강정」Naver Webtoon)
出演:リュ・スンリョン、アン・ジェホン、キム・ユジョン、ユ・スンモク、チョン・スンギル、キム・テフン、ファン・ミヨン、チョン・ホヨン、ペク・ジウォン、ヤン・ヒョンミン ほか

 あのイ・ビョンホン監督でNetflixが放つ、癖の強いコメディー・ドラマ。そもそも、中小企業社長の可愛い娘が「タッカンジョン」(ちなみに、英語でチキン・ナゲットと訳している「タッカンジョン」は、小さく丸めた鶏揚げに、コチュジャンとハチミツや水飴を加えた甘辛ダレを絡めたもの)に変身してしまったので、社長と、彼女に片思いしている社員が娘を元に戻そうと奮闘する・・どんな話だよ!(笑)
 ネイバーのウェブトゥーンであるパク・ジドクの原作は、蛭子能収の漫画を彷彿とさせる、超二次元オフビート系コミックだ。それを原作にして30分10本のドラマに仕立てた。

 イ・ビョンホン監督の作品は、どれもも奇妙に捻じ曲がっている。
 有名になった、ヒット映画『エクストリーム・ジョブ』は、まあまあわかりやすい映画だが、麻薬捜査をするうちにチキン屋が本業になってしまうというバカ設定と主人公である麻薬捜査班のメンバーの人物設定がヘンテコだ。
 JTBCの連続ドラマ「恋愛体質〜30歳になれば大丈夫」は、タイトルからしてロマンスものなのかと思うと、まったく正反対。映像業界に生きている3人の女性たちの人生の割とほろ苦い日々を描いたドラマである。オープニニングでは、全出演者が一言「愛してる」と告白し、主人公たちが見ている恋愛ドラマでは、なぜか『エクストリーム・ジョブ』でおつむの足りないマ・ポンパルを演じていたチン・ソンギュが、2枚目として登場してロマンスドラマの存在自体をパロディ化してしまう。
 どちらの作品も、登場人物のセリフや考え方が独特で、コメディというより独特のリアリティが感じられるのが特徴だ。

 本作も、ストーリーだけ聞けば、どんなハチャメチャ・コメディかと思うが、笑いのツボは微妙にずれていて、慣れるとそこがクセになる。

 まずおかしいのが、最初の舞台となる会社「モドゥン機械」と、その社員。社長のチェ・ソンマンを演じるのは、『エクストリーム・ジョブ』の主演も務めたリュ・スンリョン。この会社のインターンでほのかに社長の娘、ミナに心を寄せているインターン、コ・ベクジュンを演じるのは、アン・ジェホン。「恋愛体質」でも最終的にジンジェと恋仲になるドラマPDを演じていた。「マスクガール」では、主人公のモミの配信に心酔して、最後には殺される2次元オタク、チュ・オナムを怪演していた俳優だ。
 どうも、イ・ビョンホンはこの2人の役者がすごく好きなようだ。
 もう一人のメガネ社員は、「グリッチ」精神カウンセラーをやっていたキム・ナムヒ。
 ただ漠然と「機械」の会社というだけで、セットにしか見えないガランとした会社で繰り広げられる社員3人のやり取りは、シュール演劇そのものだ。
 ちなみに、早々とタッカンジョンになってしまい、あとは回想シーンでしか登場しない娘チョ・ミナを演じたのは、「マイデーモン」のキム・ユジョン。

 最後には地球上の人間でないことが明かされる4人のスタッフで経営されている、タッカンジョンの名店、「白丁タッカンジョン」での芝居や、クライマックスに山奥の廃屋での3つ巴の死闘も爆笑。
 白丁タッカンジョンのスタッフたちもおかしいが、この店でばったり顔をあわせる、コ・ベクジュンとフード・コラムニストのホンチャ(チョン・ホヨン)が、元恋人同士であったことがわかるシーンなどは、イ・ビョンホンならではの奇妙なリアリティで笑える。

撮影自体は、終始、役者も楽しそうだ!

 イ・ビョンホン監督は、なかなか音楽のセンスも良い。『エクストリーム・ジョブ』では、アクションに使われた音楽が70年代ブラスロックで笑えたが、本作で最後の死闘シーンで使われるのは、韓国の女性シンガーソングライターRIO(리오)が手がけた<Flying in Love (사랑에 빠지다)>という、50年代アメリカンオールディーズ風の1曲。この優雅な曲をバックに、SFマンガ的なスローモーション・アクションが展開される。ここでは悪役のユ博士の甥テマン(チョン・スンギル)が開発したてんとう虫型ロボットがAIで判断して、最後はテマンを攻撃してしまうなど、ひねりの効いたオチもある。

サントラはどれもよい。ベクジュンが、のちにシンガー・ソングライター、イエローパンツとしてブレイクして歌う「タッカンジョン・ラプソディー」などもちゃんと作ってある!

 ちなみに、テマンを演じた怪優チョン・スンギルのほか、「車輪」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」などでも有名なペク・ジウォン、「愛と、利と」「ハピネス」などのパク・ヒョンスは、「恋愛体質」や映画『ドリーム 〜狙え、人生逆転ゴール!〜』などで必ず顔を出しているイ・ビョンホン組の常連のようだ。仲がいいんだろう。
 「その男の記憶法」「先輩、その口紅塗らないで」で知られるが「恋愛体質」で女優イ・ソミンを演じいたイ・ジュビンも好かれているようで、200年前の朝鮮時代の豪族のキム氏の、あぶない正妻役で顔をだす。
(一時期、芋虫に返信してしまったユ博士(ユ・スンモク)が、機械を盗んだ、両班タッカンジョン店長ペダル(ヤン・ヒョンミン)と、毎日部屋で同じドラマ「恋愛体質」を繰り返し見ている・・などという奇妙な楽屋オチも!)

 話の方は、結局のところあっと驚くというより、やはりそうですな・・という話なのだが、こうなると、最後まできになるのがタッカンジョンのその後!

<完全ネタバレします>
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 最後の最後で、「あと1日で戻って来ます」のあと「ただ、我々の1日は地球で50年に・・・」は、ま、SFの基本だからいいでしょう。

 でも、50年後に戻って来たあと、「実は、我々が地球に来て以来250年の間に大量破壊兵器が発明され、地球への渡航が禁止され、すべての機械が破壊されました」「残っているのは、我々の機械だけで、その充電にもう1日かかるため、ミナさんが戻るためにはあと50年かかります・・」って・・・。(笑)

 250年なら、その星では、たった5日じゃないか?その間にすべての機械が破壊されたって話がおかしいだろ!と思うが・・。
 しかも、最後のオチが、「このボタンを押せば、あなたの好きな時代に戻れます」っていうのも・・。

 翻訳が十分ではないようで、イエローパンツ「何十万にも人がいるのに」と呟くが、これはファンのことを心配しているんじゃないのか?
 それにしても、ボタンを押して話が最初に話が戻るって、安易すぎるよなあ!
 いくらなんでも、もうひとひねり欲しいぞ!

 「もうすぐ死にます」でも思ったが、ここまでのレベルのドラマを作っていて、最後のオチが、曖昧なハッピーエンド的なもの縛られるって、韓国ドラマの監督たちを縛っている、呪縛っていうのが謎すぎる・・・。

By 寅松