ソンサン -弔いの丘-
超自然ホラーではない、ヨン・サンホ印作品!
2024年 韓国 39~56分 全6話 RedPeter Films/Netflix Netflixで配信
監督:ミン・ホンナム 脚本:ヨン・サンホ
出演:キム・ヒョンジュ、パク・ヒスン、パク・ビョンウン、リュ・ギョンス、パク・ソンフン ほか
同名のカン・テギョンのウェッブ・コミックがあるが、原作ということではなくコミカライズ的なことらしい。あくまでヨン・サンホが考えたストリーだろう。
原題の「선산」は漢字で書くと「先山」。もともとが儒教の影響化での土葬文化の韓国では、遺体は木棺に納め、サンヨ(喪輿)と呼ぶ「霊柩みこし」のようなものに乗せて、ソンサン(先山)という先祖代々の墓のある山に運んで埋葬したらしい。現代では99%火葬する日本でも、ド田舎に行くと先祖の墓を祀った山があるが、感覚的にはそれと同じだろう。
日本人でも、全く知らない遠い親戚が死んだら、田舎の厄介な墓のある山を相続することになった・・なんてことは、想像できない話でもない・・。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』Neflixオリジナルの「地獄が呼んでいる」で広く名前を知られるようになったんヨン・サンホ監督は、現在では韓国ホラーの第一人者と言える。脚本を担当したドラマ「謗法」とその続編の映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』も秀逸なホラーだった。
本作の監督ミン・ホンナムは、もともとヨン・サンホ組の助監督出会った経緯もあるので、サンホが脚本を担当して、弟子をデビューさせたドラマと言って間違いはないだろう。
そのヨン・サンホ監督は、もともとは日本アニメからも影響を受けたアニメ監督だったが、そのためなのか、「韓国ホラー」であるものの、単なるエキセントリズムではなく、世界から見た「韓国独自文化に根ざした恐ろしさ」みたいなものを意識して作っているように思える。
今では韓国も、都会ではほとんどが火葬になり、遺骨の収納も団地型の納骨堂が一般的。「ソンサン」は今でもあちこちに残っているのだろうが、「先祖代々、遺体を土葬してきた山を、ある日突然、相続してしまう・・」ことの不条理と不気味さは、日本人でも多少は理解できるだろう。
今回も、ヨン・サンホは、この韓国ならではの違和感をうまくホラー/サスペンスに取り込んだ。全6話の比較的短いシリーズだが、今回は最後まで超自然オカルトには走らなかったのも印象的だ。その意味では、普遍的で映画的な作品になった。
まずもって脚本が素晴らしい。
1話のスタートから、実に短いシークェンスでナレーションや会話に頼ることなく、主人公である美術史の大学講師、ユン・ソハ(キム・ヒョンジュ)の境遇を説明する。おそらくかなり長い間、専任教授にとりたててやるという約束を餌に、じじいの教授にいいように使われてきて、その我慢も限界に近づいている・・仕事の面での立場。イケメンの夫は、浮気の常習者らしく、探偵社から届いた写真は、ラブホテルを出る決定的な証拠だ。
証拠を得て、離婚の腹づもりを決めている彼女の元に一本の電話が入る。自分ではほぼ記憶にない「叔父」が死亡して、地方の警察から唯一の親族である彼女に遺体確認が依頼されたのだ。
ソハの父親は、彼女が幼い頃に家を出たために、彼女は母親とその再婚相手に育てられた。実の父に兄弟がいたかどうかも、自分では覚えていないほどだった。
しかし、嫌がる夫とともに遺体確認に訪れると、彼女は叔父が所有していた一族の「ソンサン」の相続人であると告げられる。そこから、彼女の身の回りでは次々不気味なことが起こり始めるのだ。
一方、現地警察でソハの叔父、ユン・ミョンギルの死亡事件を捜査する刑事たちの構図も凝っている。事件を解決する優秀な刑事はチェ・ソンジュン(パク·ヒスン)で、常に独自の視点で勝手に捜査を進めているように見える。逆に、捜査を指揮する立場にある班長パク・サンミンは、脚が悪いだけでなく指示もいつも的外れで、解決の糸口も掴めない。
もともと、ソンジュンとサンミンは先輩後輩の仲らしいが、今は完全に敵対する立場になっている。徐々に明かされす、その真相もドラマのもう1本の縦筋と言える。
叔父ミョンギルの葬式に突然現れて、自分は腹違いの弟で、ソンサンの相続の権利があると主張する不気味な男キム・ヨンホ(リュ·ギョンス)の予言通り、ソハには、まるで呪われているかのような不運が積み重なる。しかし、その裏にあったのは、一族とその村が隠し通した、家族の大きな秘密であった・・・。
とはいえ、どこまでも韓国のドラマの原動力は、「母ー息子問題」「家族問題」しかないんだな〜と、言う結論ではあるのだが。
ソハを演じたキム・ヒョンジュは、「ウォッチャー 不正捜査官たちの真実」「車輪」などでも知られるが、ヨン・サンホの「地獄が呼んでいる」でも主演の一人の女性弁護士を演じていた。美人なのに、華やかというより、どこか疲れ果てた役どころがはまっている。
聡明な刑事ながら、過去に苦しい家族の問題を抱える男ソンジュンを演じた、ポク・ヒスンは、もともと舞台/映画俳優としてしられ、ドラマでは「マイネーム:偽りと復讐」と、やはり「車輪」でキム・ヒョンジュンと夫婦役で主演している。
ソンジュンへの劣等感と過去の事件からのわだかまりを抱えるサンミンを演じるパク・ビョンウンは、『SEOBOK/ソボク』や「ムービング」など数々のドラマや映画で脇役をこなす俳優だが、ドラマではチョン・ソミンとイ・ミンギのラブコメ「この恋は初めてだから」で演じた、イ・ミンギ演じるセヒの友人で、一緒に会社を立ち上げた社長マ・サングの役が印象的だった。
『ベイビー・ブローカー』にもちょっと出てくるが「梨泰院クラス」の出演が有名なリュ・ギョンスが、へんな髪型とメガネで、名乗り出る腹違いの異常な弟ヨンホを演じている。
ソハのひものような夫で、ヨガの講師をしているヤン・ジェソクを、「グローリー」の加害者の一人、「誘拐の日」でただ一人事件の本質を見抜く優秀な刑事役を演じていたパク・ソンフンが演じているのも面白い。意外に早く殺される!(笑)
脇役でも(チョ・ボア、ロウンの)「この恋は不可抗力」で課長役イ・ボンリョンと爆笑の恋愛駆け引きを繰り広げるチーム長ソグを演じていたヒョン・ボンシクが、怪しい探偵事務所、お助け本舗のキム社長役で登場する。ほかにも、「京城クリーチャー」「Sweet Home2」「クイーンメーカー」「ナルコの神」とひっぱりだこの名脇役だ。
またキム社長の兄貴分で、場末のカラオケビルを所有するヤクザ、テソンを演じていたのは、「客 The Guest」で主人公ファビョンの行方不明の父親を演じていたユ・スンモク。意外に後半活躍する。
全ての真相は暴かれ、事件も全て解決はするが・・・、特に晴れやかな気持ちになるドラマでないことは否めない。
ああ、家族って・・やだなあ・・。
By 寅松