海外ドラマ

IDOL [アイドル:The Coup]

韓国放送時に、のっけから視聴率0%台を記録した、ある意味すごいドラマ!

IDOL [아이돌 : The Coup]/IDOL:THE COUP D’ETAT
2021年 韓国 カラーHD 90分 全12話  JTBC Studio/JTBC Amazon Prime、FOD、Huluで配信
脚本:チョン・ユンジョン 監督:ノ・ジョンチャン
出演:ハニ(EXID)、クァク・シヤン、キム・ミンギュ、EXY(宇宙少女)、ソルビン(LABOUM)、ハン・ソウン、グリーン(REDSQUARE)、チャ・サンウ、カン・ジェジュン、チョン・ウンイン ほか

 何が悪いわけではないが、韓国での最高視聴率が0.75%最低が0.35%という、ほぼ計測不能なほど低い視聴率に終わったドラマ。
 韓国国民にとって心の支えに違いない、世界に通用したアイドル産業の闇の部分など、誰も見たくないということかもしれないが・・・、結果的にアイドルファンの若年層にも、ドラマを視聴する年齢層にもアピールしなかったらしい。

 しかし、結論から言うと、それほどひどいドラマでもない。アイドル産業に興味は持てないが、演出のノ・ジョンチャン(「とにかくアツく掃除しろ!」)は、実際に夢を砕かれたアイドル候補生達のインタビューをモノクロで織り交ぜて、最低限のリアリティを確保している。
 もちろん、短い賞味期限の間に、投資回収を含め商品であるアイドルから極度に搾取しないと成立しない、アイドル産業の本質=「新自由主義/資本主義構想問題」を暴くほどの深みのあるスートリーではない。ありがちな筋立てなのだが、失敗して放置されたアイドルたちが再生して活躍するようなバカ・ファンタジーでもない。
 賞味期限をとうにすぎたアイドル=「マンドル」たちが自分たちのプライドを取り戻すため、事務所に反旗を翻して、「新曲でのチャート1位を実現し、その場で解散を発表する」を目指すという・・商業アイドルの鎮魂歌とでも言うべきお話だ。

 コットン・キャンディーという失敗したアイドルグループは、2番目のグループMARSの大成功で大きくなった事務所スターピースからは忘れ去られて、共同宿舎は与えられているものの、もはやプロモーションもマネージメントも行われていない。たまにメディアに取り上げられても、「マンドル」(落ちぶれたアイドル)と肩書きをつけられる始末。
 共同生活する5人も、それぞれにバイトや個別活動でなんとか糊口を凌いている状態だ。
 メインボーカルのエル(EXY:宇宙少女)は、自分だけのソロとしての生き残りを模索中。ステラ(ハン・ソウン)は、端役にも関わらずTVドラマの出演に振り回され、最年少のラッパー&ダンサー、オ・ヒョンジ(ソルビン:LABOUM)は、不満爆発で酒浸りの日々。ダンサー&ボーカルのチェア(グリーン:Red Square)だけは、母親も有名女優で生活には困らないが、親からは見切りをつけろと厳しく迫られている。
 5人を気にかけてくれるのは、彼らを見出したあ事務所代表のマ・ジンウ(チョン・ウンイン)と、もともと彼女たちの担当マネージャーだったチン・ドゥホ(カン・ジェジュン)だけ。
 それでも5人のリーダーで、作曲の才能があるキム・ジェナ(ハニ:EXID)は、単なる責任感でも、未練でもなく、5人での活動を諦めきれないでいた。
 ジェナの涙ぐましい努力と、チン・ドゥホの協力でなんとか地方の市場のイベントで5人揃っての出演機会を得たコットン・キャンディー。しかし、エルは参加を拒否、イベントは豪雨で中止になり、急いで4人を迎えに行ったチン・ドゥホは交通事故に巻き込まれる。
 同じ頃、代表のジンウが心臓発作を起こす。ジェナの新曲を聴き、5人に最後のチャンスを与える決断をしようとしていた矢先のことだった。
 同時に、頼れる2人を亡くしたコットンの前に、直前にスターピースの共同代表に就任していた、アメリア育ちの無慈悲な経営者チャ・ジェヒョク(クァク・シヤン)が立ちはだかり、残りの契約期間を切り上げて、違約金を支払ってもコットン・キャンディーを解散させるよう言い放つ。
 しかし、なぜか大人気の男性アイドルMARSのリーダー、ソ・ジハン(キム・ミンギュ)が、シェナの曲に興味を示し、ことあるごとにコットンをかばい始めるのだ。
 実は、新しい事務所代表ジェヒョクとジハンは共にアメリカで育ち、個人的な過去の秘密から確執を抱えていた・・。
 
 そもそも、最初から鳴かず飛ばずで5年間も放置されてきたアイドルという設定自体が、かなり難しい気がするが、さすがに「ミセン」の脚本家として名高いチョン・ユンジョンだけあって、登場人物のキャラターが、それぞれの背景も含めてよくできている。
 メンバーそれぞれが、事情や秘密を抱えているために、夢が叶いそうになるごとに、小出しにそれぞれの足かせが現出する構成も古典的だが楽しめる。結末は、想定の範囲だが、不愉快ではない。

 アイドル役の出演者たちは、ほぼどこかのクループに所属しているアイドルだけあって、ダンスに関しては相当な作り込みをしていて、さすがの出来栄えだ。日本のアイドルドラマのように、一瞬見ただけでも、振り付けがぬるすぎて、一気に見る気が失せるようなことはない。
 ただ、逆に見せたくなる気持ちはわかるが、ライブシーンや歌唱シーンがそ運輸されるたびに、かなりフルで流れるのでドラマとしてはかったるい。
 全12話で、長さはいいと思えたが、ステージがふんだんにあるせいか1話が90分というのは、長すぎである。

 アイドル以外では、スターピースの創立者で、ジェナをスカウトして、コットンキャンディーを育てた元代表マ・ジンウを、チョン・ウンインが演じているのがおかしい。いかにも悪顔で最初は冷血な態度をとるが、内心は揺れ動いている・・。チョン・ウンインは、JTBCの2023年最新作「良くも、悪くも、だって母親」では、大統領を目指す、悪徳な元検事総長オ・テスを演じている。
 「アビス」「ゾンビ探偵」などで、いつもかわいそうな役を演じていたコメディ俳優アン・セハが、スターピース社内では、いつも代表やアーチスト、ファンの板挟みになるゼネラル・マネージャー、ユン・セヨルを演じている。新作「キング・ザ・ランド」にも登場している役者だ。
 
 主演したハニ(アン・ヒヨン)は、大手JTBCでのこの作品が散々な視聴率で終わったことで見切りをつけたのだろうか?見た目は、十分清純派でも通用しそうだが、このドラマの前後には「ユー・レイズ・ミー・アップ」という配信プラットフォーム<Wavve>のちょいエロ・オリジナルドラマに出演。
 このドラマの後には、こちらも配信プラットフォームの<Coupang Play>で、18禁であることが大きく宣伝されているオリジナルドラマ「ファンタGスポット」に主演している。
 実は、両作品ともに、内容的にはラブコメなのだが、セックスを前面に出して地上波/CS作とは一線を画した作品だ。

 ハニ(アン・ヒヨン)は、「ユー・レイズ・ミー・アップ」では、あの手この手で初恋の相手だったED(勃起不全)患者を治療しようと奮闘する泌尿器科医師を演じ、「ファンタGスポット」では、逆にセックスでオルガズムを感じたことがなく、恋人からも「不感症」と見捨てられた女性が、性に関するポッドキャストのMCを引き受けたことで、セックスに関する考えを改め、快感を確かめるためセフレとして付き合い出した男性に対する気持ちに目覚める・・・という役をこなす。

ファンタGスポット あらすじ紹介

 最近プライベートでは、10歳以上年上の医師との交際を認めたハニ。
 低視聴率の「IDOL」がまさに自らのアイドルとしての活動にも見切りをつけるきっかけになったのだとしたら・・・、その意味でも、面白い作品と言えるだろうか。

By 寅松

ロング・トレイラー

キム・ジェナとソ・ジハン共同作業シーン