マウトハウゼンの写真家

ナチ収容所のスペイン人たちによる証拠写真を隠せ大作戦!
「ライカを持った死の天使」だったら……

El fotógrafo de Mauthausen
2018年 スペイン からー スコープ 111分 Filmax / Netflixで配信
監督:マル・タルガローナ 脚本:アルフレド・ペレス=ファルガス、ロジェル・ダネス
出演:マリオ・カサス、リシャルト・ファン・ヴァイデン、マカレナ・ゴメス

 少し珍しいスペインによるナチ収容所物。フランスでナチに捕まった共和国側のスペイン人は、フランコ政権からは国籍をはく奪され、逆三角形に「S」と描かれた青いワッペンを胸につけて強制労働に従事させられた。
 オーストリアにあったマウトハウゼン強制収容所には、写真マニアのナチ将校パウル・リッケン(リシャルト・ファン・ヴァイデン)がいて、捕虜を全裸で並ばせると写真映えを考えて立ち位置を変え、雪原の死体を撮るときにはわざわざ照明を運ばせ、収容所の記録写真を撮り続けた。カメラは主にバルナック型ライカ。時には大判カメラや、小型のフォールディングカメラも出てくる。
 本人は記録ではなく「アート」のつもりだったようで、「真実などは存在しない。視点がすべてだ」と写真哲学を語るリッケンは、父親の趣味のおかげで写真に詳しかったスペイン人捕虜フランセスク(マリオ・カサス)を「フランツ」とドイツ風に呼んでアシスタントにして可愛がる。
 虐殺され山積みになった囚人、鉄条網にぶら下がった死体、収容所を見学に来たヒムラー、手足のない囚人や小人、絞首刑の様子など、リッケンが撮影したナチの残虐行為の記録写真の現像・焼き付けを担当していたフランツは、ドイツ軍の敗色が濃厚になったと知り、ネガフィルムを隠して保存しようと決意する。
 囚人仲間や慰安婦にさせられていたスペイン女、好意的なドイツの女性らの助けを得て、さまざまな方法でネガを隠していく。このときに、口笛入りのマーチが流れるのは『大脱走』みたいで少しワクワクさせるのだが、そんな明るさは一瞬だけで、失敗して処刑される仲間もいるわ、主人公フランツも堪忍袋の緒が切れてリッケンに殴りかかって拷問を受けたりする。そして、ついにドイツ軍が敗走した日、主人公はリッケンのライカを奪い、最後の証拠写真を撮って歩くーー。

 イタリアのアート系の監督(カヴァー二とかウェルトミューラーとか)だったら、この写真マニアの将校を中心に、もっと暗く、グロく、エロく、面白い作品になったのになあ、と残念がるしかない。主人公を従軍慰安婦とあそばせてのぞき穴から撮影してる場面まであるのに……その写真すら出てこないのはなぜだろう。知的な教師である小人の男をわざわざ撮影する場面があり、最後に一瞬ホルマリン漬けになった彼が……。など、おそらく脚本にはもっと面白い場面や描写があったのがうかがえる。プロデューサーが、一般受けを考えてカットしたのだろうが、リッケンは残虐行為に手を貸していないと強調されるのも、どうにも生煮えの感が残る。「ライカを持った死の天使」としてリッケンを全面的に描いてくれたら、さぞ面白かっただろうに(ま、面白くちゃいかん、と判断したんだろうけど)。
 俳優たちは全裸&坊主頭になって頑張っている。が、いかんせん、みな体格が良すぎて(かなり減量しているのだろにせよ)どうにもナチ収容所の囚人には見えないのも残念。
 
 マウトハウゼン収容所は、巨大な採石場の上に作られていて、「死の階段」と呼ばれる一瞬でも足を踏み外したら即死必死の長い石の階段があったそうで。階段は出てくるのだが、全体像がないのでどうにもスケール感がない。今時CGで簡単に見せられると思うんだがなあ。ちなみに、同収容所には「ナチ・ハンター」で有名なサイモン・ヴィーゼンタールもいたらしいが、そういう裏話は一切なし。エンディングに、実際に残された本物の写真が出てくるが、劇中のエピソードでいくつもそのポーズを真似していたのが分かって、感動するというよりも、逆にしらけてしまった。写真の再現よりも、もっと迫るべき何かがあったと思うのだが……。

by 無用ノ介

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