ブリッジ シーズン4

アスペな主人公が、ついに自分の過去と向き合う!怖すぎる人間ドラマが内包されたノルディック・ダークサスペンス、ついに完結!

BRON IIII BROEN / The Bridge
2018年 DR1/STV1 カラーHD 60分 全8話 スーパー!ドラマTVにて放映
クリエイター:ハンス・ローセンフェルト
出演:ソフィア・ヘリーン、キム・ボツニア、トゥーレ・リントハート、エリオット・クロセット・ホーブ、ミケール・ビアクケーアほか

 デンマークTVドラマの実力を世界に知らしめた作品といえば、2007年に初めてDR1が制作した「THE KILLING/キリング」<Forbrydelsen>シリーズをおいて他にない。その衝撃は、すぐに世界中に伝わり、各国で放送された他、アメリカではリメイク版まで制作された。おそらく、このドラマが登場するまで、デンマークがダークサスペンスのジャンルで重要作品を送り出す国だとは、だれも思っていなかっただろう。
 ブリッジ・シリーズはこの陰惨な「キリング」を世に送り出した、DR1とそのスタッフが、スウェーデンのSVT1とタッグ組んで、「刑事ヴェランダー」などで知られる脚本家(小説家、俳優でもある)、ハンス・ローセンフェルト<Hans Rosenfeldt>をクリエイターに迎え、世に送り出したノルディック・ダークサスペンスの傑作シリーズである。
 シーズン1のスタートは、デンマークのコペンハーゲンとスウェーデン第3の都市マルメを結ぶ連絡橋であるオースレン橋の中ほどで女性の遺体が発見されるところから始まる。その遺体は一人の人間のものではなく、上半身はスウェーデンの政治家、下半身がデンマークの娼婦のものであったところから、コペンハーゲン警察とマルメ県警が合同で捜査をすることになるのだ。
 シリーズはどれも基本的にデンマークとスウェーデンの両国が絡む事件に、コペンハーゲン警察とマルメ県警が合同捜査を行う設定で進行する。すべての事件で主人公として捜査に関わるのが、マルメ県警の女性刑事サーガ・ノレーン。彼女は美人ながら他者の感情を理解しない自閉症スペクトラムのなかでもスペルガー障害と呼ばれる状態を抱えていると思われる人物で、人間の感情を思いやる配慮を苦手とする一方、犯罪の構造を方程式のように解き明かす集中力と分析力に人一倍優れている。
 彼女とタッグを組むことになるコペンハーゲン側の刑事は基本的に男で、シーズン1、2ではハゲかかったおっさんデカながら、社交的で人情派、そのうえ女性にめっぽう弱くて、度重なる浮気症のためにパイプカット手術をさえられたという、マーティン・ローデ。シーズン3からファイナルシーズンには、イケメンながら8年前に失踪した妻や子供達の幻想を縫えず、薬物にも手を出しているという暗黒面を抱えた刑事、ヘンリック・セアボーが登場する。
 これらの2国間をつなぐ事件という設定や個性的な人物がドラマのキーと受け止められたのだろう、2つの国をアメリカとメキシコに置き換えた「ブリッジ〜国境に潜む闇」(2013)、イギリスとフランスに置き換えた「トンネル〜国境に落ちた血」(2013)という米、英2本のリメイクも制作されているが、オリジナル版の恐ろしい緊迫感に遠く及んでいない。
 このドラマの本質は、実は人物や設定だけでなく、オープニングやエンディングに頻繁に登場するオースレン橋の美しい景色が語っているのではないだろうか。いつも暗い空の下で、その姿はまるで天界と下界を建造物のように浮き立っている。何れにしても常に凶悪犯罪が溢れているアメリカやメキシコ、階級社会の格差が大きく進行し、移民問題やテロにも晒されているイギリスやフランスの状況とは大きくちがう。社会保障や教育制度も行き届いている世界の最先進国でも起こってしまう陰惨な事件は、背景の闇の大きさも測り難い。
 またそれを盛り上げるテーマ曲もすばらしい。デンマークのシンガー・ソングライター、ヤーニス・ノヤ・マクリニアニス<Jannis Noya Makrigiannis>のチャンバー・ミュージック・プロジェクト、<Choir of Young Believers>によるタイトル<Hollow Talk>は、2008年にリリースされた彼らのデビューアルバム、<This Is for the White in Your Eyes>の1曲目として収録されている。ピアノによる静かな始まりと、ストリングスとコーラスで盛り上がる幽玄なサウンドは、まさにオースレン橋の情景と相まって恐ろしさ100倍。シーズン1からファイナルまで、オープニング、エンディングでは一貫してこの曲が使われている。

 ようやくシーズン4の話にたどり着くのだが、今回もものすごくダークな始まり方だ。なにしろ主人公のサーガは目覚めるとなんと刑務所に収監されているではないか!サーガは、前シーズンで登場した(児童虐待で刑務所にいたが出所してきた)母親の悪魔的な策略により母親殺しの罪の疑いで裁判中で、その判決が確定するまでの間収監されているという設定である。
 事件は、サーガの収監中に同時進行で起こる。しかも、並大抵の残酷さではない。オースレン橋のたもとで、地面に下半身を埋められた女性が、投石によって殺害されるという事件が起こったのだ。のっけからスウェーデン側では放映できなくて画面を差しかえたというほどのオープニングの怖さである。
 このシーズンでは、恐ろしい方法で次々無関係と思われる人々が殺されてゆく連続殺人とともに、現在のサーガを形作っている辛い過去の体験と、それを最後には乗り越えようとする彼女の決意。シーズン3からのサーガの相棒で、今では「時々セックスする仲」になっているヘンリックの解決されなかった、深い闇の過去がともに表面に引きずり出される。これまで同様最初から4話ぐらいまでは訳も分からず、おそろしい。犯罪が連発するだけでなく、怪しすぎる行動をする何人もの人物が丹念に描かれ、とにかく目が離せない。
 シーズン3まで全10話だったものが今回は8話で終了になっているせいか、後半はさらにコンパクトにまとまっていて無駄がない。
 シーズン1、2で相棒ローデを演じたキム・ボドゥニア、シーズン3、4でセアボーを演じたトゥーレ・リントハートはもちろん、シーズン4でセアボーととに捜査に加わる、ヨナス・マンドロップを演じるミケーレ・ビアクケーレ(The Killingのシーズン2に刑事役で登場している)らの演技もなかなかで、デンマーク俳優のレベルの高さを感じさせる。
 しかし何と言っても、このドラマを世界的ドラマに押し上げているのは、主演のソフィア・ヘリーンの演技の素晴らしさだろう。ヘリーンはインタビューなどで見せる笑顔はドラマの人物と同じとは思えないので、アスペルガー障害の演技はかなり周到に、同様の障害を持つ人たちを観察して得たものにちがいない。
 主人公のサーガは、妹を救えなかったという自責の念を抱き続けて生きている。サーガの口から多くは語られないが、サーガの母親は当初からサーガを虐待していたと思われる。(ある意味北欧では珍しくない)美人なのに、サーガの鼻の下の一部に火傷跡のような傷が残っている。彼女に人間の感情を放棄させるほどの虐待が行われたことを、説明ではなく傷自体が物語っている。
 一方、母親は妹を溺愛してはいたが、そのため彼女が母親の代理ミュンヒハウゼン症候群のターゲットになり薬物を投与されて、度々入院することになっていった。このことに途中で気がついたサーガが警察に通報したことにより、母親は投獄されるのだが、妹は14の時に自殺してしまったのだ。
 その自殺の真相は客観的には語られない。しかし、彼女のなかでは妹の気持ちに気づいてあげられなかった自身の障害に対しては葛藤があり、その自分と折り合いをつける過程が難しかったのは容易に想像できる。(ここはちょっとネタバレになるが)シーズン4のドラマの中では、サーガがそれまで学んでいたバイオ生物学から、妹の死をきっかけに警察官への道を目指したことが語られる。必ず正しいことをする(はずの)警察官という鎧が、いかにサーガにとって必要なものだったかが、説明されてゆくのだ。

 サーガを演じた、ソフィア・ヘリーンにとっては、この役が自らのキャリアを世界的に飛躍させたキャラクターだったことは間違いないが、それでもこの役を演じることはかなりヘヴィーであったようだ。2015年に公開されたシーズン3からシリーズ4までに3年の時間がかかったが、途中撮影の予定について聞かれたクリエイターのハンス・ローセンフェルトは「ヘリーン次第だ」と彼女の撮影による消耗が激しかったことをほのめかしている。
 サーガの鼻の下の傷跡は、実は特殊メイクではなくヘリーン自身の顔の傷である。彼女は生後10日で祖母の運転する車で大きな交通事故に遭ったため、同乗していた6歳年上の兄を失い、自分も顔の傷を抱えて生きて来た。その分、サーガというキャラクターは、自身を投影するにはうってつけの部分もあったのだろうが、重荷であったのも間違いない。
 シーズン4の最後、サーガはオースレン橋の上から、自分に課していた鎧を象徴的に捨て去って、ポルシェで颯爽と走りさる。電話に出ても、もう「マルメ県警」とは名乗らずただ「サーガ・ノレーン」とだけ答えるのだ。その顔の清々しさは、おそらくヘリーンの自身の清々した気分をも表していたに違いない。

by 寅松