衝突

それぞれの人生とそれぞれの秘密が巨大交通事故を通して暴かれる。派手さはないが、イギリスものらしい堅実なパニックサスペンス。

Collision
2009年 イギリス カラーHD 46分 全5話 Greenlit Productions/ITV Amazon Prime で視聴可能。
クリエイター:アンソニー・ホロウィッツ 監督:マーク・エヴァンス
出演:ダグラス・ヘンシュオール、ケイト・アシュフィールド、ジョー・ウッドコック、ルーシー・グリフィス、ポール・マッギャンほか

 SFドラマ「プライミーバル」の動物学者ニック・カッター役や、「シェトランド」のジミー・ペレス警部役で知られるスコットランドの性格俳優ダグラス・ヘンシュオールが主演のミニシリーズ。
 エセックス州のA12道路(ロンドンとエセックスをつなぐ)で起きた車8台が絡む大事故に地元警察の警部補ジョン・トリン(ヘンシュオール)が駆り出される。通常交通事故は交通警察の担当なのだが、黒人カップルが乗るBMWをパトカーが追跡していたために、BMWに同乗していて事故で死んだ娘の父親が、警察を人種差別で訴えると言いだしたのだ。警察としては、なんとかパトカーの追跡に違法性がないことを立証しておきたいらしい。
 この面白くもなさそうな事件を喜んで買って出るトリンだが、久しぶりに業務へ復帰したようで、さらに周囲はなんども「本当に大丈夫か?」などと不安を口にする。トリンは現場で交通事故の検証を担当している交通警察に出向いて、協力を仰ぐのだが、担当警官がアン・スタールウッドだということで、そのことでも周りに気を使われる。なんとなくもやもやした雰囲気爆発だが、事情は交通事故被害者の様々な謎とともに徐々に明らかになってくる仕掛けだ。
 実はトリン警部補とアンは、不倫関係にあったらしい。しかも今から9ヶ月前、トリンがアンと逢っている間に、妻と娘が飲酒運転の車によって事故に遭い、妻は死亡。娘は車椅子の生活になってしまったのだ。
 トリンは自分を許せないまま、アンとの関係も立ち消えのままになってしまっていた・・・。そんな複雑な人間関係の中、ジョン・トリンは、アンとともに事故に絡む幾つもの謎を追ってゆく。
 事故にあったのは、成功した黒人の甘やかされた娘とその危ない恋人。わがままな義母を連れて気晴らしのドライブに出た男。巨大化学企業の秘書で、なんらかの秘密を暴露しようと、書類を持ち出した女性秘書。オランダまでバンで出かけ、怪しげな荷物を受け取った違法ビジネスに手を染めた男。セレブな妻との生活に飽き飽きしている会社経営者。なんらかの事情で私立学校の教師をクビになったらしきピアノ教師。それぞれがそれぞれの事情で車を走らせていたのに、一瞬にして全てがフイになるのだ!
 父親のパーティーに急いでいた黒人娘は事故死。わがままな義母も搬送先の病院で息絶える。秘密を持ち出した秘書は、病院から男2人に連れ去られ、翌日に自殺死体として発見され、いち早く現場から逃げ出した男の乗っていたバンかあらあはあ数日後とんでもないものが出てくる。セレブな男は、事故後の救護所でボランティアをしてくれたウェイトレスに一目惚れする始末。
 秘密のスケールの大きさはそれぞれだいぶちがうが、一つの物語にフォーカスするのではなく、パニックものらしく群集劇としてそれぞれの話が進行する。たった5回で、これだけの物語を完結させるのは大変そうだが、さすがに作家でもあるクリエイターのアンソニー・ホロウィッツは、漏れも、忘れもなく、丁寧に脚本を仕上げてある。これらの秘密を暴いてゆく途中にも、あまり感情を表さないジョン・トリンが妻を殺した事故の犯人に対面したり、娘やアンとも関係を作り直すプライベートな物語を挿入しているのだから感心させられる。もちろん、逆に言えばアメリカ的な、一つの物語にフォーカスして感情を揺り動かすタイプのドラマではない。その意味では英国的である。
 ホロウィッツは「刑事フォイル」「名探偵ポワロ」など有名作も多いが、この作品の他、同じITV製作の弁護士を主人公に据えたドラマ「インジャスティス」(エセックスの先の、サフォーク州イプスウィッチが舞台、2011)や「ニュー・ブラッド 新米捜査官の事件ファイル」(2016)も面白かった。
 「インジャスティス」は、オックスフォード卒の弁護士の話ではあるが、この人のドラマには、エリートや凶悪な犯罪者だけでなく、地方に住む庶民や労働者階級、移民や労務者などが多数登場する。それらの生活を丁寧に描いているところが、大変印象的だ。
 その意味で、このドラマはバラエティニーに富んだ人々の生活を垣間見せる、ホロウィッツの特徴をよく示した1作と言えるだろう。

by 寅松

COLLISION 2009 from Eleventh Hour Films on Vimeo.