海外ドラマ

刑事カレン・ピリー 再捜査ファイル シーズン2

スコットランドのロリ系豪腕刑事、昇進して歴史に残る難事件を掘り返す!

Karen Pirie Series 2
2025年 イギリス カラーHD 100〜105分 全3話 World Productions/ITV AXNミステリー・チャンネルで放映
原作:ヴァル・マクダーミド(『迷宮の淵から』集英社刊) クリエイター:エマー・ケニー 監督:ガレス・ブリン
出演:ローレン・ライリー、クリス・ジェンクス、ザック・ワイアット、エマー・ケニー、サスキア・アッシュダウン、ラキー・タクラース、ティーヴ・ジョン・シェパード、ジェームズ・コスモ、ジュリア・ブラウン、マーク・ロウリー ほか

 英ITVのスコットランドを舞台にしたヒット作!ま、話の枠組みはスコットランド版「埋もれる殺意」シリーズみたいなもの(コールドケースもの)なのだが、キャラクターの意外性で見せるシリーズだ。
 スコットランドを代表する推理作家、ヴァル・マクダーミドのカレン・ピリーシリーズ、『迷宮の淵から』(横山啓明訳 集英社刊)を原作としている。
 前回は、やや冗漫な部分も見受けられたが、本作は台本もかなり精査されており、テンポも良い。正直2時間ドラマ3本で、小説1作分の物語というのは、観る方も厳しいのだが、今回に限っては最後までテンポよく観ることができた。

 カレン・ピリーのキャラクターが特殊だ。金髪の美人だが、少々おチビさんでファッションセンスがひどい、ロリ系刑事。実際、所内で「鼻につく女」と揶揄されるほど、嫌味なところはないのだが・・物怖じせず、権威も大して気にしないし、物言いはストレートだ。
 前回のシリーズでは、前時代的な男性優位社会であるスコットランド警察の体質が描かれた。過去の女性に対する事件への対応がなっていないという外部からの圧力に対して、生意気な女性刑事を矢面に立たせて処理しようと企んだセント・アンドルーズ署のリー所長(ティーヴ・ジョン・シェパード)だったが、捜査は意外な方向へ!カレンの下につけた男の警官も、他では使い物にならない頭でっかちのミント・マレー(クリス・ジェンクス)で、もちろん再度迷宮入りを予定していたのだが・・、事件は解決してしまったのだ。
 手柄を立ててしまったカレン・ピリーは、今や警部補(DI)に出世してTVのインタビューまで受けるしまつ。

 しかし、今回彼女に押し付けられた事件は、前回以上の難事件だ。40年前、石油富豪グラント家の娘と孫が誘拐されて今も行方不明という、歴史に残る事件(まあ、英国で1973年に実際に起こった、石油富豪ゲッティ家の孫の誘拐事件を下敷きにしていると思われる・・)である。最近、発見された男の遺体から、当時母子を誘拐した犯人のものと断定された車のキーが発見されたのだ。
 これは、スコットランド警察の対応は、慎重なものにならずにはおれない。なにせ、グラント家は大金持ちで政治も動かしかねない大富豪なのだ。当時の捜査も、担当警部補は、横槍で更迭された。この富豪にビビらない刑事は、ピリー以外に考えられない・・。
 今回は、所長も破格の待遇で大型捜査チームを承認してくれる。
 最初のシーズンでは、先に出世したピリーに嫉妬し器の小ささを露見した、やや小心者のピリーの彼氏、フィル(ザック・ワイアット)も説得されてピリーのチームに。もちろんミント・マレーも加わるが、さらに女性の捜査員としてアイラ(サスキア・アッシュダウン)が投入されて捜査が始まる。
 
 事件が起こった当時、炭鉱町東ロズウェルでは炭鉱閉鎖が決定され、組合はストの最中であった。遺体で発見された男ケヴィン(スチュワート・キャンベル)は、地元ギャング組織の一人だったが、組を抜けようとしていた。マレーがネット上の捜査から導き出した、犯人たちが潜伏できるコテージの持ち主から、ケヴィンと交友関係のあったアンディ・カー(コナー・ベリー)、さらにはケヴィンの兄の証言から、誘拐されたグラントの娘キャット(ジュリア・ブラウン)が付き合っていた、組合員ミック・プレンティス(マーク・ロウリー)の名前を導き出したカレンだが、なんと自宅が何者かに侵入され、持ち帰っていた(もちろん規則違反)PCとHDを持ち去られるという失態を犯してしまう!

 しかし、ますます誘拐の真相は不可解な様相を呈し始め、キャットは純粋な被害者から「共犯者」ではとの疑いも持ち上がるが・・それを聞いたグラント卿は、今までの捜査費用を全て拠出するのと引き換えに、捜査を中止するように警察に圧力をかけ始める。
 そんななか、ピリーと監察医のリヴァー(本作の脚本家/クリエターであるエマー・ケニーが演じている)は、ロズウェル岬の洞窟で、なんと40年前に亡くなっていたらしいキャットの遺体を発見してしまう・・・。
 ケヴィンの服から、偽装パスポートの断片が回収されたことで、犯人が海外にいる可能性が浮上し、ミント・マレーとアイラの粘り強い捜査の結果で目処がつくと、2人は揃って海外出張することに!!
 スコットランドから、イタリアのシチリア島、さらには英国と犯罪者の引き渡し協定のないマルタ島へ舞台を移して、先手を打とうとするグラント郷と、彼の雇った工作員とののチェイスもある。

 もちろんだが、最後には、予想しなかったキャット殺害の加害者と、犯人たちの逃亡の真相が語られることになる。

 シリーズのオープニング・テーマもなかなかかっこいいが、これはスコットランドのインディーズバンド、「アラブストラップ」が2021年に発表した<The Turning of Our Bones>という曲。実際にオープニングで使って入るのは、イントロと最後の方のコーラスだけだけど。

全曲

オープニング

 
 一般的なフェミドラマではないが、ヴァル・マクダーミドは女性作家としての視点を、この物語でも発揮する。シーズン1では、無能なくせにプライドばかり高く、女性の実力を認めようとしない男性社会のスコットランド警察自体が、ピリーが直面する相手であった。
 しかし、このシーズン2では、所長であるリーも、何をやらかすか心配しながらも、ピリーの実力を認め、バックアップする方向に変わっている。

 で今回、ピリーの前に立ちはだかるのは、まさにスコットランド支配階級の典型的な富豪、ブロデリック・グラント郷だ。彼の倫理は、意外に単純。自分は金持ちだから何をしてもいいというもののようだ。(しかし、今度は所長のリーも憤慨して、金持ち勝手にははさせないぞ!と息巻くのが、なかなかよい。)
 捜査の過程で、彼に不躾な質問も辞さないピリーに対して、グラント郷は「お前の出る幕じゃない!これは家族の問題だ!」と言い切る。「これまで警察がかけた捜査費用は全額負担してやるから、ここで捜査を中止しろ!」なんてことを平気で言う。
 まあ、もうおじいちゃんなので昔の常識というのもあるが、社会性は皆無。「犯罪が絡んでいるので、警察が捜査しないわけには行きませんよ」という当然の理屈を無視しようとする。
 ある意味、この人物像はスコットランド人の「原型」なのかもしれない。家族を大事には考えているが、家族と自分の利益が何よりも重要で、社会という枠組みをそもそも邪魔なものとしか考えていないのだ。
(アメリカの白人には、スコットランドルーツの人間も多く、ドナルド・トランプの母方もスコットランド人だ。現在の大統領が、気の狂ったような自分勝手な理屈ばかりこね回し、その「バカの王」としか思えない姿に、拍手を送る白人支持者が相当数いるのは、このスコットランドの身勝手な血のせいなのだろうか?)

 一方ピリーは、今回もこのような昔ながらのスコットランド的父権主義を、半笑いでかわしながら、全然相手にしない。
 次々と困難に直面はするが、その度に新人のアイラ、マルタ警察の女性刑事、ジャーナリストのベルなど女性の協力者をうまく活用して、今回も事件を解決してしまうのだ。
 まあ、それで誰かが喜ぶわけでもないのだが。

シーズン1の評はこちら>>

By 寅松