刑事ダルグリッシュ

P・D・ジェームズの名作をあえて今、再ドラマ化!

Dalglish
2021年 イギリス カラーHD 45分 全6話 New Pictures/Acorn TV、Channel 5 AXNミステリーにて放映
原作:P・D・ジェイムズ(アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ) 脚本:ヘレン・エドマンソンほか 監督:ジル・ロバートソンほか
出演:バーティ・カーヴェル、ジェレミー・アーヴァイン、カーリス・ピアー ほか

 本作の原作である「アダム・ダルグリッシュ警視シリーズ」のほか、女性探偵ものの草分け「コーデリア・グレイ・シリーズ」、さらには、アルフォンス・キュアロン監督で映画化された『トゥモロー・ワールド』の原作であるSF小説『人類の子供たち』など多彩な作品で知られる、イギリスを代表する女流推理作家、P・D・ジェームズ。いまも高い人気を誇る、彼女のシルバーダガー賞受賞の名作3作品を、それぞれ原作として、AcornTVが新たに製作したドラマシリーズである。
 教養高い孤高の警視、アダム・ダルグリッシュを、舞台ではローレンス・オリビエ賞を2回、トニー賞も1回受賞している、バーティ・カーヴェルが演じている。
 シリーズでは1話が2回づつで、最初の「ナイチンゲールの屍衣」を監督ジル・ロバートソンで、脚本ヘレン・エドマンソンのコンビが、次の「黒い塔」をトーヒル兄弟が監督し、脚本はステファン・グリーンホーン、最後の「死の味」は、再びヘレン・エドマンソンが脚本を担当し、監督をリサ・クラークが担当している。そのため、それぞれ若干トーンが違う。

 最初の「ナイチンゲールの屍衣」は、火サスでもリメイクされたほど有名な作品だが、舞台設定も非常に暗く、全体的に陰鬱な物語に仕上がった。原作が発表された、70年代の病院附属の全寮制看護学校を舞台に、看護実習中に起きた殺人事件を、派遣されたダルグリッシュが、典型的な労働者階級の巡査、マスターソン(ジェレミー・アーヴァイン)を助手として解明してゆく。
 日本人は看護学校と聞けば、かなり大規模なものを想像するだろうが、ここでいう看護学校は、修道会が運営しているような大変小規模なもので、経済的に恵まれていない若い娘たちに職業訓練をさせるのが目的のような施設である。
 第1話は、ダルグリッシュが乗り付けるジャガーや、マスターソンの赤いフォードのなど、時代考証も細かく、プロダクションデザインも良くできていてソツがないが、正直、新たにドラマ化する必要があるのか?ピンとこない出来だった。が、2話、3話と進むうちにテンポが良くなり、意外に引き込まれてゆく。
 2話目は、登場人物の個性や、最初の殺人が起こる絶壁など、アイテムは火サスっぽさが爆発だが、イギリス南西部(ドーゼットの設定)の、数百年前から残る遺跡のような塔(タイトルになっているブラック・タワー)や、階段沿いの断崖絶壁といった壮観な風景が現代のドローン撮影で美しく捉えられる。これまた、(フランス)ルルドへの巡礼を第一の目的に掲げる新興宗教が運営する、小規模な身障者施設で起こる殺人を、休暇で訪問したダルグリッシュが解明する。そこには、施設の抱える驚きの秘密があった。
 また、この話で登場した地元警察の若い女性巡査、ミスキン(カーリス・ピアー)は、第3話ではダルグリッシュの口添えでロンドン警視庁で働く刑事となっている。
 3話は、ロンドン市内で起こった、爵位のある元議員が教会の宿直室で殺された事件の謎を、ダルグリッシュ、マスターソン、ミスキンのチームが解決する。

 2014年に94歳で死去した、ジェームズはまだ保守的な時代に、第二次世界大戦で精神を病んだ夫に代わり、病院委員会や内務省で働き、官僚制度、国民保険サービスに精通していたばかりでなく、社会機構の中で女性が働くことの障害を身をもって体験してきた働く女性でもあった。彼女が創作したコーデリア・グレイは、暖炉の側で暇つぶしに謎解きをするおばあちゃん探偵ではなく、「女には向かない職業だ」と男たちに揶揄されながら、固い決意で職業としてし私立探偵を続けようとする若い女性である。
 ミスキンのキャラクターも、ジェームズならではの芯のある女性だ。地元ドーゼットの上司や、マスターソンのような、女性に対する差別意識の塊のような70年代の男性警官たちに邪魔をされながらも、鋭い洞察や行動力で成果を上げてゆく。もちろん、彼女をバカにして、手柄を取り上げようとするマスターソンは、ダルグリッシュ警視に「私のチームでは、あらゆる差別は許さん!」と一喝されるのである。(笑)

 とてもこの時代の警察に、このような立派な人物がいたとは思えないアダム・ダルグリッシュは、多くの著作がある詩人として成功している変わり種の警視で、警視総監直々に事件解決を命じられる特別中の特別な男である。一方で、とある事件で妻と生まれたばかりの子供を亡くし、私生活は常に憂いの中にある。
 やや漫画的なこのキャラクターを、バーティ・カーヴェルの演技力がリアリティのある人物に見せていて、その力には感心させられた。

By 寅松 

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