海外ドラマ

秘密の森 〜深い闇の向こうに〜 シーズン1

キャラクターの作り方が絶妙な、韓国検察サスペンスの最高峰!

비밀의숲/Stranger Season1
2017年  韓国 カラーHD 68分 全16話 Signal Entertainment/tvN Netflex、Amazon Prime、Hulu、Paraviなどで配信
脚本:イ・スヨン 監督:アン・ギルホ 
出演:チョ・スンウ、ペ・ドゥナ、ユ・ジェミョン、イ・ジュニョク、シン・ヘソン、ユン・セア  ほか

 現代の韓流ドラマのレベルの高さを象徴するような作品だろう。2017年に放映されて、様々な国内の賞を受賞、さらにニューヨークタイムズ紙が選出する2017年の<The Best TV Shows>でも10位に選出された。韓国内ではtvNの放映だが、その他の地域ではNetflixが配給しており、Netflixではすでにシーズン2が視聴できる。最近ようやくAmazon Primeでもシーズン1が見られるようになった。(2022.06現在、Amazon Primeでは見放題終了して有料に戻っているようだ。)そのほか、日本でもBS11、ホームドラマチャンネルなど各所で放映されている。

 検察局を舞台に、残忍な殺人事件がからむサスペンスではあるが、なんといってもその脚本の完成度がすごい。
 当時から現在までも続く、韓国の検察の公正さをめぐる議論と、簡単に政治が検察に介入してしまう問題。一握りの財閥企業がGDPの多くの部分を独占するが為に、国も官僚組織もたやすく大企業に特権を与えようとする不公正さ。そして、リベラル政権になっても相変わらず拡大し続ける、格差問題。それらから目をそらさずに、硬派で複雑なドラマを作り上げた、イ・スヨンが、以前はOLをしていた全くの新人作家というのには、本当に驚かされる。

 しかし、この緻密な脚本は、3年にも及ぶ’綿密な調査とインタビューで積み上げた資料をもとに書かれている。そうでなければ、このリアリティが出せるはずがない。
 日本のTVで未だに巨匠として扱われている、トレドラ時代の女流脚本家のドラマなどを見てしまうと、現代ではもう存在しないような時代錯誤の雑誌編集部などが出てきて、ひっくり返りそうになる。なにも調べないようなババア脚本家のドラマを平気で作り続けているような日本の地上波チャンネルは、もはや滅亡の日も近いとしか思えない・・。

 脱線したが、イ・スヨンの脚本のすごいところは、安易なファンタジーに頼らず、キャラクターの個性で、この絶望的な検察組織に対抗しようと考えたところだ。上下や家族の関係が密で、常に汚職が発生しやすい社会の中で、全てを拒否できるような人間。いるとしたら完全なアスペである。しかし、自閉症にしてしまっては、検事の仕事に支障が出るので、彼女が考えた結論は「感情を失った男」だったようだ。

 子供の時に感覚過敏による脳の痛みから解放されるために、脳葉の一部であるライル島(島皮質)を部分切除するという一種のロボトミー手術を受けたファン・シモク(チョ・スンウ)は、ほぼ感情を見せない冷徹な検事。(後半で医師の説明が入るが、感情に自分で気付きにくい・・状態であるというのが、ある意味ミソではある)検察のすべての検事を買収したフィクサーから、断られたのはシモクを含め2人だけだと言われたほどの堅物だ。
 このクールで冷静な検事が、偶然タッグを組むことになる女性刑事が、破天荒で正義感が強いハン・ヨジン(ぺ・ドゥナ)。実は合格率が1%と言われる難関、警察大学出身のエリートで武道もやたらに強いのだが、お節介で人情に脆い。そして、事あるごとに、なぜかド下手なイラストを描いて、人にくれるという癖がある。部下の説教に、手塚治虫を引き合いに出す彼女は、どうやら子供の頃から漫画ファンだったようだ。
 どう見ても完全なA型に見えるシモクとB型に見える(O型もありか?・・)ヨジンのコンビは、「Xファイル」コンビの遥かな子孫ともいえるが、お互いを自然な形で補っているところが憎い。
 ミュージカル俳優として知られるチョ・スンウは、整いすぎる顔と小柄な体格で、歌舞伎役者っぽいのだが、シモクのクールな演技には適役だ。
 ポン・ジュノ監督『グエムル-漢江の怪物-』のほか、山下敦弘監督『リンダ リンダ リンダ』、是枝裕和監督『空気人形』、ウォシャウスキー姉弟の『ジュピター』など海外の映画でも知られる国際女優ペ・ドゥナの演技は、さすがに人物像の深みがある。『空気人形』を見ていたにもかかわらず、この生き生きしたヨジンを演じているのが、あの、感情をもったダッチワイフを演じていた女優と同じ人間だとは全く気付かなかったほど。

主演2人の特集

 
 2人を取り巻く検察や警察組織の人間は、ある意味典型的に描かれる。
 日本でも中間管理職で、よく見かけるタイプのイ・チャンジュン(ユ・ジェミョン)は、西部地検地検次長。韓国の大財閥のオーナーである義父イ・ユンボム(イ・ギョンヨオン)とその娘の美人妻イ・ヨンジェ(ユン・セア)に頭が上がらず、正義を貫けなかった人物にしか見えないが、後半驚くような奥の手を出してくる。
 当初はイ・チャンジュンの手下として、汚いことを平気でやるシモクの同僚検事ソ・ドンジェ(イ・ジュニョク)の悪辣なイケメンぶりも面白いが、役としては変わり身がすごい。
 他にも、シン・ヘソンが演じる、元の法務長官ヨン・イルジェ(イ・ホジェ)の娘で、父を失脚させたイ・チャンジュンらに恨みを持つという設定の新米検事ヨン・ウンスも、可愛げがある。
 刑事第3部部長でシモクの直属の上司としして、偉そうにいつもシモクをなじってばかりいるカン・ウォンチョルも、最後の方で腹をくくって印象が変わる役。パク・ソングンがいい味を出している。
 チーム長としか呼ばれないが、ヨジンの上司で龍山警察署強力班チーム長を、「ハッシュ〜沈黙注意報〜」では主人公、ハン・ジュンヒョクの友人の刑事役を、さらに「私だけに見える探偵」でも悪霊となるソンウ・ヘの叔父で、昏睡状態の彼女を長く生きながらえさせてきた看護師チョン・ドクジュンを演じていたチョン・ペスが手堅く演じている。

 演出としては2017年と少し以前の作品であることもあるだろうが、必要以上にオーケストレーションのBGMで毎回盛り上げるパターンは、ハリウッドセンスともいえるが、大仰だ。
 ただし、第1回でシモクとヨジンが、現場から逃走したカン・ジンソプを東京で言えば秋葉原のような電気問屋街を舞台に追い詰めるアクションは、カメラワークもよく、なかなかスリリング。セットなども含め、金のかかり方は日本のドラマでは到底考えられないレベルだろう。
 最初から、世界市場を見据えているビジネスのやり方を痛感させられる。
 韓国のピエール瀧みたいなユン・ギョンホが熱演している、前科のあるケーブルTV作業員、カン・ジンソプは2話目あたりでいなくなるので、あまり取り上げられることがないが、なかなか迫力のある演技である。
 
 ドラマは、簡単に書けばファン・シモクが、最後には殺人事件の犯人を探し出し、さらには巨大財閥まで巻き込んで検事局全体にはびこる不正にメスを入れることになる。TV番組にも出てシモクはヒーローになるはずなのだが、結末は意外な展開に!?この辺は、「半沢直樹」シーズン1のエンドといったところか?
 しかし、韓国のドラマの常で、最終回では全てが終わった後に、なぜかだらだらと登場人物の後日談が描かれる。主人公の2人はまだしも、いちいちこの人のその後必要?という人も出てくるのが??だ。
 視聴者がどうしても望むのでこうなるのだろうが・・どうも韓国人(いや韓流ファン全体か)の趣味は泥臭くて理解に苦しむ。

By 寅末

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