聖なる地獄

カルト教団のおかげで子供の頃の夢をかなえた映画少年の記録

Holy Hell
2016年 アメリカ カラーHD 100分 WRA Productions Netflixで配信
監督・撮影:ウィル・アレン

 アメリカのマッチョ・ヒッピー系(?)仏教カルト教団「ブッダフィールド」の内部を赤裸々に描き出したドキュメンタリー。いつもパンツ一丁姿のムキムキマッチョの教祖が日焼けしているので、文字通り“赤裸々”なのだ。
 1980年代から20年にわたる教団の記録映像をまとめ、すでに脱退している元メンバーたちのインタビューを加えて作品にしたのは、教団の“記録係兼専属映画監督”だったというウィル・アレン。よくここまで撮影できたなと思えるプライベート映像が続々出てくるのも当たり前か。
 お姉さんに誘われて入信したウィルは、子供のころから映画小僧で「600万ドルの男」や「ワンダ―ウーマン」の自主映画を作っていたこと。そんなわけで、教祖ミシェルの映像記録係に抜擢された。なにごとも「好きこそものの上手なれ」「芸(ゲイ)は身を助ける」ってことだろう。
 
 この教祖、ムキムキの肉体、顔メイク、趣味はバレエと、どう見てもゲイなのだが、メンバーの半分以上は女性のようだし、「セックスは無駄だから控えるように」とか「自分が洗脳されていると思ったらすぐに逃げ出してくれ」など既存の「洗脳カルト集団」とは違うことを強調したりするので、みんなコロリと騙されていたようだ。
 記録係のウィルも「専属奉仕係」になって嬉しかったとか言ってる。まあ、洗脳されているわけだから、基本的には信者は何があっても教祖を信じ続ける。信者が働きに出て金を稼いでいたようで、活動はけっこう地味だし、教祖はほとんどパンツ一丁(あとはタンクトップくらい)なので衣装代もかからず、豪華な食事もしていない雰囲気。みなで森へ出かけて池で泳いだりしてるだけのヒッピー集団だから他人に迷惑もかけていない様子。おかげで、地味ながら長く続いていたのだろうが、それでも、入信した彼女を教祖に奪われたと思い込んだ男が妨害行為を始めて教祖が逃げ回り、鳥小屋に大量発生したネズミを皆殺しにしろと命令したり、徐々におかしくなっていく。
 いずれにせよ、ヒッピー風の衣装で皆が楽しそうに踊っている様子は映画『ミッドサマー』(2015)のホルガ村のようだが、人質を焼き殺したりするでもない「ブッダフィールド」は無邪気なコミューンごっこにしか見えない。

 最初は教祖の説教ビデオを撮っていたウィルくん、集団の収入源だった「髪留め」販売のCMを作るようになり、90年代には教祖が「普通のセックスを非難する」ポップソングのミュージックビデオを監督し、曲もけっこうヒットしたらしい。ついに、教祖はどこかに専用のバレエ劇場を造らせて、そこで一度だけのバレエ公演を行ってビデオに収録(なかなか本格的で面白そうに見える)。“専属監督”として着実にキャリアを積み上げていった。
 ところが、ミシェルとか呼ばれていた教祖が、実はハイメ・ゴメスという名でロマン・ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)に一瞬だけ出演したことのある俳優(志望の男)だったことが判明、さらにその後はゲイ・ビデオで“男優”として活躍していたことがわかってくる。
 結局、脱退者の告白で、教祖がホモ・セックスを強要し、妊娠した女性メンバーに中絶を指示していたことが明らかになったことから「ブッダフィールド」は空中分解したようだが、ミシェル……じゃない、ゴメス教祖はカリフォルニアからハワイへ場所を移して今も同じようなことを続けているらしい。
 
 教祖の“男色”ぶりは脱退者2人によって語られるのだが、それって、そもそも「奉仕係」だった監督ウィルも知っていることのはず。ウィルは冒頭でさりげなく「ゲイ」告白をするが、教祖との間に何があったのかは語らない。
 映画の終盤、ウィルはハワイを訪れて、ビーチで日焼けしてるかつての教祖(そして、おそらく“恋人”)に再会する。隠しカメラをつけているのだが、特に何かを糾弾するわけでもなく、ぎこちない会話を交わしただけで再会は終わる。ウィル君にとって、CMやミュージックビデオどころか、こんなドキュメンタリー映画を作ることができたのも、すべて彼のおかげなんだからお礼ぐらいしてくればよかったのにと思うぐらいだ。
 完成したドキュメンタリーはサンダンス映画祭で上映され、アメリカでは劇場公開もされた。
 
by 無用ノ介