Missホンは潜入調査中
スパイものではありません!ただし企業モノとして、女性の社会人進出ものとして良作!
2026年 韓国 74~78分 全16話 Celltrion Entertainment、Studio Dragon/tvN Netflixで配信
監督:パク・ソンホ、ナ・ジヒョン 脚本:ムン・ヒョンギョン
出演:パク・シネ、コ・ギョンピョ、ハ・ユンギョン、チョ・ハンギョル、チェ・ジス、カン・チェヨン、イ・ドクファ、キム・ウォネ ほか
スタジオドラゴン制作でtvN放映。久々のヒットになった、王道コメディ。各所でキチガイ独裁者政権が、ルールを無視した力の横暴を押す昨今の世界情勢では、人類が将来に希望を持てないのは致し方ないのだろう・・・、世界のエンタメもその方向にあるように思えるが、例に漏れず韓国もレトロものがブームなようだ。
つい先日も、同じ時代設定の「テプン商事」が、話題になったばかり。しかもこちらもtvNだ。一つ成功すると、次々同じ設定のドラマがごそごそと出てくるのは、韓ドラあるあるだろう。
両作品は、これまで韓国ドラマが避けてきた時代設定、つまりアジア通貨危機を受けて、韓国国家財政が破綻に追い込まれ、IMFの介入を受けた1997年前後を描いているのだ。
まあ、映画ではチェ・グクヒ監督の『国家が破産する日』(2018)があるものの、韓国人にとっては、あまり思い出したくもない黒歴史そのものという時代だろう。
が、ここへきて立て続けにドラマがこの時代を描き出した。ようやく、この時代を直視できるくらい、歓呼奥の民度も成長したとくことか?
「恋の始まりは出馬から!?〜すべき就職はしないで出師表〜」などで知られる、脚本家のムン・ヒョンギョンは、女性の社会進出のテーマを現代よりもさらに困難な時代を背景に、(日本で言えば東大出身)のエリートの主人公グムボ、彼女に憧れながらも、シングルマザーとして子供を育てる必要に迫られているミスク、さらには親や犯罪者の兄に虐待されながらも、たくましく生き抜いてきた詐欺師の女秘書ボクヒ、お嬢様ながら、自分の主張などは最初から聞いてもらえない保守的な家族で育ったウンジュという・・全く違う事情を持つ4人の登場人物に振り分けた。
その4人がともに生活するのが、この当時にあったソウル市が管理する、都会で仕事についている独身女性のための僚というのも面白い。
日本の合わせ鏡のような、韓国社会の国情は、日本人なら昔どこかで見た光景なのでよくわかるのだが、面白いのは日本と韓国の時間差は一定ではなく、微妙なズレを見せることだろう。
時代は90年代の話なので、各企業で社内イントラが普及し始めた時代で、そのシステムが使いこなせないおじさん社員がいることなどは、日本でも同じ時代(90年代)感覚だが、業界ゴシップが、PC通信で広がるなどは、日本では80年代を思わせるし、会社内の女性蔑視のあからさまさや、大会社の社長が勝手に裏金を作るという、お笑いの権力構造やコンプラの程度は、日本では60年代から70年代くらいのド昭和の光景だ。
そんな昭和すぎるレトロな、ソウルの汝矣島(東京で言えば兜町にあたる)を舞台に、韓国一の証券会社の裏金疑惑をめぐり、そこに潜入する正義感の強い捜査官、ホン・グムボ(パク・シネ)を描いた物語・・・と、簡単に紹介されるのだが、16話もあるので、単純なストーリーではない。
なかなかハミン証券の裏金の尻尾をつかめない金融監督院(FSS)の捜査官クムポは、接触してきた社長カン・ミョンフィ自身(チェ・ウォニョン)から、裏帳簿を受け取る約束を取り付けるのだが・・・。ミョンフィが謎の事故死を遂げたために、取引は頓挫。上司である局長のユン・ジェボム(キム・ウォネ)にそそのかされて、ハミン証券に社員として潜り込み、ミョンフィの協力者と裏帳簿を探すことにする。
20歳の妹、ホン・ジャンミ(本当のホン・ジャンミは、ITZYのユナが演じる)の名を借りて、高卒の新入社員として入社したクムポだが、怪しまれないために住居も同じハンミン証券の女子社員が入居しているソウル市の勤労女子寮に入居することに。
相部屋となったのは、社長秘書のコ・ボクヒ(ハ・ユンギョン)、マガン支店の窓口係(非正規雇用) キム・ミスク(カン・チェヨン)、新入社員ながらトレーディングに採用されたカン・ウンジ(のちに会長カン・ピルボムの娘カン・ノラであることがわかる)(チェ・ジス)の3人で、それぞれに秘密を抱えている。
クムポは、配属された危機管理部で、自分に思いを寄せるITオタクのイ・ヨンギ(チャン・ドハ)や会長の孫で、昼行灯の映画オタクであるアルバート・オ危機感管理部本部長(チョ・ハンギョル)らを手玉にとって成果をあげ、女子優秀社員に上り詰めるが、会社にはミョンフィの後継として、新社長が外部から招聘されていた。
それは、海外で成功を収めていた企業再建/買収の専門家であるシン・ジョンウ(コ・ギョンピョ)であったが、なんとジョンウは、グムボの会計事務所時代の元同僚で恋人でもあった・・・。
しかし、ジョンウの方にも別の思惑があり、自分の古巣である香港の投資会社DKベンチャーズのリー(チョ・テグァン)と組んで、ハンミンを買い叩く思惑があったのだ。
物語は、この前半で潜入ドタバタを描き、それが息切れしたあたり・・、裏帳簿を入手することに成功したクムポが、捜査を断行する直前で、韓国経済史の歴史的事件=IMF危機を発生させる。社会は混乱に陥り、今や検察も証拠があっても、民間企業の裏金疑惑など捜査する気はまったくない。
資金繰りが悪化しているハンミン証券は、今にも行き詰ろうとしているが、会長カン・ピルボム(イ・ドクファ)と秘書室長ソン・ジュラン(パク・ミヒョン)、常務のオ・ドッキュ(キム・ヒョンムク)の上層部は、自分たちの裏金の確保だけにしか興味がない。
怒ったグムボは、詐欺師として企業の裏金を狙ってきたことを知った秘書のボクヒと協力し、会社の裏金を詐取し、それを資源にハンミン証券の株を買い占めて乗っ取る計画を立てる。
なので、後半は社会の混乱と、海賊的なM&Aを描く企業ものになってゆく。
「愛の不時着」の脚本家パク・ジウンが描いたファンタジーの名作、「青い海の伝説」で監督としてのキャリアをスタートさせたが、「油っこいロマンス」「社内お見合い」「酔いしれるロマンス」などビジネスと引っ掛けたラブコメディで定評のあるパク・ソンホは、それぞれのキャラクターの作り上げ方と、その意外な行動に説得力のある説明をつけることをに成功している。
グムボとジョンウがハンミンにこだわるのにも、以前の職場での苦い経験があるのだが、妙にグムボに肩入れするユン・ジェボムの理由を後出しで出してくるあたりもうまい。ちなみに、2人ともベテランなので当然だが、パク・シネとキム・ウォネのやり取りは、息がぴったりで爆笑だ。
「正直にお伝えします!?」の嘘がつけなくなったアナウンサー役で、不満そうな顔がおかしかったコ・ギョンピョだが、ジョンウ役でも常に不満そうな顔がおかしい。正義感が強すぎて無鉄砲なグムボを心配しているのだが、思った通り恋の再燃は無しのままで、これもストーリー的には好感度が高いだろう。
コ・ボクヒ、カン・ノラ、キム・ミスク、それぞれ事情が違うルームメイトが、女性の立場でグムボに心を開き、家族のような絆を育ててゆくところも、よく描けている。「賢い医師生活」と「いつかは賢いレジデント生活」そして「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」でよく知られるようになったハ・ユンギョンは、悪役でも単純な善人でもない、自分の運命を切り開く女性をなんなく演じきった。
それに対して、会社の主力としてこれまでハンミン証券を支えてきた、おじさん社員たち、特にン・ミョンフィと同期であった、リサーチ部長チャ・ジュンイル(イム・チョルス)、トレーディング部長ソ・ギョンドン(ソ・ヒョンチョル)、危機管理本部課長パン・ジンモク(キム・ドヒョン)3人組の描き方も上手である。芸達者を揃えた、配役自体が巧みと言うべきかもしれない。
ドラマとしては一つだけ不満が残るのが、悪役である秘書室長ソン・ジュラン(パク・ミヒョン)と、もともとその後輩のヤクザものらしく、殺しを含む汚れ仕事を受け持っていたポン・ダルス(キム・レハ)と、会長ピルボムの関係が不明瞭な点か。
最後に裏切るのはともかく・・、随分と前にダルスとともに、娘ノラを誘拐する計画を立てたのに、その後は何十年も忠実に会長に従ってきたジュランという人の目標がよくわからない。
しかも、ダルスの方も最後は会長側について、ジュランを殺すところまで行くが・・、この人はここまでやってきた殺人などに見合う報酬を、ドケチな会長から引き出す目処があったのか??
まあ、悪役たち以外は、それぞれ大成功ではなくとも2000年以降に向けて、新たなスタートを切るわけだが・・、グムボだけは、ユン・ジェボムの命令で釜山の生命保険会社にまたもや潜入?というエンディングである。
シーズン2って可能性を残してはいるんでしょうね。
