告白の代価
定番の復讐ドラマながら、男女の行動と思考の違いを鋭く描く怪作!
2025年 韓国 46~60分 全12話 Production H、Studio Dragon/Netflix Netflixで配信
監督:イ・ジョンヒョ 脚本:クォン・ジョングァン
出演:チョン・ドヨン、キム・ゴウン、パク・ヘス、チン・ソンギュ、チェ・ヨンジュン、キム・ソニョン、ナム・ダルム、イ・サンヒ、イ・チェユ、キム・グッキ、イ・ハユル ほか
パターンが一巡しことと、意欲的な作品が期待したほどのの成果をあげなかったことから、全体としてストーリーが保守化して低迷期に入っていると思われる韓国ドラマ界である。2025年の作品も予算がある/なし、有名制作者であるかどうかにかかわらず、見るべきものが乏しい。
久々に見るべきレベルに達していた本作の秘密は、紆余曲折の末に決定した監督イ・ジョンヒョ(なんといっても「愛の不時着」だろうが、「イ・ドゥナ!」もなかなかよかった。本作中もアン・ユンスのセリフに「クリミナル・マインド」ネタがでてくるが、サスペンス作としては、「ライフ・オン・マーズ」「クリミナル・マインド:KOREA」「グッドワイフ 彼女の決断」など海外ものの翻案ドラマを多く手がけている・・)の力だろうか?Netflixオリジナルだが、制作は大手のスタジオドラゴンとともに、ライバル会社であるSLL傘下のProduction Hが共同参加しており、ある意味オール・コリア的布陣で製作されている。
内容は、韓国ドラマの本筋といってもよい復讐ドラマである。脚本も悪くは無いが、脚本自体の力というより出演者の演技が全て素晴らしく、それぞれが脚本が意図した以上のキャラクターを生み出したと思える作品だ。
もともとは、ソン・ヘギョ(「ザ・グローリー」「今、別れの途中です」)とハン・ソヒ(「マイネーム: 偽りと復讐」「京城クリーチャー」)がオファーされていたようだが、チョン・ドヨン(「イルタ・スキャンダル」「グッドワイフ」)とキム・ゴウン(「ウンジュンとサンヨン」『破墓/パミョ』「シスターズ」「ユミの細胞たち」「トッケビ」『コインロッカーの女』『ウンギョ 青い蜜』)に決まったおかげで、本作は生きることになったと言えるだろう。
当然、男性キャストの中心パク・ヘス(「悪縁(アギョン)」「ナルコの神」「イカゲーム」「刑務所のルールブック」)は素晴らしいし、そのカウンターパートに選ばれたのが、いくつかの共演歴もあるチン・ソンギュ(「テプン商事」「エマ」「悪の心を読む者たち」『エクストリーム・ジョブ』『英雄都市』『コンフィデンシャル:国際共助捜査』)というのもなかなかよい。
男優2人は(刑事上がりの)検事、(元ボクサーの)弁護士という微妙な設定で、お互いにアクションは封印してセリフでやりあう。この辺も監督の、意図が感じられて面白い。
全体として、本作は女の出演者はほぼ(それぞれの立場で可能な範囲ではあるが)暴走するドラマである。主演の2人はもちろん暴走する。モ・ウン(キム・ゴウン)はサイコパスの殺人鬼として登場するが、あとから元医師であることがわかる・・。が、その暴走ぶりは医師ではなく、ほとんど秘密情報部員ばり。
高校の美術教師であるはずのアン・ユンス(チョン・ドヨン)も、どう考えても美術系とは思えない暴走ぶりだ。
モ・ウンの国選弁護を引き受けたチン・ヨンイン(チェ・ヨンジュン)の妻でチェリストのはずのチェ・スヨン(チョン・ウンソン:「いつかは賢いレジデント生活」でイヨン(コ・ユンジョン)と同居する姉を演じていた・・)の暴走ぶりが激しかったとことが、ドラマの最後の方では明らかになる。
そのほか、ユンスの保護観察官となるペ・スンドク(イ・サンヒ)も、妊婦の割に十分大胆な行動をするし、モ・ウンに命を助けられた元囚人プジム・(ふとっちょ:不明)や京畿北部拘置所の刑務官・オム主任(キム・グッキ)なども巻き込まれ型ではるものの、自分の範囲では十分暴走しているといえるだろう。女性で全く暴走しないのは、ペク・ドンフンの忠実な後輩刑事リュ・ジス(イ・チョヒ)くらいなものだ。
それに比べて男の登場人物は、みな、思考の型にはまっているためか?最初にさだめた方向からなかなか逸脱できない。京畿北部地検検事のペク・ドンフンは、差別意識があるのか?取り調べの態度などから、アン・ユンスを夫殺しの犯人と決めつけ、最後の方でようやく後悔することになる。
弁護士のチャン・ジョングは、逆の意味で最後までいい人を押し通すし、モ・ウンの起こした殺人事件の被害者の親/祖父である元軍人のユ・ドンウク(イ・ギュフェ)も、犯人憎しの固定観念から抜け出せず、真犯人に利用される。
この対比が、ドラマを凡庸な復讐劇に厚みを持たせることに役割を担っているといえるだろう。
物語は、幸福な結婚をしていたはずのアン・ユンスが夫のアトリエをたづねて、その血まみれの死体を発見するところから始まる。物的証拠は乏しいが、アン・ユンス自身が夫殺しの犯人と信じて疑わない、検事・ペク・ドンフンにより有罪になり投獄される。
前後して、同じ町内では歯科医の夫妻が自宅で惨殺される事件が起こり、その容疑者として現行犯逮捕されたモ・ウンも同じ刑務所に収監されてくる。あまりに鮮やかな殺人者ぶりに、所内でも「魔女」と恐れられるモ・ウンだが・・、ある時、懲罰房が隣同士になったアン・ユンスは、壁越しに「あなたの夫を殺したと、私が告白します。2人殺しているので、ひとりくらい増えても違いはない・・」という魔女モ・ウンの申し出を受けることになる。
親友のキム・ムンジュン(イ・ミド)に娘のイ・ソプ(イ・チェユ)の世話を頼んでいたものの、ムンジュンが裏切って娘を施設に引き渡したことを知り、アン・ユンスは、仕方なくこの取引を受け入れる。
取引には、ユンスの罪をモ・ウンが引き受ける代わりに、殺しそびれた歯科医夫妻の息子コ・セフン(ナム・ダルム)をユンスが殺すという見返りが含まれていた・・・。
登場人物のキャラクターが物語が進むに従って、鮮やかに変わって見えるのは、優れた脚本によく見られる特徴だが、本作もその要素が多い。
主人公のアン・ユンスのキャラクターはもちろんだが、一番顕著なのは、キム・ゴウン演じるサイコパス殺人者モ・ウン。話が進むと、彼女がそもそもモ・ウンですらなく、タイの寒村で活動していた、国境なき医師団の高潔な医師であることがわかってくる。それとともに、彼女を殺人鬼にまで転進させた、被害者夫妻とその息子のおぞましい犯罪も明らかになってゆく。
正直「ウンジュンとサンヨン」のような人間的な役を演じるキム・ゴウンには、あまり共感できないのだが、とことん薄幸で、心が死んでいるような異常な役をやらせると、この人の表現は本当に素晴らしい。(笑)
最初は、厳しくユンスに接している保護観察官ペ・スンドクや、モ・ウンに手を焼いている厳しいオム主任が、徐々に彼らの罪に疑問を抱き、接し方が変わってゆくところもよく表現されている。
いかにも高潔な法学部教授で、イ・モンの弁護人を引き受けるチン・ヨンインと、大人しそうなチェ・スヨンの変貌ぶりは驚愕である。
パク・ヘス演じるペク・ドンフンは、最後の最後まで自分の思い込みのまま突っ走るが、最後の最後には、自らの誤りを見つめるしかない。
全てが終わった後、最後の最後に、ドラマ冒頭のアン・ユンスとイ・ギデ(イ・ハユル)のアトリエでの婚礼を、たまたま通りかかった(のちの)モ・ウンと妹も見物するシークエンスが挿入され、モ・ウンのオファーが、偶然ではなかったことが示唆されるが・・、これは必要だった?出来過ぎだし、蛇足だと思うのだが。
By 寅松
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