ハウス・オブ・ダイナマイト
すばらしい映画だが、もはや今のアメリアかは、このような高尚なことを心配する状況ではない!
2025年 アメリカ 112分 First Light、Prologue Entertainment、Kingsgate Films/Netflix Netflixで視聴可能
脚本:ノア・オッペンハイム 監督:キャスリン・ビグロー
出演:イドリス・エルバ、レベッカ・ファーガソン、ガブリエル・バッソ、ジャレッド・ハリスノ、トレイシー・レッツ、アンソニー・ラモス ほか
『ハートロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティー』『デトロイト』と、(ヒットするかどうかは別としても)「素晴らしい映画しかつくらない」と評しても過言ではないキャスリン・ビグロー監督の新作だ。
タイトルに集約されいるとおり、明確なテーマがありそれが十分伝わるという点で、この作品も非常に優れた映画である。
日本には「平和ボケ」という言い方があるが、それとは反対に核軍拡を繰り広げてさえいれば、バランスが保たれていると信じている、軍備拡張主義者の心理をついたホラーと作も言えるだろう。
最近の流行りだろうか?映画だが、章タイトルで区切られ3つのパートから組み立てられている。実は、どの物語も同じ時間軸=つまりアメリカに向け発射された核ミサイルが発見され、それがターゲットであるシカゴに到達するまでの約18分間の物語である。
「傾斜が水平に」<Inclination Is Flattening>と題された最初のパートは、主に危機対応の現場、ホワイトハウスのシチュエーション・ルームと、アラスカのフォートグリーン基地の対応を中心に描かれる。
シチュエーション・ルームの現場指揮官であるオリヴィア・ウォーカー海軍大佐(レベッカ・ファーガソン)は、ミサイルが北朝鮮が行う通常のデモンストレーションではなく、角度を水平に変えた時点で、事態の深刻さを理解はするが、つとめて平静を装う。何かの間違いでなければ、弾道弾迎撃ミサイル(GBI)が撃ち落とすはずだ。悪いことに、衛星が発車地点を見逃したために、事実上どこの国が発射したものか、米軍は特定できていない。
しかし、国防長官により「政府存続計画(COOP)」が宣言され、上司である最高責任者のマーク・ミラー海軍大将も、地下の危機管理センターへ移送される。さらにGBIが弾道ミサイルの迎撃に失敗すると、彼女は部下のウィリアム・デイヴィス海軍先任上等兵曹(マラキ・ビーズリー)に自分とデイビスの個人用携帯を(シチュエーションルームの外にある携帯保管ロッカーから)持って来るように命じる。
一方、朝方早く妻から離婚を告げられ、不機嫌だったダニエル・ゴンザレス(アンソニー・ラモス)少佐は、命令通り発車した2発の弾道弾迎撃ミサイル(GBI)のうち1発は、弾頭切り離しに失敗し、残る1発が迎撃に失敗すると、重圧のあまりフラフラと外に出てて、吐いてしまう。
2番目のパート「 弾丸で弾丸を撃つ」<Hitting A Bullet With Bullet>では、軍部と専門化の議論が描かれる。アメリカ戦略軍のアンソニー・ブレイディ(トレイシー・レッツ)戦略軍司令官は、強硬に報復攻撃を主張する一方、国家安全保障問題担当大統領補佐官は、手術中のため会議には参加できず、シチュエーション・ルームは代わりに副補佐官であるジェイク・バリントン(ブリエル・バッソ)を呼び出す。しかしバリントンは出勤途中で携帯の電波は、途切れがちだ。
バリントンは、ベイカー国防長官にGBIの迎撃可能性を問われ、理論値で61%と答えざるを得ない。「それじゃ、コイントスだ!500億ドルもしたのに!」とベイカーは呻くが、バリントンは「弾丸で、弾丸を撃つんです」と答えた。
バリントンは、大統領に盲滅法の報復攻撃をする前に、NSAの北朝鮮専門家アナ・パクに連絡するべきだと進言する。
パート2の冒頭から描かれる、「ゲディスバークの戦い」の模擬再現祭りに、息子を連れて参加していたのは、韓国系アナ・パクで、大統領からの電話に戸惑いながら、北朝鮮が核ICBMを発射できる潜水艦を完成していた可能性は考えられれると答える。
一方、地下の危機管理センターに移動したバリントンに、シチュエーション・ルームから転送された電話は、ロシア大使からのもので、この発射にはロシアは関与しておらず、おそらく中国も無関係だろう。ただし、アメリカがミサイルを発射すれば、ただちに報復すると警告される。
3番目のパートは、「爆薬が詰まった家」<A House Filled With Dynamaite>で、これは大統領が「どこかのポッド・キャストで聞いた」という表現らしい。ここでは、政権のトップ、今まで声と映像だけだった、大統領とリード・ベイカー国防長官の行動が描かれる。
大統領(イドリス・エルバ)は、女子バスケット・チーム慰問中に車に押し込まれ、シークレット・サービスとも離れてヘリで緊急退避する。いかなる時も大統領に同行する報復戦略顧問のロバート・リーヴス海軍少佐(ジョナ・ハウアー=キング)は、いわゆる核フットボールと呼ばれるブリーフケースを持ったまま大統領と行動を共にする。
機内でブラック・ブック(報復措置の選択肢が記載されている)を取り出すリーブスに、大統領は「なんで、そんな本を出すんだ」と狼狽する。
一方、ベイカー国防長官は、ICBMの軌道がシカゴを目指していることがわかると、妻が亡くなって以来、疎遠になっていた娘と連絡を取ろうと躍起になる。娘は、シカゴに住んでいるのだ。ようやく電話はつながるが、娘のキャロライン(ケイトリン・デヴァー)は、父親からの電話を不審に思うばかりで取り合おうとしない。恋人と出かける途中で、忙しいのだ。ベイカーは娘に恋人ができたことに、少し微笑むが、ついに「逃げろ」とはは伝えられない。ICBM到着までは、3分を切っている。
ベイカーは避難するように促され、ペンタゴンのヘリポートに向かうが、そのままフラフラと飛び降りて、自殺してしまう。
一方、報復の命令を下すように迫られて途方にくれている大統領は、リーブスに向かって、本音をもらす。
「君が常にその本(ブラック・ブック)を持ち歩いている目的は、抑止力のためだろ?」「世界の秩序を保つためだ」「米国の備えを知れば、誰も核戦争を仕掛けたりはしない!」「これじゃ、抑止できていないじゃないか!」
大統領は、象の保護活動のためアフリカを訪れている妻(レネイ・エリース・ゴールズベリイ )に電話をかけ、助言を求めるが、電波の状態が悪くうまく話が伝わらない。
「世界は爆薬のつまった家で、壁は吹き飛ぶ寸前だが、人々は住み続けているんだ・・」と、大統領は、ポッド・キャストで聞いた比喩をリーブスに話すが、リーブスは「報復するならMO7とMO9しかありません。1発で終わらせましょう。生き残るチャンスがあるのはそれだけです」と答える。
アメリカが世界に向けて全面報復ミサイルを発射したかは描かれない。最後に「ハウス・オブ・ダイナマイト」と、タイトルが出る。
細部までよく練られ、リアリティを十分確保した脚本で、それぞれの生活をさりげなく描きながらも感情に深入りしすぎない構成も実に良い。
よくできた映画である。
ただし、この映画が描いているのは、未来かもしくは過去。民主党が政権を取っている、ちゃんとしたアメリカでの出来事だ。
この映画の意義は、現在のキチガイ・トランプ政権が崩壊し、ウクライナ戦争が集結した後で、改めて問い直されるべきもののように思う。
いかんせん、現在(2025年)のアメリカで、このような事態が発生したら、この映画のようにはならないからだ!
やや頭が足りない現・米ヘグセス防衛長官は、呼び出されてもほぼ二日酔いだろうし、会議でこのような深刻な事態を告げられたら、発狂して「世界中に核ミサイルを打ち込め!」と命令するに違いない。しかもすぐさまその内容をシグナルで、世界中に発信してしまい、世界中が先に報復を開始しかねない。
トランプ大統領の方は、おそらくこの報告を受けたらこう言うだろう!「それはビューティフルだ!民主党の牙城、シカゴがなくなって900万人も民主党員が死ねば、どれだけ俺様に有利か!?」「報復攻撃?何言ってる?それは金になるのか?」「俺が、大親友のプーチン、習近平、金正恩にミサイルを撃つわけないだろう?奴らは誰も、金を払わないし、核も持ってるんだ!」「撃つなら、日本とか韓国、ヨーロッパのはずれに撃とう。これはディールだ!2発目を打たれたくないから、あいつらはいくらでも俺様に金を払うんじゃないか!これはビューティフルだ!」
バカとキチガイが主導している国で、このような高尚すぎる心配事を映画にしても、正直、あまり意味がないような気がする。とほほ。
By 寅松
