トリガー
ディストピア×クライムアクションが意外にもいい感じ!
2025年 韓国 37~61分 全10話 Bidangil Pictures/Netflix Netflixで配信
監督:クォン・オスン、キム・ジフン 脚本:クォン・オスン
出演:キム・ナムギル、キム・ヨングァン、パク・フン、キル・ヘヨン、キム・ウォネ、ウ・ジヒョン、チョン・ウンイン、チョ・ハンチョル、チャン・ドンジェ、チャ・レヒョン ほか
ディストピアものとして、着眼点が優れている。
ストレスを感じる人の数は、統計上アメリカや日本の方が上なのだろうが・・、日本形の同調圧力社会や、人種間の憎悪がさらに拡大しつつあるアメリカ人種差別社会とは、一味違った意味で「極度のストレス社会」なのが韓国だ。
受験〜就職難の競争社会であることや、女性のへの差別が根強いことはよく言われているが・・・、それよりももっと根本的な国民性があるように思える。
韓国人特有と言われる「恨(ハン)」の意識、そこから派生するのなのか?各々が決して自らを省みるのではなく、いかなる場合も悪いのは相手であると考えがちな民度の低い国民性が、現実問題として、韓国社会で大きな政治/社会問題を引き起こしてるように見える。
クォン・オスンの脚本は、この自己中心的な人間であふれた社会の中で、少数の正しいことしようとする弱者が、横暴な社会から追い詰められる様を丁寧に拾い出し、彼らが逆転のための「トリガー」引いたらどうなるだろう?と問いかけるのだ。
韓国は、徴兵制がある国であり、当然のことながら全ての成人男子は、人生で本物の銃を撃つ機会を持つことになる。拡大する貧富の差、日々極度のストレス晒され、弱者があまりに簡単に排除されてしまう社会に、ある日大量の銃が流通したら???
(正直、日本でもこのところの暑さのせいか、最近はたから見ると意味不明な動機で、人を襲って殺そうとする人間が多発中なので、このドラマの本質的な部分は、全く他人事では無いが・・・。)
2021年のサスペンス映画『殺人鬼から逃げる夜』でデビューしたクォン・オスン監督は、この作品もディストピアものでは終わらせず、全編にスリリングなアクションを詰め込んで、分かりやすい作品に仕上げた。『奈落のマイホーム』で、なんとかキャリアをつなぎとめた・・と評されたキム・ジフンが共同で監督している。
30億を上回る予算をかけた大作であり、(全ての韓国ドラマ/映画に共通するウィークポイントとして、アメリカが舞台となるシーンと外国人俳優のヘボさ否めないが・・)韓国内の描写は、どれもなかなかに練られている。
冒頭は、受験生専用寮で暴発する公務員受験9浪中の男が、マシンガンをぶっ放して(自分を阻害した)入居者を撃ち殺す状況に、銃なしで侵入した警官が取りおさえるまでの強烈アクション。「考試院(コシウォン)」などと呼ばれる、各部屋が3畳ほどのリアルな受験生寮を丸ごとセットで作り破壊しつくす。
韓国お得意の、ありえないほど狭い路地を猛スピードで疾走するカーアクション。狭いワンボックカー内部や、古い民家の廊下で、襲いかかる多数のチンピラを順次ボコボコにする狭小スペースアクション!公衆浴場で、裸のい男たちに向かってマシンガンを打ちまくるアクション(血糊を隠す場所がないので、、チャレンジングだ)。
警察レベルの犯罪では無いことがわかると、ようやく韓国国家情報院が乗り出してきて、中央制御室で対応し始めるが、膨大な液晶を壁一面に配置したこのセットも、予算をケチっていない。
銃規制派と銃規制撤廃派が、ソウルの広場でぶつかり合う最中、巨大コンテナを乗り付けられて銃がばら撒かれると、当然のように起こる無軌道な無差別乱射の光景も、エキストラの数が十分すごい。
キャラクターの設定にも無理はない。
キム・ナムギル(「熱血司祭」「悪の心を読む者たち」「悪縁(アギョン)」)が演じるイ・ドは、街の派出所に勤務するやさしい巡査だが、軍では射撃の名手兼銃の専門家でもあり、傭兵として紛争地域に派遣され、多くの敵を射殺した経験がある。だからこそ、今は拳銃すら持たずに、ティーザーを持ってパトロールしているのだ。
しかし、彼には幼い頃に目の前で強盗に両親を同時に射殺された暗い過去があった・・。犯人を殺そうと、その場に落ちていた銃を取り上げた幼いイ・ドから銃を取り上げ、諭してくれたのは、今の派出所の所長であるチョ・ヒョンシク(キム・ウォネ)である。その後も、ヒョンシクは、息子のようにイ・ドを気遣ってくれていた。
しかしそのヒョンシクも、自分の娘セヨン(コン・ヒョンジ)が、あくどい不動産詐欺にあって自殺すると、信念が揺らぎ始める・・。いつもは、爆笑担当のキム・ウォネが本作では、目一杯の感情的な演技を披露していて面白い。
建設会社の安全対策の不備で、働いていた息子を亡くした母親で、今は毎日その会社の前で抗議を続けるオ・ギョンスンも、イ・ドが母親のように慕う人物だが、最後には送りつけられる銃器を手に取る一人である。オ・ギョンスンは、「ブラック・ドック」「怪物」「ロースクール」「静かなる海」膨大な作品でその演技を認められてきたキル・ヘヨンが手堅く演じているのだが、同時期Netflix公開のドラマSBSの「TRY〜僕たちは奇跡になる〜」でのユン・ゲサン演じるチュ・ガラムを取り立てる校長役、さらにAmazon Primeで公開中のKBS学園ドラマ「巫女と彦星」でも悲運のイケメン、ペ・ギョヌ(チュ・ヨンウ)の祖母役で登場しており、どっちをみてもキル・ヘヨン!?で出過ぎの印象なのがおかしい。
仲の良さそうな主演二人。長髪の方がキム・ナギル(イ・ド役)
悪役の方の設定も興味深い。
最初は、単なる明るいバカのような登場の仕方だが、次第に運転能力も、格闘能力もハイスペックで、どううやらこいつは只者ではないと思わせるムン・ペク。話が進行すると、やはりこいつが黒幕だったのかとわかってくる役柄だ。
「サムバディ」で演じた、建築家で連続殺人犯のソン・ユノで見せた薄気味悪い一面が、この役柄でも発揮されている。
ムン・ペクは偽名だとわかるが、彼がイ・ドに語った人生は真実で、それこそがこの男が韓国社会に銃を与えることで「全てをぶっ壊してやろう」と野望を抱く元になっている。
赤ちゃんポストに捨てられるはずだった彼は、『ベイビー・ブローカー』の悪辣版のような女に詐取されたために、生体移植の材料として目を抜かれ、さらにはアメリカに養子に出されるが、その地では最初から殺されて全ての臓器を販売される材料になる予定であった。しかし、たまたまFBIに救出された彼は、手にいれた拳銃で自分を殺そうとした臓器マフィアに制裁を加る。その、少年とは思えない非情さ気に入った、武器ブローカーのボスに見込まれて、息子のように育てられたのだ。
もちろん、残念な部分もある。
やたらにもったいぶった雰囲気なので、凄く精緻な戦略で、韓国を銃社会に作り変えようとしているように見えるムン・ベクだが、戦略としてはかなり中途半端。
最初に、流通業者として選択したキム社長(アン・セホ)は、ヤクザ同士の抗争で殺されかけ、次に期待を寄せたク・ジョンマン(ク・ジョンマン)は、仲間おもいだが、役には立たず、結局ヤクザ組織を一同に呼びつけて、一人を選ぶのだが、すでに国家情報院も動いているので、銃の回収とイタチごっこに。
最後は、なんだかヤケクソみたいに広場で無料配布に踏み切るのだが、混乱の銃撃戦の中で、幼い子供を守ったイ・ドの映像が拡散されたおかげで、韓国民は感動して、自主的に武装解除に応じるというファンタジックな結末を迎える。
ディティール、一つ一つはリアルなのに、全体のプランになるとなんだか間抜けなのは、ひょっとして脚本家/監督の問題ではなくて、韓国人全体の習性なのか?
