大地の傷跡
雄大な自然には興味ないが・・意外なほど面白い!サスペンスだけでなく痛ましい親子の悲しみの連鎖!
2025年 アメリカ 42〜51分 全6話 John Wells Productions、Warner Bros. Television /Netflix Netflixで視聴可能
クリエイター:マーク・L・スミス、エル・スミス 監督:トーマス・ベズーチャ、ニーサ・ハーディマン、ニック・マーフィ
出演:エリック・バナ、サム・ニール、ローズマリー・デウィット、ウィルソン・ベセル、リリー・サンティアゴ、エズラ・フランキー ほか
久々にアメリカのドラマシリーズで、まともな作品を見た気がするなあ。
邦題を見ると、上品ではあるが、昭和、それもだいぶ昔の名作ミステリー作品にしか思えない。が、映画『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)や『ツイスターズ』(2024)の脚本家であるマーク・L・スミスが娘のエルとともに創作した、新作ドラマである。原題の<Untamed>は、そのままだと「野生の」という意味だが、まあタイトルらしく言うなら「飼いならされざる者」みたいなことか?
最近の欧米ドラマは、今まで取り上げられてこなかった地方を扱うものが多いが、今回はカリフォルニアながら「ヨセミテ国立公園」という地域限定で、公園内だけで完結するドラマで、新鮮味がある。
オープニングの撮影が恐ろしい。二人の男がロック・クライミングの最中に、山頂から突然落ちてきた若い女の死体に絡め取られて、九死に一生を得るシークエンスだが、ドローン撮影技術の向上で、高所恐怖症には堪え難いシーンになっている。
その若い女性の体に、銃弾の跡があり、自殺ではないと判断した公園内のレンジャーと捜査官が、真相を追う話である。
公園内にはレンジャーがいるのは知っていたが、レンジャーとは別に<National Park Service Investigative Services Branch (ISB)>(国立公園内捜査部門)というのがあるようで、主人公のカイル・ターナー(『ブラックホーク・ダウン』『ハルク』『ハンナ』のオーストラリア俳優、エリック・バナが演じる)は、そこの捜査官である。FBIの捜査官から転じたようで、レンジャーとは違い事件性がある案件の場合、捜査する権限をもつようだ。
実際の捜査では、レンジャーや地元警察との共同作業をするようである。
カイルを嫌っているベテラン・レンジャーのミッチ(ウィリアム・スマイリー)に仕事を押し付けられた新任の女性レンジャー、ナヤ(リリー・サンティアゴ)とともに、癖の強いいカイルが、ロスの警官上がりのナヤには理解しがたい独自の方法で捜査を進めてゆく。
構図としては、カイルはFBIのような専門捜査官で、ナヤは地元所轄の警官のような立場だろう。
しかし、全体として捜査全体の責任を持っているのは、ヨセミテ・レンジャー全体のチーフで、カイルにとっても父親のように面倒を見てくれる恩師、ポール・ソウター(サム・ニール)らしく、さらに公園長であるローレンス(ジョー・ホルト)も、入園者数への影響を理由に、やたらと口出しをする。
それだけなら、まあ普通の「絶景ミステリー」になるところなのだが、この物語には3つの年齢の違う親子のストーリーが巧妙に組み込まれて、視聴者にもその意味を考えさせる構造にもなっている。
カイルは、登場時、幼い息子のケイレブ(エズラ・ウィルソン)と会話しながら、密猟者がクマの死体を持ち去った後を検証しており、子供を育てながら仕事をしている男なのだと錯覚させる・・・。
しかし、陰鬱なカイルの言動、元妻ジル(ローズマリー・デウィット)とは離婚している様子で、しかもそのジルは今もカイルの精神状態を心配しているような様子、上司のソウターの心配する様子などが度重なるにつれ、ときどき出てくるカイルのケイレブとの楽しそうな会話は「幻想」であることがわかって、ザワッとさせられる。
カイルと妻のジルは、6年前に息子であるケイレブを亡くしていたのだ。
ケイレブは、もう死んでいるからかもしれないが、やたらに可愛らしくて胸を締め付けられる。
最初の方から、ケイレブが死亡した直後に公園から失踪した大金持ちショーン・サンダーソンという男の遺族が、再捜査を何度も申し立て、弁護士を送り込んでくるエピソードがあるので、ケイレブ失踪と関係がありそうだと思わせはするが、後半に衝撃の真実が明かされてゆく。
もう一つの親子関係は、周囲の協力でなんとか保たれながらも現在進行形で危機に向かう、レンジャー、ナヤ・ヴァスケスとその息子ガエル(オミ・フィッツパトリック・ゴンザレス)の親子である。
ナヤはロス時代には、どうやら麻薬取締の潜入捜査をしていたようで、ナヤは、同じ潜入警官マイケル(JDパルド)の子供を生んでいたのだが、この男が不正で告発され、息子を縦にナヤに偽証を強要したために、ナヤはロスを離れる決意をしたらしい。
この男は、執念深くナヤの居場所を見つけ出し、自宅に上がり込んだり、ナヤが最後に逃げ込んだカイルの山小屋にまでやってくるが・・・、危ういところで小屋に戻ったカイルにぶっ飛ばされて、ようやく捕まることになる。
そして、物語全体の基礎となているのが死んだ若い女性、ルーシー・クック(エズラ・フランキー)とその両親の物語である。当初、彼女は名前もわからず、公園によくいる浮浪者の一人と考えられてる。
物語が進むに連れ、彼女は、2011年に失踪した当時7歳のルーシー・クックであることが判明してくる。
ルーシーは、公園管理事務所で働いていたマギー・クック(サラ・ドーン・プレッジ)の娘で、母親が癌で死亡したのち、暴力夫のジェームズ(ポール・ピアスコフスキー)の元から忽然と消えていたのだ。
当時、失踪を捜査したカイルとソウターも、素行の悪さからジェームズが殺したと判断して、それ以上の深追いをしなかった経緯があった。
ドラマの中では、新しい事実が出るごとに、ルーシーの行動が回想のように再構成されてゆくのだが、逆にルーシーの立場から考えると実に痛ましい人生だ。
実はルーシーの失踪は、失踪ではなく、ジェームズではない本当の父親が、ジェームズから引き離すために取った行動で、ネバダの里親業の男にルーシーを託したのである。
カイルが執念深く探し当てた、その里親は、補助金目当てにたくさんの身寄りのない子供を引き取り、ひどい暴行監禁や育児放棄を繰り返していた。
成長し、その地獄からなんとか抜け出したルーシーは、母親との思い出であるヨセミテに戻って、浮浪者として生活していたようだ。
カイルとナヤのコンビは、公園生活をするヒッピーの一人で、ドラッグの密売に関わっていたと思しき男を泳がせて、公園内のかつての金山跡(坑道内)でドラッグを製造していたギャングを一網打尽にする。
さらにカイルとジルの昔からの知り合いで、ヤク中の野生生物管理官のシェーン(ウィルソン・ベセル)がルーシーと付き合っていたことを突き止めると、カイルはシェーンとの一騎打ちに向かうのだ・・。
危うく殺されかけた、カイルを救ったのは、気を利かせて立ち回ったナヤであった。
しかしそこまでたどり着いてもなお、ルーシーの死の真相は、すべて解明されたわけではなかった。ルーシの里親捜索の過程で得た、「ルーシーの父親は、警察官だと言っていた」という言葉が、最後のピースを当てはめるキーになる。
正直、ここまでやると、作りすぎのような気はするが・・、確かに現実の苦味を思わせる結論ではある。
(途中、シェーンを銃で威嚇したことで、ヨセミテ公園の捜査官を解任された)カイルは、愛馬をヤナに残して、公園を後にする。なぜか、ほんの少し清々した表情で。
なんというか、ここだけ妙にカウボーイもの(西部劇)っぽい気がするのは気のせいか?
By 寅松
