デクスター:ニューブラッド
寒すぎるNY州で、殺人鬼と警察署長を相手に子育てデクスターの苦悩!
2021年 アメリカ 60分 全10話 Clyde Phillips Production, The Colleton Company/Showtime Hulu、Amazon Primeで視聴可能
クリエイター:クライド・フィリップス 監督:マルコス・シーガ、サンフォード・ ブックステイヴァー 原作:ジェフ・リンジー 『デクスター 幼き者への挽歌』
出演:マイケル・C・ホール、ジャック・アルコット、ジュリア・ジョーンズ、ジョニー・セコイヤ、アラーノ・ミラー、ジェニファー・カーペンター、クランシー・ブラウン、ジェイミー・チャン ほか
もともとはCBS系のケーブル局で、現在は、パラマウントに統合されつつある<Showtime>が、2006年から2013年まで製作した不朽の名作「デクスター 警察官は殺人鬼」。その続編として企画されたのが本作だ。
ストリーミングではHuluに独占されてたが、ようやくAmazon Primeでも見られるようになった。
原作は、ジェフ・リンジーの書いた小説だが、原作部分は正直ファースト・シーズンくらい。その後、デクスターのキャラクターは、ドラマ上で大いに活躍を続け、トータル8シーズンに渡る大作となった。
しかし、デクスターが、幼い息子のハリソンを花屋を経営するハンナに託して、自らは、嵐の中船を出して消えてゆく・・という、シーズン8のエンディングに関しては、賛否も多く、続編の憶測も流れた。デクスターが、寒い地方(最初はオレゴンにたどり着いた想定)で生き延びている感触を残した終わり方だったからだ。
ファンは、もう少し早く出ることを期待していたろうが、コロナの影響もあったのか?続編である本作が出るまでには、8年もかかっている。
心配される内容だが、ショーランナー(クリエイターで、全体を統括するプロデューサーでもある)を、全シリーズと同じクライド・フィリップスが務めており、期待をそんなには裏切らない出来だ。
デクスター(マイケル・C・ホール)はジム・リンジーと名前を変えて、今は、NY州北部の先住民居住地近くのアイアン・レイクの森に住んでいる。ルーティンをこなし、人の良い住民たちに溶け込むことで、自らの「闇の声」を封じ込めて生活していた。恋人は警察所長で、先住民の血を引くアンジェラ(ジュリア・ジョーンズ)。仕事は、街の銃砲店に勤務し、森の中のコテージで一人暮らしを続けている。(アイアン・レイクは実在するが、撮影は、マサチューセッツ州シェルバーン・フォールズ周辺で行われた。)
しかし、デクスターは、先住民が「聖なる鹿」と崇めている白い鹿を、目の前で撃ち殺した素行の悪い地元の厄介者マット(スティーブ・M・ロバートソン)を衝動的に殺害する(マットは、薬をやってボート事故を起こし5人も殺していた)。
町をあげての森林捜索の結果、警察は、おそらくマットは禁漁区域で鹿を殺した罪から逃れるために、街道に出て逃げたのだろうと結論づけるが、マットの父親でドライブインや輸送業を営む地元の名士、カート(クランシー・ブラウン)は、マットの捜索打ち切りを認めず、警察に圧力をかけた。しかし、捜査が住民が足を踏み入れない洞窟にまで達する直前に、マットから連絡があったと言い出して、捜索は突然中止になる。
マットが、行方をくらましたのでないこと知っているデクスターは、カートの素行を怪しむ。カートは息子の行方以上に大事な秘密を抱えていた・・。
一方、そんなデクスターの元に、高校生くらいの若者が訪ねてくる。まさかと、思われたが、彼そこはマイアミを去る時に、アンナに託した息子のハリソン(ジャック・アルコット)であった。アンナの母国アルゼンチンに、彼女と共に渡ったハリソンだったが、アンナが病死して、マイアミに送り返されたために、アンナが隠していたデクスターからの手紙を頼りに、アイアン・レイクまでやって来たのだ。
当初、ハリソンの父親であることを否定するデクスターであったが、ハリソンを受け入れる決心をし共同生活が始まる。
一方では、なかなか打ち解けない年頃の息子を抱え、一方では、息子の復習を企むカートとの心理戦、さらには、田舎の警察所長ながら意外なほど鋭い考察で、デクスターの本性に迫り始めるアンジェラとの攻防も始まり、追い詰められてゆくのだが・・。
前のシリーズでは、死んだ継父であるハリーが亡霊として登場して、デクスターの自問自答に答えていたが、このシリーズではデクスターの最愛の妹、デボラ(ジェニファー・カーペンター)が幽霊として登場し、うるさいくらいデクスターの決断に、いちいち異を唱える。
主演のマイケル・C・ホールは、最初の「デクスター」放映当時は、まだ「シックス・フィート・アンダー」で知られるようになったばかりであったが、今では多くの映画/ドラマにも出演している。しかし、むしろオフ・ブロードウエイの多くの演劇で活躍し、自身のバンド<Princess Goes>を率いるロッカーでもあるので、一筋縄ではいかない人物だ。
しかし、どの作品よりもやはりデクスター役がはまっていると言えるだろう。特に、善良な市民を装っている時のマヌケヅラから、殺人を意図した時の悪笑顔へ変わる時の魅力は、この人ならではだ。
「デクスター」の魅力は、アメリカの途方もないいびつな現実を、どう見ても非力な善人にしか見えないデクスターが、内なる殺人願望を解き放って正そうとする姿にあると言える。
オリジナル・シリーズの舞台マイアミは、確かにアメリカ中から、ドナルド・ランプのようなクレイジーな犯罪者が集結して大手を振っている地域であった。デクスターが手を下すべき、シリアルキラーが何人もいてもおかしくはない特殊な地域だ。
時代は変わり、「犯罪者の王」トランプが堂々と大統領になってしまうような狂った時代を迎え、先住インディアンの居留地しかないような平和な土地でも、やばいシリアルキラーがいることが暴かれる。
ドラマではあるが、「ブレイキング・バッド」であれ「デクスター」であれ、名作として受け入れられている犯罪ものは、荒唐無稽なのではなくて、一皮剥いたアメリカのより生々しい現実を提示しているように思える。
アメリカは、まさに犯罪者と力のあるものにとってのパラダイスだ。警察力は非力で、実際に多数の殺人事件や行方不明事件も解決されない。犯罪者が、権力者や金持ちであれば、どのような証拠があっても、裁判で有罪になる可能性はほとんど無い。
力があれば何をしてもいいのだ!(イーロン・マスクを見ろ!)
それに対して、多くの善良な市民は、驚くほど無力で何もできない。アメリカン・ドリームは、今では、犯罪者ドリームでしかないわけだ。
いつでも出勤前に、同僚のためにドーナツを買ってくる人のいい男。誰にでも愛想がよくて、女性にも親切で、皆から好かれる普通中の普通人。社会に溶け込むデクスターの日常は、現実のアメリカではまさに力でねじ伏せられる被害者以外の何物でも無い凡人の姿だ。それが、ある時、悪い笑い顔を浮かべてナイフを研ぎ出すのが、ゾクゾクさせるのである。
デクスター同様に幼少期に実母を殺され、血の海で泣いていたハリソンは、驚くべきIQの高さで、しかも心の奥にデクスター同様の闇を抱えている面倒な高校生になっている。気弱そうな外見と、ちょっとした狂気を見せるハリソンを演じたジャック・アルコットは、ほぼ新人だ。
ハリソンといい仲になってしまう、アンジェラの娘オードリーを演じている、ジョニー・セコイアはすごい美人だが、どこかで見たと思ったら、J.J.エイブラムス&アルフォンソ・キュアロン監督の「BELIEVE/ビリーブ」(2014)で、超能力を持った少女ボーを演じていた子役だった。今は23歳なので、美人盛りだ。
ハリソンとジェニファーが驚きの行動をする、エンディングを見ると、このドラマが単発で、シーズン延長されなかったのも仕方がない気がしてくる。マイケル・C・ホールとクライド・フィリップスは、オリジナル・シーズンの最後で曖昧にしたデクスターの最後をちゃんとやりたかったのだろう・・と、思えたのだが・・。
このドラマが非常に好調だったためか、2024年からは、デクスターの子供時代に遡った<Dexter: Original Sin>が制作され、さらに2025年1月からマイケル・C・ホールが主演する、新シリーズ<Dexter: Resurrection>の撮影がされている。このシリーズにもゲスト出演していたが、バティスタ警部役のデイヴィッド・ザヤスと、ハリソン役のジャック・アルコット、亡き継父ハリー役、ジェームズ・レマーが出演することは決まっているらしい。
死んだのに復活!(Resurrection)するのかよ!!!
By 寅松