弱いヒーロー Class1
ヒーローものではなくて、リアルに描かれた韓国の高校生活!
2022年 韓国 35~47分 全8話 Shortcake、Playlist Studio/Wavve Aamzon Primeで配信
監督:ユ・スミン、ハン・ジュニ 脚本:ハン・ジュニ、ユ・スミン 原作:ソパス/RAZEN「弱いヒーロー」(NAVER Webtoons/日本語版はLINEマンガ)
出演:パク・ジフン、チェ・ヒョヌク、ホン・ギョン、シン・スンホ、イ・ヨン、 キム・スギョム、ナ・チョル、チョ・ハンチョル、キム・ソンギュン、コン・ヒョンジュ ほか
韓国のOTT(配信サービス)会社Wavveが独自に製作し、22年のリリース当初から話題となった作品で、2023年にはHuluが独占配信。その後「衛生劇場」「LaLaTV」(2024年11月放映中)などCSでも放映されたが、このほどようやくAmazon Primeが配信を始めた。
米Forbesが選ぶ「2022年最高の韓国ドラマ20」選出され、Wavveでは「2022年有料加入者数第1位を獲得」した強力コンテンツだが、なんと経営が悪化したWavveは、ドラマ製作費の削減で次回作の製作を断念。シーズン2(Class2か?)は、Netflixからの配信になるという情報もある。
なんだかなあという感じだが、もともとそんな予感はなきにしもあらずだったか?
原作は、韓国ネイバーが提供するウェブトゥーン(日本ではLINE漫画で翻訳版が読める)で2018年に公開された「약한영웅」(ソパス/RAZEN)。それを、ハン・ジュニが脚本、ユ・スミンが監督ということでスタートした企画であるようだ。短編映画でいくつかの賞を獲得しているユ・スミン監督ではあるが、シリーズを完走させるために不安があったのだろうか。途中から「D.P.」『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』などを手がけた実力派、ハン・ジュニ監督自身も「クリエイティブ・ディレクター」などという意味不明な名目で参加し、一緒に監督することになったようだ。(もともと、「D.P.2」を抱えているハン・ジュニが、自分一人では無理があると踏んで、ユ・スミンというのが正しいかもしれないが・・。)
出演者も、主人公になる3人を除けば、重要な役者はハン・ジュニ組で占められている。
不良のヨンビン(キム・スギョム)の依頼で、嫌々ながらシウンたちに焼きを入れようとするソテクを演じたシン・スンホ(D.P.の兵長ジャンス役)、ソテクに懐いていた家出少女で、のちにシユン、スホと仲間になるヨンを演じたイ・ヨン(D.P.のジュノの妹役)、出番は多くないがシユンの父親、ギュジンを演じた名優キム・ソンギュン(D.P.のパク・ボグム役)は、いずれも「D.P.」の出演者。またちょい役ではあるが、主演の、チェ・ヒョヌクとホン・ギョンも「D.P.」に出演していた。
ビートルズ風のレトロ・メロトロンのサンプル・サウンドでいやおうにもノスタルジーを掻き立てるテーマ曲、<Hero>も「P.D.」のOSTを担当したPrimaryが手がけたものだ(歌は、韓国R&Bシンガー、Meego)。
演出の手法にもハン・ジュニの鑿跡(のみあと)が見て取れる。物語の展開がすごいというわけではないが、余韻を残したカットや、逆に時間の大胆な省略などで、テンポを出すとともに、圧倒的に画面に引きつける。
原作は、シンプルなアイディアでスタートした青春ものだ。高校時代、優等生が不良に餌食にされ、いじめの対象にされるという構図は、特に韓国ではありがちなものだろう。ただ、いつも必ず優等生は、いじられるばかりなのか?例えば、体力では劣っても明晰な頭脳があるなら、物理法則や対戦方法の知識で、バカな不良を打ちのめす優等生がいても不思議はないのでは?・・・というところから、物語は始まっている。
主人公のシウン(パク・ジフン)は、全国模試1位の超秀才だが、孤独を抱え他人を遠ざける少年だ。おそらくプロスポーツのコーチかトレーナーらしい父親のギュジン(キム・ソンギュン)は、運動向きでない息子には早くから興味を失ってしまったのだろう。人並みの愛情は示すが、幼い頃「子供なんてほおっておけば育つ・・と思ってたんだ!」と言っていたことを、シウンは忘れない。シウンは、大手塾の数学講師らしい母親(コン・ヒョンジュ)の歓心を買うために、勉強にのめり込んだのかもしれないが、母親は仕事に忙しく、両親は離婚状態。遠征で留守がちな父親の方と暮らしている。
クラスの不良ヨンビンと取り巻きの嫌がらせに、シウンがキレて反撃した時、何気に加勢したのがクラスの傍観者アン・スホ(チェ・ヒョヌク)。格闘技経験者で他の高校生とは段違いの強さだが、授業中は寝てばかりで、進学には興味がなく高校へは通っているだけ。あとから、下校後は毎日アルバイトを目一杯入れて生活費を稼いでいることがわかる。両親を亡くしているが、「高校だけはでておけ」とうるさい祖母の言いつけで、仕方なく通っているのだ。
超名門高校から中堅校のビョクサンに転校して来たオ・ボムソク(ホン・ギョン)は、さっそくヨンビンに目をつけられて、試験中にシウンに薬物パッチを貼る実行犯にさせられる。のちに、和解してシウンらと仲間になるボムソクだが、実は自宅では父親から壮絶な虐待を受けているために、その屈折した感情は爆発すると行き場を失いがちだ。父親のオ・ジンウォン(チョ・ハンチョル)は、国会議員として見栄えがするようにと、孤児のボムソクを引き取っただけの父親なのだ。
「D.P.」のチョン・ヘインが主演して話題になった「となりのMr.パーフェクト」では、チョン・ソミン演じるぺ・ソンニュの、かわいそうなくらい気が弱く善人の父親を演じているチョ・ハンチョルだが、本作では、冷徹で、事あるごとに息子を暴力的に折檻する、悪辣な議員の父親を怪演している。
ユ・スミンとハン・ジュニの演出は、最初の印象としての人物像と、その全体像が見えて来てからの人物像をそれぞれの演者に演じ分けさせていて、構成がしっかりしていて感心する。演技者も実力があるが、それだけではない。演出家としての底力が見えるドラマといえる。
8話は、途中までが3人がともに助けあって、地元の不良を束ねている半グレ集団と対決する話。しかし、後半は、ボクソクが次第に孤独を深め、スホに敵意を抱いて取り返しのつかない騙し討ちを仕掛ける。
その原因が、実は女の子というところは・・まあ青春ものとしてはごくごくありふれた展開ではあるが、ボムソクがなぜ急にヨンに心を奪われたのかについては、どうも謎が残る?
ヨンは、はじめはソテクに懐いて、半グレ集団の一人として行動していたが、なぜかソテクの従兄弟であるヨンビンの脅しにも、決して動じないシウンに興味をもって接近してくる。
暴力団と繋がりもある半グレたちを率いる主犯格、キム・ギルス(ナ・チョル)が逮捕されて一同が散り散りになると、ちゃっかりスホの家に居候するが、特に2人は男女の関係はない。楽しそうな共同生活をSNSで覗き見たボンソクは、2人に深い嫉妬を抱いたようだ。
しかし、ドラマの中ではボムソクがヨンに心惹かれていったのはいつなのか?なんか唐突に感じられる。もちろん、ヨンにも可愛いところはあるだろうが、一目で誰もが恋をする美女として描かれているわけでもないし、最後の最後まで、シウンもスホも、ヨン本人ですら、最後までボムソクが彼女をそんな目で見ていたとは気づかないのだ。
苦い結末を迎えるが、2人の監督は「おとぎ話を描かない」ことでは一致しているようで、青春ものではあるものの、現代韓国のリアリティを十分伝えるドラマになっている。
ちなみに、最後にシウンが転校することになる高校は、ソウルの底辺校らしく、到着そうそう学校の番長が、シウンの前にやって来て「お前は、奴隷だ!」と宣言する。しかし、若い頃の寺門ジモンにしか見えないヒョマンという版長は、多くの修羅場を経験し成長したシウンに返り討ちにあう。
このヒョマンを演じた俳優ユ・スビンは、ユ・スミンの6歳年下の実弟らしい。
By 寅松