鉄槌教師
韓国の今の教育問題がえぐられていて、ヒリヒリするリアルさで面白い!
2026年 韓国 52~72分 全10話 Ylab Plex、GTist/Netflix Netflixで配信
監督:ホン・ジョンチャン 脚本:イ・ナムギュ、キム・ダヒ、ムン・ジョンホ 原作:チェ・ヨンテク、ハン・ガラム作「참교육」(鉄槌教師)(NAVERウェブトゥーン)
出演:キム・ムヨル、イ・ソンミン、チン・ギジュ、P.O、ハヨン、イ・ボンジュン、キム・ジョンス、イ・サンヒ、ソン・シアン ほか
もともとは、ウェブトゥーンとして、斬新な暴力描写などが注目を集めた作品だが、それを「未成年裁判」「Mr.フランクトン」のホン・ジョンチャンが監督、「ヒップタッチの女王」や「私は道で芸能人を拾った」などの印象深い脚本でも知られるイ・ナムギュらが脚本を担当し、Netflixのオリジナル作として制作された。
最終的な解決方法は、かなり無理のあるウルトラCではあるが、そもそも「教権保護局」という設定自体も無理がある。原作のウェブトゥーンの方ですら、全国民が芸能人のスキャンダルに注意を気を取られている間に、ひっそりと法案を通したことになっている・・という組織だ。
この辺の馬鹿らしさは、そもそも韓国にはまだ存在しないトラウマコードで稼働する重症外傷科をセンターとスーパーマン的外科医を登場させた「トラウマコード」とそっくり。
「トラウマコード」も医師でもある作者自身が、韓国の医療を救うには「もはやスーパーマンが必要だ」と感じたことがスタートであると語っていたが、まさにこの「教権保護局」も、もはや現状の韓国の教育の実情を打破するためには、ここまで極端なスーパー組織が必要なのだろう。
「暴力を肯定していると」当初、ドラマ公開に反対していた韓国の教育関係者たちも、これはドラマではなくて韓国教育の実情だと悲痛な声を上げているらしい。
というわけで、Netflixの公開作品でも世界ランキング上位に食い込む、大成功を収めた。
ヒーローである「教権保護局」の方は、チェ・ガンソク局長(イ・ソンミン)を含めて、ナ・ファジン(キム・ムヨル)、イム・ハンリム(チン・ギジュ)、事務官のポン・グンデ(P.O)のわずか4人のチームで、まさにスーパーすぎる活躍だが、様々な問題を抱える学校の方に関しては、かなりリアリティのある荒廃ぶりが描写されている。
しかも、現代の韓国教育現場が抱える様々なタイプの問題が取り上げられているのも良い。
最初の「大韓高等学校」は、多くの韓国ドラマでありがちの構図、つまり有力国会議員リュ・グァンピル(ソン・ヨング)の息子リュ・ジュンヒョン(イ・スンギュ)が、親の権力を笠に陰惨な暴力をふるっている。いじめの対象が自殺する事件が起こっても、父親を恐れる学校側が隠蔽を図る始末。
日本の工業高校のような「クウンハイテク高等学校」のようなクラスの高校では、学内の不良グループは、外部の不良グループ、さらにその上に暴力団の下請け的な構造で、学内で授業を妨害する。
一方「ソヨン女子高校」のような女子校でも、インフルエンサーとしても有名なハン・イェリ(パク・ソユン)のように、自己中心的で影響力のある女生徒が、教師も周りの生徒も脅迫したり、ガスライティング(心理操作)などの手法でねじ伏せて、大手を振るっている。
「チュンミン外国語高等学校」は、元々塾のスター講師であったチョン・サンヨル(チェ・ドンムン)が名門に引き上げた実力者だが、一方で、サンヨルは、優秀でも貧しい生徒を蹴落として、大企業や政治家の子息を優遇するために、試験問題まで提供している。
赴任してクラスの担任を引き継ぐナ・ファジンが、てんてこ舞いする「ヒョンジュン小学校」は、イ・ジヨン(パク・ジヨン)のようなモンスター・ペアレントのクレームで、新任教師がうつ病を発症するまで追い詰められている。
「ヒョンジン中学校」の不良グループは、韓国の法律では送検されることのない「触法少年」であることを良いことに、大人顔負けのあらゆる犯罪に手を出している、悪辣な触法少年グループだ。
「ナクウォン高等学校」では、韓国だけでなく、日本やその他の国でも問題になっているオンライン・カジノ問題が爆発。違法賭博サイトの下請けとなる生徒が、他の生徒を勧誘し、莫大な課金をさせ親の破産を誘発している。その上、借金を払えない生徒は、賭博サイト配信基地に監禁して、働かせるのだ。
カンナムの有名校「スンヨン高等学校」では、ソウル大学の医学部に息子を入れたい教育ママの熱心さが暴走し、(集中力を高めるという)危険な薬物で生徒を追い詰めている。
「チンウォン高等学校」では、有力者の息子イ・チホ(キム・ジェソン)の一団にいいように使われていた「人間WiFi」であるチャン・ソング(イ・ウジェ)を救うが、この学校はまた、(チェ・ガンソクの娘でナ・ファジンの婚約者である)チェ・ガユン(ハヨン)が、チョ・ギュチョル(イ・ボンジュン)に殺害された学校でもあり、野党代表大統領候補ファン・ギテ(キム・ジョンス)をチョ・ギュチョルが抱き込んで、教権保護局潰しを図る策謀に、ナ・ファジンたちが決戦を挑む現場でもある。
真面目な教師であったチェ・ガユンを殺害しても、ファン・ギテの力を借りて数年で仮釈放されたチョ・ギュチョルは、実は高校の違法薬物汚染の元凶であった。ドラマは基本1〜2話の完結型だが、チョ・ギュチョルを完全に打ち砕くという決意に満ちらナ・ファジンの戦いは、ドラマの縦糸に当たる物語だ。
最後の最後で、ガユンと同様にナ・ファジンをナイフで刺すが、それでも捕らえられたチョ・ギュチョルは、「さっさと殺したらどうだ!」と詰め寄る。
「なんで、殺さないんだ!」と喚(わめ)くチョ・ギュチョルに、ナ・ファジンは、最後の教育的言葉を絞り出す。
「それは、大人だからだ!これが大人だ!」と。
物事の基準が「自分にとって得か損か」、「利益か不利益か」だけという、顕著な強欲資本主義社会で育てられたチョ・ギュチョルには、初めて聞くような言葉だったに違いない。これこそが韓国原題「真の教育=참교육」の意味だろう。
アメリカ、日本は、特に国の指導者が、あまりに知能程度の低すぎる、強欲政治家と成り果て、韓国も積年のアメリカ型資本主義偏重による悪影響は甚だしい。
このような狂った社会で、教育が本来の力を発揮するためには、まさに「教権保護局」並みの強力な組織が必要である。
演技者で言えば、主演のキム・ムヨル(ナ・ファジン役)は、おそらくは期待以上の演技を見せ、評価を上げたと言えるだろう。
本来、ソリの合わないファジンの義理の父でチェ・ガンソク局長を演じたイ・ソンミンは、信頼度の高い名優ならではの演技だった。
ファジンの後輩で、元特殊戦司令部に所属していた強烈な戦士でもあり、ちょっと可愛いコメディエンヌぶりも発揮しなければならなかった、イム・ハンリム役のチン・ギジュも熱演である。
ポン・グンデのキャラ自体があと出しで、面白くなっていくが、同時に演じたP.Oの演技の幅も引き出すことになったと思われる。
特別出演で、回想シーンのみに出演するチェ・ガユン役のハヨンも、適役だろう。まさに「トラウマコード」で「ヤクザ」の異名を持つベテラン看護師チョン・ジャンミを演じて知られるようになったが、ペ・スジ主演の「イ・ドゥナ」でヤン・セジョン演じるイ・ウォンジュンが、高校時代に恋心を抱いていた同級生、キム・ジンジュも清楚な感じが印象的だった。
次回作は、チョン・ヘイン(「D.P.」「となりのMr.パーフェクト」)と絡むNetflix作品の「恋は飴模様」。記憶喪失のエリート検事を演じるという。面白い!
悪役では、一見気弱そうだが、何を考えているかわかない不気味なチョ・ギュチョルを演じたイ・ボンジュンが、圧倒的にリアルな演技だった。こーゆー奴がいたら、本当に始末に負えないな!
ミュージカルや舞台演劇からスタートした俳優で、「還魂」などにも出演している。
By 寅松
