海外ドラマ

カロとペーター 統一ドイツ捜査チーム

謎の音楽センス・・ではあるが、時代を丁寧に描いた脚本!

ZERV – Zeit der Abrechnung/Divided We Stand
2022年 ドイツ カラー 50~60分  全6話 Gabriela Sperl Produktion、W&B Television/ARD ミステリーチャンネルで放映
原案:ミヒャエル・クレッテ 脚本:ミヒャエル・クレッテ、イェンス・コースター、ガブリエラ・シュパール、キム・ツィンマーマンほか 監督:ダスティン・ルース
出演:ナディヤ・ウール、ファビアン・ヒンリヒス、トルステン・メルテン、フリッツィ・ハーバーラント、ヘンリエッテ・ヘルツェル、マックス・フーバッヒャー ほか

 邦題は、なんだかほのぼのしたドイツの夫婦探偵みたいな雰囲気を醸し出しているが、原題の「ZERV」は、「政府犯罪および統一犯罪中央捜査局」の略称。副題の方は、英語だと「分断された我々」みたいな意味だが、ドイツ語は「精算の時」とか「ツケを払う時」みたいな意味合いだと思う。
 ドイツ人の感覚は、ちょっと日本人に似ているのか?米英のようにはっきりしたコメディ調ではないが、決して暗い感じでもない。人情物的なトーンで進むが、扱っている題材は意外に重い。ドイツ公共放送ARDの作品なので、ある意味、NHK的な完成度であるが、センスという点ではNHK同様、やや首をひねる部分もある作品。

 東西ドイツのベルリンの壁が、崩壊するのは1989年のこと。東ドイツにあった5つの州と東ベルリンは1990年にドイツ連邦共和国に加盟することで、ドイツ統一は実現された。
 しかし、統一と同時に、特に旧東ドイツ地域は、以前の体制で警察が体験しなかったような組織犯罪が増大し、統一の混乱に乗じた密輸などの犯罪も多発した。
 1991年にできたZERV(政府犯罪および統一犯罪中央捜査局)は、旧東ドイツ時代に行われた不正行為を捜査/解決するために組織された部署で、実在した警察組織である。

 経済犯罪を取り扱ってきたバイエルン州のペーター・ジモン(ファビアン・ヒンリヒス)とその仲間たちが、ZERVとして派遣されたのは東ベルリン地区。西側から来た彼らにとっては、あらゆることがカルチャーショックだ。設備は整わないし、車も配備されない。ちょっと郊外に出れば、泥道で靴が汚れて頭に来る。
 現場の実働部隊は、地元東ベルリンの警察が対応することになっているのだが、こちらも旧西側に反感を抱いているし、そもそも東ドイツの体制が崩壊したことで、犯罪に手を染めざるを得なかった旧東ドイツの人間には同情的という問題もある。
 その中で、堅物で自分を曲げないペーターと、地元警察のやり手だが、5年前に旧被害ドイツの軍の関係者の父親が消えたことを今も追いかけているカロリーネ・シューベルト(通称カロ:ナディヤ・ウール)が、個人的な絆を育て、旧東ドイツの軍備の密輸出犯罪などを暴いてゆく。
 東西統一期のこのような葛藤は、ドイツでも今、世代が変わる中忘れられようとしてい一方で、今まで語られなかったものがようやく語られ始めた一面もあるのだろう。統一35周年を期に、ARD1が取り組もうとするのもよくわかる。

 ZERVが当初から巻き込まれるのは、殺人事件から発覚する武器取引の事件。しかし、現物を抑えて発信機をつけていたにも関わらず、犯人に裏をかかれ、大爆発で見張りのために現地にいた、ペーターの部下で女性刑事のフラウケ・ベックマン(ヘンリエッテ・ヘルツェル)は、脊髄損傷の大怪我を負う。
 一方で、ZERVが設立されたことが報道されると、思いもよらない訴えも持ち込まれる。東ドイツから、西側に脱出しようとして失敗した父親は、3歳の自分の娘を取り上げられ、獄中にいる間に不当な養子縁組をされて行方不明だというのだ。
 この訴えは、ペーターとその部下の若い職員、パトリシア・シェーファー(アリーナ・スティグラー)の尽力で消息を突き止めるものの、その事件が報道されて、青少年局長がクローズアップされると、その男が、東ドイツ時代に管理していた児童矯正施設で、児童を虐待してきた過去が明らかになってくる。

 脚本の方は、総花的な部分もあるが、当時の東と西の複雑な社会状況や感情に配慮しており、よくできている。

 殺されたトロックラント(クリティアン・ヴェヴェルカ)やアレグザンダー・エビングハウゼンと名前を変えたカロの父親(ペーター・シュナイダー)とともに東ドイツ軍の商業調整部に所属していて、今は武器密輸出を手伝うゲアスター(トルステン・メルテン)は、融通の利かないジモンに向かって「何がムカつくかって、そのお前の無邪気さが腹が立つんだ!西側は潔白だと信じ切っている、お前のな!」と言い放つ。
 同じ軍にいた彼らだが、トロックラントは生真面目で不正密輸を暴こうとして殺され、カロの父親は、東ドイツ崩壊前に東ドイツに見切りをつけ、西側情報部の助けを借りて姿を消す、一方ゲアスアターは、武器密輸に加担する一方で、東ドイツ崩壊後、経済的に困窮している仲間たちを自分の清掃会社に雇用し、金を配って面倒を見ている。3人の行動の違いが、当時の東ドイツをよく物語っているとも言えるだろう。

 密輸の捜査が核心に迫ると、なんと捜査自体が上からの命令で中止され、すべての資料が情報部に持ち去られるという事態が発生する。そこに至ってようやくペーターたちは、すべての黒幕が自分たちのトップである、ボーア(ベルタ・オットー・ハインリヒ・リヒャルトの略)国務次官(アルント・クラビッター)であることに気づき、その配下ので情報局から送り込まれた部下のホルガー(マックス・フーバッヒャー)が捜査情報を流していたことを知るのだ。
 結局のところ、すべての不正は暴かれはするが、密輸は止められず、一番の大物ボーアは、退任後に逮捕状は出るが、タッチの差で元シュタージの殺し屋に殺されてしまう。(カロは大立ち回りを演じて、殺し屋は確保する)
 途中から大体わかっていたが、最後には仕事人間のペーターの悲しい過去が告白される。

 東ベルリンでは、90年代初頭、多くの若者が放棄された建物などを不法占拠してクラブなどを運営し、過激な若者文化が花咲いていた。インダストリアル・ミュージックやテクノの全盛期で、デヴィッド・ボウイやイーノも大きな影響を受けた。まさに先端文化の中心地だったはずだ。
 もちろん、その文化も少しばかり描写されるのだが、なんだか子供の文化祭的扱いである。
 そのせいか、テーマ曲も一応テクノが使われているが、ほぼ使い方は効果音的。
 音楽として印象に残るのは、ペーターが好きなのか、民謡調のドイツ歌謡曲や、ペーターの宿泊ホテルのラウンジに東ベルリン初のカラオケ機材が設置されて、酔っ払ったカロとペーターがデュエットする昔の曲。カロの父親が好きだった、50年代くらいのアメリカのジャズボーカルなどの方である。
 NHK的な全国の高齢視聴者への配慮なのか、製作者が全員高齢なのか、その辺はよくわからないが、今時のサスペンスとしては異例の音楽センスと言えるだろいう。

By 寅松

英字幕トレーラー

トレーラー&インタビュー