海外ドラマ

美食無間

なんだこりゃ?グルメ食べ歩き番組みたいな刑事×ヤクザドラマ!

美食无间/Gourmet Affairs
2023年 台湾 60分 全12話 发起日影视、三立電視 SET TV/チャンネル銀河で放映 Amazon Primeで視聴可能
監督:レスター・シー 脚本:フー・ジョンホア、チェン・ボーゾン、シャオ・ウェイジョン
出演:フー・モンボー、ワン・ポーチエ、ジエン・マンシュー、クー・シューユエン、シア・ジンティン、ホァン・シャンホー、ピース・ヤン ほか

 韓国ドラマも、まるで国家戦略のように韓国料理グルメ・シーンの押し売りは激しいし、日本のドラマも、特に深夜ものは「孤独のグルメ」「きのう何食べた?」の成功以来なのか、いつのクールでも必ずグルメに引っ掛けたドラマが1、2本はあるのが当たり前になったけれど、ここまで徹底したバカ・グルメドラマはなかなかない!
 逆にドラマでは新興国の台湾ならではの発想かも!

 基本、刑事物というか警察vsヤクザ組織の物語で、アクションドラマではあるのだが、登場する人物が、いい感じで美食至上主義者ばかり。いきおい、捜査も大事だが、まずは飯が優先!になってしまうのだ。
 ストーリーは、ヤクザ組織のNo.2が、そもそも潜入捜査官という、香港映画的なとぼけたフレームワークで展開する。
 主人公の刑事、朱坡ジュー・ポー(フー・モンボー)は、刑事だった自分の父を殺した人物と信じている、ヤクザ組織KN集団のNo.2胡仲魁フー・ジョンクイ(クー・シューユエン)を追っている。実は、父が殉職して以来、この胡仲魁は、父親の代わりに自分にグルメ道を教えてくれた人物でもあったのだ・・。
 おいおい、この時点で話がおかしいことに気づけ・・と、思うが。
 しかし、この胡仲魁が死んだらしいという情報が入り、混乱した状態で話はスタートする。
 そんなとき、刑事部に新人刑事として配属されてくるのがショートカットで可愛いが、実は大食いという女性刑事、呉薇ウー・ウェイ(ジエン・マンシュー)。教育係として呉薇を押し付けられた朱坡は、仕方がないので捜査というかグルメ巡りを彼女を連れて一緒にすることになる。
 立ち回るグルメスポットごとに、いつも出会ってしまう趣味の似ているグルメ野郎が、黎子東リー・ズードン(ワン・ポーチエ)とは、最初は反発しているものの、次第に興味を持ち始め、ついに三人は飯友になってしまう。
 しかし、実は、黎子東は凄腕の殺し屋であった。
 本来なら刑事に近づくなどもってのほかだが、黎子東には、孤児院で一緒に育った妹のような少女を守れなかった悔いがある、その少女の面影を呉薇に重ねていたようで、面倒な心理状態になってしまうのだ。
 
 実は、この呉薇の方にも大きな秘密があるのだが・・。ま、正直ストーリーの方は、ヤクザ映画や香港映画の影響が感じられる、日本の昭和の地上波ドラマ程度の代物で、真面目に追いかけるほどの話でもない。
 説明や描写も不十分なところが多く、描写しなくともムードで押し切るのは、韓国ドラマとは違い、むしろ日本的。
 ただ気に入ったのは、登場人物たちの、損得や善悪よりも、美食に対する態度が何より大事だという姿勢である。(そんなバカな!:笑)
 殺し屋と懇意にしていたことを所内で問い詰められた呉薇は、堂々と「食を大事にする人に真の悪人はいません!」と堂々と宣言したりするのだ。

 登場する飲食店の選定をするスタッフは200店以上を訪問し、最終的に21軒を選定したらしい。
 台湾料理だけでなく、中国各地の料理、欧風グルメバーガー、日本料理、韓国料理など区別なく登場して、台湾のグルメの魅力を余すところ無く紹介してくれる構成だ。何が何でも自国の独自グルメを持ち出さないと、世間が許さない・・みたいなバイアスにさらされている韓国とは違い、その点、台湾人はしなやかだ。
 そもそもドラマ・タイアップも大きいのが、ニコン、マツダ、ファミリーマートで、車は全てマツダ車だし、ドラマ内ではファミマの商品で独自サンドを作るサービス・シークェンスまで入っている。

グルメシーン抜粋

 印象的なのは、黎子東が一人で通う日本食店「魚くん」で、儀式のように殺しの依頼書を見る前にうまいものを堪能する光景や、父が帰らず取り残された子供の朱坡に、父の友達だと名乗る胡仲魁が、道端の店でたくさんおでんを食べさせてくれる光景。
 朱坡と黎子東が待ち合わせた風情のあるおでん屋は、台北の「角屋」という関東おでんの店らしい。
 海鮮市場で、2人はタラバガニの食べ方でも意地を張り合うが、本来中国ではワタリガニしか食べないと思うので、このようなタラバが流通してることさえ日本食の影響なのだろう。
 そのほかにも鍋類が三種。北京風のしゃぶしゃぶ鍋(銅鍋涮肉:ただし台湾なので肉は豚肉)、高級店の2色の麻辣火鍋。トリに出てくる台湾のアヒル鍋「薑母鴨」(ジャンムーヤー)。ワタリガニを丸ごと入れるアレンジも本場ならでは。
 もちろん有名な台湾小籠包や、杭州料理の「東坡肉」(トンポーロー)の名店も。
 ジャンクフードも多く出てくるが、呉薇の数少ない父親との思い出の味らしい、台湾おにぎり「飯糰」(ファントァン)にとっても惹かれる!
 東京には、まだ専門店が一つしかない。(2025円6月現在)

 朱坡を演じた主演のフー・モンボー(傅孟柏)は、『本日公休』『返校 言葉が消えた日』などの映画や、Netflixで見られるドラマ「結婚してる…それでも!」などで知られる俳優。去年、マネージャーと結婚した。
 呉薇を演じた、ジエン・マンシュー(簡嫚書)は、36歳(1988年生まれ)で実は、黎子東役のワン・ポーチエより年上。日本では、2017年の映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』や紫門ふみの原作をドラマ化したの「お仕事です!〜The Arc of Life〜」などで知られる。
 独特の髪型でおっつさんぽく見える、殺し屋・黎子東を演じたワン・ポーチエ(王柏傑)は、実は3人の中で最年少35歳(1989年生まれ)。「いつでも君を待っている」などのドラマのほか、『人間万事塞翁が犬 』(2012)や『おもてなし』(2017)など日台合作の映画に多く出ている。

 「次の被害者」でも、シュー・ハイインに脅されて情報を横流しするダメ刑事を演じていた張再興が、このドラマでもにたりよったりの刑事役を演じている。
 ストーリーは、やや浪花節調の結末で3人の別れがやってくるが・・。本当の悪い奴って、あんなやつでよかったのかなあ・・。

By 寅松

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