海外ドラマ

特別捜査部Q

デンマークの仏頂面警部が、スコットランドで大復活!口数の多いやさぐれデカと元シリア情報警察エリート。凸凹コンビの快進撃!

Dept. Q
2025年 イギリス カラー 42~71分  全9話 Left Bank Pictures/Netflix Netflixで視聴可能
監督:スコット・フランク 脚本:スコット・フランク、チャンドニ・ラカーニ 原作:ユッシ・エーズラ・オールスン
出演:マシュー・グード、クロエ・ピリー、アレクセイ・メンヴェロフ、ケリー・マクドナルド、リア・バーン、ジェイミー・サイブス、ケイト・ディッキー、スティーブン・ミラー、トム・バールペット、アーロン・マクベイ、カイ・アレクサンダー ほか

 ありゃ?と、思った方も多いだろう。デンマークの人気ミステリー作家、ユッシ・エーズラ・オールスンの代表作である「特捜部Q」シリーズの「檻の中の女」の英国リメイク作である。クリエイターと監督を「クィーンズ・ギャンビット」のスコット・フランクがつとめており、Netflixオリジナル作品として公開された。
 ミケル・ノルガードが監督した映画版は、97分という短めの映画だったのに比べて、本作は1話40〜70分で9話分なので、そうとう内容は深化している。
 そもそも映画版(原作も)誘拐された被害者は、野党の副総裁である女性議員だったが、このドラマ版ではやり手の女性検事であり、過去に敵に回した犯罪者が多いばかりでなく、不正を告発されかねない上司である検事局長やら、切り捨てた証言者まで、被疑者の疑いをかけられる範囲も多岐にわたる。
 被害者が監禁された、古びた昇圧ドームの存在についても、映画版では若干唐突感を拭えないが、本作ではその場所がかつて海底油田計画が立ち消えになった島であり、周辺事実の説明が十分されている。それに伴い、被害者と被疑者の関係性も変更されていて、誘拐の動機や執着の意図も多少違うものになっている感がある。

 主人公である刑事カールのキャラクターや、部署の成り立ちは原作/映画と同じである。映画版でニコライ・リー・コスが演じたカールを、本作では痩せすぎのマシュー・グードがヒゲ面で演じ、やさぐれた雰囲気は十分だ。
 舞台はスコットランド。
 エディンバラ警察の地下。遺棄されたトレーニング施設のような部屋で、デパートメントQ(特別部署)は立ち上がることになる。

 DCI(主任警部)のカールは優秀なだが、協調性が低く周りを無能呼ばわりするストイックな性格から、警察内部でも疎まれている。そもそも、スコットランド警察に勤めるイギリス人であることで、彼の扱いは決まっているのかもしれない。唯一の理解者は、同僚で相棒のハーディー(ジェイミー・サイブス)。
 しかし、カールとハーディーは、何気に通報の近くにいたということで立ち寄った殺人の現場で、隠れていた犯人の銃撃にあい、現場の警官一人は死亡。相棒のハーディーは頚椎を損傷し、下半身不随に。自分も生死の境をさまようが、なんとか回復して復活したばかりだった。
 カールの上司であるモイラ(ケイト・ディッキー:ニコラ・ウォーカーの「警部補アニカ」でもアニカの上司、ダイアンを演じていた。よほど、スコットランドの警察幹部らしい女優さんなのだろう・・。)は、その頃、大臣肝いりの企画である、未解決事件の再捜査に当たる部署を検察庁から打診され、多額の予算と引き換えにこの話を受け入れる。
 もちろん彼女はこの予算を、そもそも足りない通常の殺人課に流用するのが目的で、新部署など名前だけでいいと思っていた。そして、その部署を統括する責任者としてただ一人指名したのは、当然のようにカールだった。自分が被害者の事件を担当するわけにもいかないし、現場の勝手な判断で死亡者を出した刑事を、元の部署に止めるわけにもいかないからだ。
 膨大な資料が積まれた地下室でに押し込まれたカールは、助手をつけるようにモイラに注文をつける。
 ちょうどその頃、IT部門から殺人課に移りたいと熱心な要望を出していたシリア難民の男、アクラム(アレクセイ・メンヴェロフ)を、資料整理係のつもりでカールの下につけるモイラだが、実はアクラムはなかなか凄い男だった。もと情報警察だったらしいアクラム。推理や観察も一流だが、ツボを締めあげるだけで大男も倒す武力もカールよりずっと上だ。(映画版のほかの話では、アクラムは銃撃も名手であることが判明する。)
 アクラムの鋭い指摘で、5年前に起こった女性検事メリット(クロエ・ピリー)の失踪事件を再捜査することにしたカールだが、実際の捜査は難航する。脳損傷で喋ることができない弟ウィリアム(トム・バールペット)と共にメリットは、故郷であるエディンバラ沖のモル<Mhòr>島に向かうフェリーに乗船し、そのまま行方しれずとなったのだ。メリットは、おそらく船から自分で海に飛びこんで自殺したのだろうと結論づけられていたが、彼女を知る人物たちは、彼女が自分の意思で「弟を一人にするはずがない」と証言する。

出演者の面々

 時間の余裕があるのもあるが、映画版とは違い、様々人物の背景も描かれる。
 映画版では孤独な男にしか見えなかったカールも、このドラマ版では自宅には哲学科の博士課程に8年も在籍しているマーティン(サンジーヴ・コーリ)という同居人がいたり、奔放な元妻が置いていった義理の息子ジャスパー(アーロン・マクベイ)との関係に悩まされていたりする。
 銃撃事件後に通うことが義務付けられている、カウンセラーの面談には全く積極的でないカールだが、おばあさんのカウンセラーの代役でセッションを受け持った、レイチェル(ケリー・マクドナルド)には、どうやら惹かれているらしく、自分から追いかける。
 カールと元の相棒のハーディーとの関係も少々違う。デンマーク人とイギリス人の違いかもしれないが、カールは頻繁にハーディーの病室を訪れて、このまま殺してくれと訴えるハーディーを無視して、見舞い続けるのをやめない。
 最初は絶望していたハーディーも、カールが捜査ファイルを病院に持ち込むと、嫌々それ読み始め、持って来させたラップトップを使って、手がかり集めに協力することになる。
 映画版では、次の作品「キジ殺し」からQチームにくわわる若い女性秘書ローセだが、ドラマ版では、交通事故のトラウマで内勤を命じられていた女性警官ローズ・ディクソン(リア・バーン)に置き換わっていて、ドラマ中盤でチームに加わることになる。ローズの父親が、ハーディの教育係だったために、やや情緒不安定なローズを何くれとなく面倒を見ていたという設定なのもなかなかよい。

 一方、最後まで正体が明かされない謎の犯人なのは、原作/映画版と同じだが、被害者メリットの置かれた状況が丁寧に描かれるのも、かなり違う。
 昇圧ドームに閉じ込められた彼女は、犯人から月に1回、自分が何の罪を犯したのか?思い出すように要求され、それに応えないと圧力をあげる罰を与えられる。この辺の描写が結構長く、映画より圧倒的にエグい。
 ドラマが後半に入ると、犯人は母親と息子のようなコンビあることと、その激しいサイコパスぶりも描かれているのだ。
 最後の最後に犯人がわかり、「サイコパスな野郎でした」と言われても、納得するのは難しいが、このくらい丁寧に描かれていると、5年も被害者を閉じ込めた狂気の犯行も、理解しやすい。

 映画版を知っているので、最後にメリットが助け出されるのはわかっているが、それでも最後の最後までハラハラさせられる。急に減圧したら、目玉が飛び出すぞ〜!と、思っていたら、緊急搬送用の小型カプセルがあるとは知らなかった。
 思わぬ事件解決で名前を上げたQチームではあるが、難民のアクラムを刑事にするために、裏でカールが立ち回っているあたりも、次のシーズンは作る気満々といいうことだろう。
 スパルタ気味のリハビリ医の努力で、なんとか歩行杖で動けるようになったハーディーが、初めてQチームの事務所に出勤し、エレベーター前の階段を見て怒るところでドラマは終わる。
 原作と違い、次のシーズンには、ハーディーもチームに参加するのだろうか?

By 寅松