警部補アニカ 〜海上殺人捜査ファイル〜 シリーズ1
超美人の娘の処遇に困りながら、水がらみの殺人に挑むノルウェー系の女性警部補!
2021年 イギリス カラーHD 53分 全6話 Black Camel Pictures/UKTV Drama(alibi)、BBC One WOWOWプラスにて放映
クリエイター:ニック・ウォーカー(原作:ラジオドラマ「Annika Stranded」) 監督:フィリップ・ジョン、フィオナ・ウォルトン
出演:ニコラ・ウォーカー、ジェイミー・シーヴェス、シルヴィ・フルノー、ウクウェリ・ローチ、ケイティ・ルング、ポール・マッギャン、ケイト・ディッキー ほか
「MI-5」「刑事リバー」「コラテラル」「ザ・スプリット」そして何よりも「埋もれる殺意シリーズ」のキャシー役として知られる、名女優ニコラ・ウォーカーの主演作として、本国では人気の高いシリーズ「警部補アニカ 〜海上殺人捜査ファイル〜」。もともとは、本作のクリエイターを務めるニック・ウォーカー自身がラジオのために書き下ろしたドラマ<Annika Stranded>(アニカ・ストランドヘッド)をTV用に改作した作品だ。
実在しないスコットランド警察の新設部署である、海上殺人捜査班(MHU)を舞台に、颯爽とボートで現場に臨場するアニカ・ストランドヘッドの活躍を描くのだが、どーも色々と必然性もリアリティも乏しい脚本で、かなり「?」が頭を巡ることになる。
ウォーカー演じるアニカのセリフには、いかにも彼女らしい機知とユーモアがあるのだが、とてもロンドン/インテリ階級的なセリフであり、わざわざスコットランドやらノルウェー系やらの設定が必要なのか?(オープニングの音楽や映像の使い方を考慮すると、監督とクリエイターは、北欧サスペンスドラマのイメージを印象したかったのか?ということだけは理解できるが・・。)
スコットランドの海上殺人課という設定も疑問である?ヘブリディーズ諸島や、アバディーン沖の北海で起きた、雄大な海上事件でも扱うのかと思いきや、基本エディンバラの周辺の運河や港で起きる都会の事件ばかり。ウォーカーに船の運転をして欲しかったのかもしれないが?正直「海上」の必然性がまったくわからない。
事件の方も、大した事件ではないのだが、事件の解決と同じ比重で描かれるのは、美人すぎる年頃の娘モーガン(シルヴィ・フルノー)の反抗期に振り回され、さらにモーガンのために雇ったカウンセラー、ジェイク(ポール・マッギャン)との性関係に悩む中年女性の日常である。
シーズン1で15歳から16歳を迎える設定なので、モーガン行動は、超美人さんとしては王道の親への反抗ともいえるが、無理やり入れられた中学の演劇部では、公演中の舞台の上でセリフの代わりに「クソみたいな船で、クソみたいな学校へ行かされ、クソみたいな演劇に出ている!」と悪態をつき、水筒にウォッカを入れて登校して校長室に呼び出され、アニカの部下であるブレア(アジア系)の妹、エリンとはレズビアン関係に目覚めてしまう。
ドラマの中でアニカは、娘に対する本音をいちいちカメラに向かって独白するのだが、これも画期的な手法というわけではないし、それほど必然性は感じられない。
グラスゴーにある海上殺人捜査班(MHU)チームの現場指揮官として赴任してきたアニカは、本来、このチームを任されるはずだった巡査部長で潜水夫のマイケル・マクアンドリュー(ジェイミー・シーヴェス)とは、なんだかいわくありげ。徐々にどうやら昔、恋仲であったことが明らかになってゆく。そして、まさかと思わせて置いて、「やっぱりですか!」という展開も・・・。
さらに、このシーズンでは描かれないが、アニカの上司にあたる部署全体の統括チーフ(DCI主任警部)ダイアン・オーバンは、大学ではアニタと同期であったようだ。
チームには、他にもIT技術とデータ分析を担当する若いブレア・ファーガソン(ケイティ・ルング)、警察の麻薬捜査班ボーダー・コマンドから異動してきたタイロン・クラーク(ウクウェリ・ローチ)が在籍する。
現場担当のDI(本来は警部)として赴任して来たアニカは、マイケルの言葉によれば「わざわざ降格されてこの部署に?」ということらしい。本来はダイアンと同じDCIくらいの地位であったという設定なのか?もしくは、DCIキャシーとして出演していた「埋もれる殺意」をわざわざ終了して、このドラマに出演したことを指しての内輪受けか?定かではないが。
1話ごとに、アニカは文学的、文化人類学的うんちくをカメラに向かって独白しながら、事件の調査を進める。そこがこのドラマ一番の特徴でもあるが、それが事件解決になんら関係するわけでもなく、犯罪とラマとしては中途半端な印象を残す結果にもなっている。
最初の事件は、港に上がった銛(もり)で突かれた遺体=元漁師で観光船会社を経営する男の事件。アニカは、メルヴィルの『白鯨』のエイハブ船長と相棒のスターバックの物語を語りながら、銛を放った犯人を突き止める。
2話目は、生徒と淫行に及んでいた中学教師が漂流するボートの上で殺される。アニカは、北欧神話に登場する、戦争において死ぬものと生きるものを選ぶ「ワルキューレ」伝説の説明をしながら、15歳の生徒シギー(イモージェン・マッキー・ウォーカー)と淫交していた美術教師ロニーに死を宣告した犯人を探し出す。
3話目では、イプセンの『民衆の敵』のストーリーを紹介しながら、貯水池で殺された環境団体「ナチュラル・ウォーター」のスタッフの人柄を暴いてゆく。
4話目では、なぜか話題は文学から離れて「橋」のうんちくに。モーガンも学校の宿題で、橋の模型を作りながら、(「道路の巨人」と呼ばれた)英国人土木技師トーマス・テルフォードの生い立ちを語る。新自由主義的な暴露本で有名になった女性評論家・カーラ・ギブソンが殺害された事件を解決しながら、アニカは、ジェイクと関係を持ち、モーガンは、エリンと朝を迎える。親子で関係の橋を掛け合うのか?
5話は、北欧の「ディオニソス」の祭りについてのうんちくと、ギリシャ神話のアガムメノーンの物語を語りながら、不動産業者の男が、自分と友人が改装した豪華ヨットの船上パーティー中に拷問され、殺された事件の犯人を見つけ出す。
最終話のサブテーマは、シェークスピアの喜劇「十二夜」。「十二夜」の主人公と同じ名前ヴィオラが、殺害されてグラスゴー・ドックに流れ着いた。しかし、彼女は、マイケルの弟エディの別れたパートナーであった。
遭難した双子の兄妹が、離れ離れになったのちに、妹のヴィオラが男装をしてシザーリオと名乗ったことから起きる恋の行き違いコメディ「十二夜」へのこじ付けか、最終的に殺人者は、SNSを介したロマンス詐欺で架空の女性レイラに騙された男、リー・タナー(トーレン・ファーガソン)だと判明する。
そしてこの5話の最後に、視聴者にだけ誕生日を迎えたモーガンの父親が明かされるのだが・・わかってましたがな!そんなの!(笑)
ちょっと、映像的に特徴がありすぎる(ケレン味がありすぎる)のは主導した監督であるフィリップ・ジョンの好みのせいなのだろうか?彼は、映像監督としては変わったキャリアを持っている。元々は、ウェールズのローカルパンクバンド<Reptile Ranch>でベースを弾き、非営利の<Z Block Records>の設立に参画。ヤング・マーブル・ジャイアンらを含むカーディフを拠点したインディーズバンドを紹介した。音楽業界を離れてから、(旧ウェールズ大学ニューポート校、現サウス・ウェールズ大学)のニューポート映画学校に入り直したらしい。
短編映画で多くの賞を受賞している他、「アウトランダー」や「ダウントン・アビー」などでも監督をしている。
キャストのうち、一番若い巡査として配属されている、ブレア・ファーガソンは国籍不明のアジア顔だが、演じているケイティ・ルング(ウィキペディアでは、ケイティ・リューングという発音を採用している)は、スコットランド国籍の台湾系。『ハリー・ポッター』シリーズでハリーの初恋の相手、チョウ・チャン役を演じたことで有名な女優である。
このシリーズ1の後、シリーズ2は2023年に英国AlibiのUKTV Dramaと、米国PBSで放映されている。しかし、ストーリー的には、続く気満々ではあったが、今の所シリーズ3の制作が開始されている情報はないようだ。