悪縁(アギョン)
韓国版ファーゴ!?因果応報チェイン・リアクション・ドラマ!
2025年 韓国 47~61分 全6話 Moonlight Film、Baram Pictures/Netflix Netflixで配信
監督:イ・イルヒョン 脚本:イ・イルヒョン 原作「악연」(KAKAO WEBTOON)チェ・ヒソン作
出演:パク・ヘス、シン・ミナ、イ・ヒジュン、キム・ソンギュン、イ・グァンス、コン・スンヨン、キム・ナムギル、パク・ホサン ほか
どうもパッとしない最近の韓国ドラマ界では、異彩を放つ出来の良さだろう。
最初は、どう見てもクズっぽい男たちの無軌道な悪事や殺人が、負の連鎖を繰り返す(ドラマ版)「ファーゴ」みたいな話だなと思っていると、最後の方でそれが一つの輪に繋がってくるとというところが、面白みでもある。なので、英題の「Karma(カルマ)」、原題の「악연(アギョン)」が生きてくるということか?
まあ、腐れ縁という意味の強い、日本語の「悪縁」という言葉がこういう意味かは少々疑問があるが、韓国的にはまさに「悪い縁」の連鎖なのだろう。
悪縁でつながれた登場人物全員の出身地が特徴的なのも、少しファーゴ的だ。借金男のパク・ジェヨン(イ・ヒジュン)、此れ幸いにパクに成り替わるヤクザ、キム・ボクジュン(パク・ヘス)、ジョエンに恨みを持つイ・ジュヨン(シン・ミナ)、のちにボクジュンとグルだったことがわかる整形美女イ・ユジョン(コン・スンヨン)らが実は全員生徒だったクフェ高校のある「クフェ」自体は仮想の地名だろうが、より広い「坡州(パジュ)」というのは実在する地名だ。ソウルからはさほど遠くはない(京畿道)ものの北朝鮮と国境を接している住宅地で、独特の雰囲気をもつ地域のようだ。(2009年には、故イ・ソンギュン主演で、この地の独特な雰囲気を伝える『坡州』という映画もあった。)
市域に非武装地帯がある唯一の市であり、開発は遅れたが、近年ベッドタウンとして開発されている。綺麗な市街もあるのだが、一方で(韓国で差別されている)中国領内の朝鮮族地域から来ているで出稼ぎ労働者が、街はずれの廃車置場に住み着いている状況や、教会の近くの貧民区域には、防犯カメラもない様子などは、この街の2面性をよく表しているようだ。
もともとパク・ジェヨンの所属する運送会社の同僚で、見込まれて父親の殺害を持ちかけられる朝鮮族労働者チャン・ギルリョン(キム・ソンギュン)がこの街にいるのも偶然ではない。
物語は、クフェにある建設放棄された廃墟で火災があり、現場から病院に搬送された全身火傷の男が「パク・ジェヨン」と名乗ると、彼を死の淵から救った神経外科医であるイ・ジュヨンが、呆然とするところから始まる。実は、イ・ジュヨンは、過去にこの男に刻印された癒えない傷を負っていた。
パク・ジェヨンの人生を遡り、約1ヶ月前にこのクズ男がヤミ金からの借金を踏み倒そうとして捕まり、男の内臓を取り出す手術を目の前で見せられる場面へ。ぴったり30日間の猶予を言い渡されたジェヨンは、それまでに返済できなければ、自分の内臓を転売される運命なのだ。
息子の引き起こして来た事件への申し訳なさから、ますます信仰に傾いている自分の父親ドンシク(チェ・ホンイル)が、保険金をかけていることを知ったジェヨンは、なんと父親を防犯カメラのない教会近くの路地でひき逃げすれば、保険金が入ると・・とんでもない計略を練り、その仕事に、かつての同僚で朝鮮族のチャン・ギルリョンを抱き込んだのだ・・。
しかし、実際のひき逃げでは手違いが起こり、目撃までされたことで、ドンシクの遺体の始末は、ギルリョンと刑務所で同房だった地元の悪党キム・ボムジュンが引き受ける。ボムジュンは、昔からの仲間イ・ユジョンと、あくどい美人局で稼いでいたが、ちょうどユジョンに引っかかっている、漢方医のハン・サンフン(イ・グァンス)に、罪をなすりつけて金も巻き上げる計略を思いついたのだ。
しかし、間抜けながらついにこのことに気づいたサンフンの反撃や、サンフンの妻から浮気調査を依頼されていた探偵ファン・チョルモク(パク・ホサン)が、意外なほどやり手であったことから、事件は予想外の展開に回り出す!
自分の名前が捜査線上に上がったボムジュンは、金を払わないパク・ジェヨンをギルリョンとともに拉致したが、その現場で自分が「パク・ジェヨン」になり変われば、全てを帳消しにできると思いつく・・・。しかし当然、パク・ジェヨンにつきまとう女の恨みや借金などという「悪縁」には思い至っていなかった!
話の筋は、こんなもので大変わかりやすいが、台本の構成は練ってあり、1話ごとに思わぬ部分からスタートし、最初はなんのことやらと思っていると、次第に物語が全体で繋がってくる優れた構成にいなっている。
ただ、ドラマとして「特別センスがいい」とか「ユーモアがある」とか「エンタメ以上のものを提供する」ようなレベルではない。脚本と監督を手がける、イ・イルヒョンは、ごくごく韓国国内レベルで評価されやすいエンタメを手堅く作っている真面目な監督という印象だ。
2016年の『華麗なるリベンジ』は、先輩検事にはめられて刑務所に送られた検事が壮大な復讐を成功させる、有りがちな設定でヒットした。
2023年に公開された『復讐の記憶』は、オリジナルはアトム・エゴヤン監督の『手紙は憶えている』(2015)という、ホロコーストの被害者が、隠れナチを見つけ出して復讐する物語に、自分が何者か?すらも曖昧になってしまう、認知症の皮肉な顛末を付け加えた奥深い映画であったが・・、その韓国を舞台にして、占領時下に日本軍に協力した人韓国人と日本軍将校に復讐を遂げる80歳のスーパーおじいちゃんのアクション映画に換骨奪胎している。
自衛隊が式典で「憲法を1日も早く改定して、軍備を強化する!」などととんでもない演説をしたり、現代でも命を狙われた自衛官が「お前は、日本帝国に刃向かうつもりか!」と叫んだり、ネット右翼が見たら、100%「反日映画」のレッテルを貼られそうな映画ではあるが、おそらくイ・イルヒョンは、ヒリヒリするサスペンスを作りたい一心で、大真面目に韓国一般市民の帝国日本像をそのまま再現しているのだろう。
おそらく、80代の老人と20代の若者がバディとなって、復讐を果たすという設定を思いつきそれが気に入ったのだろうが、おかげで認知症は単なる時間的制約になり、80以上の老人にもかかわらず主演のイ・ソンミンは、走ろまくるし、銃をガンガンぶっ放す!単なるじじいアクションだ。
本作も、同じように大真面目に、ヒリヒリするサスペンスを優先的に追求しているので、絶望的な環境からクズに成り下がったり、闇を抱えていたりする登場人物たちなのだが、その背景を掘り下げたりはしていない。その辺のリアリティは、役者の方の実力に任せた感じである。
「刑務所のルールブック」「イカゲーム」で知られる演技派のパク・ヘスが、最後まで凄みがあるのは当然だろうが、少し抜けたところがあるパク・ジェヨンを演じたイ・ヒジュンもいい。「マウス」の刑事役も記憶に残るが、「殺人者のパラドックス」では、体を蝕まれている元刑事の殺人鬼を壮絶に演じていた。
パク・ジェヨンに「アホな中国人」呼ばわりされている朝鮮族のギルリョンを演じたキム・ソンギュンは、「D.P.-脱走兵追跡官-」のパク・ボグム役でブレイクし、「弱いヒーロー」「離婚弁護士シン・ハンソン」「ムービング」など話題作に連続出演。21年の映画『奈落のマイホーム』では主演を務めた。
同じ『奈落のマイホーム』にも出演していたが、Webドラマ「サウンド・オブ・ハート」などのアンガ田中を思わせるコメディ演技の印象が強いイ・グァンスが、整形美女のイ・ユジョンに鼻の下を伸ばし、災難に引き込まれてゆくハン・サンフンを、リアルに演じきっている。
「マイ・ディア・ミスター」、「客 The Guest」、「人間レッスン」、「ペントハウス」シリーズ、「ハッシュ」、『ザ・コール』、『狼狩り』実によくでいるパク・ホサンが、最初はただの邪魔かと思いきや、あとで効いてくる役どころで出てくる。
高校生の頃に、少し恋心を抱いたパク・ジェヨンとその仲間たちに集団暴行を受けて以来、一度もぐっすり眠れたことのない外科医イ・ジュヨンを演じたシン・ミナは、「海街チャチャチャ」「私たちのブルース」「損するのは嫌だから」など、tvNドラマの印象が強いが、このくらい暗い役もあっていると感じた。
トレイラーは、何気にかっこいい曲を使っているが、実際のオープニングは、昔のヤクザ映画みたいなビジュアルで、音楽の方もどう考えても昭和のブルースロックっぽい。(笑)
By 寅松