恋するムービー
映画オタクによる映画オタくのための映画オタク恋愛ドラマ!
2025年 韓国 57~74分 全10話 Studio N/Netflix Netflixで配信
監督:オ・チュンファン 脚本:イ・ナウン
出演:チェ・ウシク、パク・ボヨン、イ・ジュニョン、チョン・ソニ、チャ・ウミン ほか
映画オタクによる映画オタくのための映画オタク恋愛ドラマ的な話だが、マニア度は何気に低い。主人公のキム・ムビが映画学科の同級生たちと語り合うお気に入りの作品はリチャード・カーティスが監督した『ラブ・アクチュアリー』(2003)だし、父親と見た思い出の作品は、ホ・ジノ監督の大名作『八月のクリスマス』(1998)だ。
何か起こるのかというと、結局も何も起こらないに等しいドラマなのだが、映画の裏側や映画スタッフの日常などは、それなりに描かれていてほのぼのした気持ちになれる。
恋愛ドラマの一面はあるのだが、とにかく「財閥」も「御曹司」も「超貧困の美少女」も「人生をかけた復讐劇」も「やたらに貧乏くさい韓国料理店」も「宇宙」も「空想の韓国軍」も「CGのゾンビ」も何も出てこない・・!これは素晴らしい。
韓国の若ものたち4人の話ではあるが、なんだか日本人みたいなほんわかした4人で、ある意味とても現代的だ。しかし、そこはさすがにキャラクターはひねってある。
幼い頃に、父親母親を同時に失って、年の離れた兄に育てられたコ・ギョムは、兄と二人で住んでいたのがレンタルビデオ屋の二階で、何より兄と二人で見る映画が自生で一番大事なことであった。20代になっても、人生の目標は「すべての映画を見ること」というほどの映画オタク。映画が好きすぎて、自分の好きなマ・ソンウ監督(「タッカンジョン」「グリッチ」のコ・チャンソク)の映画出演者オーディションに出かけるが、演技はまるでダメで選ばれるわけもない。しかし、監督の大事にしていたスニーカーを間違えて履いて帰ったことで、監督に取り入ってエキストラとして撮影大現場に入り浸ることに。
現場では、なんの役にも立たないのだが、映画の知識が豊富すぎて、監督やスタッフに気に入られてしまうのが、実はなかなかありそうでうまい。
ダメな俳優がやったら台無しになりそうな役だが、チェ・ウシクだからそこはソツがないのだ。『パラサイト 半地下の家族』「その年、私たちは」「殺人者のパラドックス」と、凡庸に見える外見と、実は、意外な芯を持つのが魅力である人物を演じて来た彼は、今回は一見無邪気に見えるオタクながら、深い悲しみを封じ込めたキャラクターをなんなく演じきっている。
そのマ・ソンウ監督の撮影現場で、髪の毛をひっつめにして走り回っている助監督が、キム・ムビである。ムビは「movie」のムビ。ムビを演じるのは、何と言っても「力の強い女 ト・ボンスン」が有名なパク・ボヨン。なぜか演技が浜辺美波のお姉さん版みたいな女優だが、こちらは脚本の方が、彼女のキャラに寄り添っている。
映画が好きすぎて、助監督として働きづめだった父親につけられた、この名前がムビは大嫌いだった。絶対に自分の約束も守れず、十分構ってもくれない父親は、ついに映画の現場で過労死してしまい、それ以来彼女は、自分の名前と映画を憎むことに。そもそも芸術家肌ではなく、弱いものいじめをする男子たちも腕力でねじふせる熱血漢の乱暴少女だったムビが、結局映画の世界に踏み込んでしまったのは、父親が愛しすぎた「映画」の本質が何なのか、知りたかったのだろう。
だから、現場でも目立たずに着実に仕事をこなすことだけを考えていたはずなのに・・。なぜか、コ・ギョムは一目でムビを好きになる。まあ、世界で一番映画が好きな男が、「ムビ」という名前の女の子を好きになるのは当たり前か。
現場で調子が良く、やたらに皆に注目されるコ・ギョムに言い寄られ、迷惑そうなムビ。大切になるものは、いつもすぐにいなくなる・・それだけが嫌なムビなのだが、ムビが我慢できずにキスをしたコ・ギョムは、突然撮影が終わると姿を消してしまうのだ。
それから5年。ムビは、初めての監督作品を世に出した女流監督になっている。その試写会に呼ばれた有名映画ブロガーは、なんとコ・ギョムであった。いつのまにか、コ・ギョムは知られた映画評論家になっていた!
そもそも大した隠し球はないので、その後は、最初からコ・ギョムの数少ない高校時代からの友達として出て来る、ホン・シジュン(元U-KISSで「マスクガール」などのイ・ジュニョン)とソン・ジュア(「寄生獣-ザ・グレイ-」の主演、チョン・ソニ)の一途すぎてまとまらない恋愛模様や、ギョムの兄、コ・ジュン(「コーヒープリンス1号店」「客〜The Guest〜」「もうすぐ死にます」『蝶の眠り』のキム・ジェウク)の秘密めいた事故の真相とその人生、そして、いつもそっけなさすぎる母親カン・ヨンジュ(キム・ヒジョン)とムビの和解などが描かれる。
恋愛ドラマ/ラブコメとしては、流れは単調だし、どんでん返しもなく進むので、本来の韓国ラブコメファンには、ちょっと物足りないだろう。なんだか、日本映画みたいな部分のある、ほのぼの作品だ。
撮影打ち上げはリアルだったり、生活の大半は地味なロケハンや金の心配ばかりしている映画監督の日常がそれっぽかったりするのは、よく知っている世界なので当然だろうが、制作者だけでなくマニアも含めて「映画が好き」な連中の、温かみがにじみ出ているところは、他にない良さがある。
オ・チュンファン監督の恋愛ものは、有名な「ホテルデルーナ 月明かりの恋人」にしても「無人島のディーバ」にしてもだけれど、全体を通して完璧な作品というふうでもないのだが、一部分になぜかとても惹かれる部分がある作品が多いきがする。
韓国ドラマの論法に、やや疲れたマニアにはお勧めできる。
By 寅松