トラウマコード
正確にいうとトラウマコードというタイトルは、看板に偽りあり!?
2025年 韓国 47~55分 全8話 Studio N、Mays Entertainment/Netflix Netflixで配信
監督:イ・ドユン 脚本:チェ・テガン 原作:ハンサンイガ(イ・ナクジュン)(Web小説『重症外傷センター:ゴールデンアワー』/ホンビチラ作画でWeb漫画化)
出演:チュ・ジフン、チュ・ヨンウ、シン・ハヨン、チョン・ジェグァン、キム・ウォネ、ユン・ギョンホ、キム・ウィソン、キム・ソニョン、キム・ジェウォン、チャン・ソンユン ほか
完全にマンガとしか言いようのない出だし!韓国映画/ドラマ界の常識なのだろうが、韓国内のプロダクションデザインの精密さに比べて、外国が舞台だと途端に精度が低くなる・・・(日本でも同じことは起こるが、日本の場合国内ものでも完璧なプロダクションデザインは少ないので気にならない)。で、これがシリア?と疑問を覚えるモンゴルみたいな荒野からバイクを飛ばして、主人公のペク・ガンヒョク(チュ・ジフン)が、全部セットで作られたであろう、国籍不明(中東にも見えない)で爆撃されながら、現地の病院に血液を届ける!まさにスーパーマン!
原作はWEB漫画だから、こんなもんかと思っていると、そのスーパーマンが韓国の大学病院に保険大臣の後押しで赴任し、廃科寸前の重症外傷科をセンターにまで立て直す物語である。出だしとは、どーもイメージが違う!
韓国に移ってからの医師としての活躍も、細かくディティールが描かれていて、(手術で使用する)作り物も素晴らしい出来だ。おかしいぞ!ガキの描いたマンガだと思っていたら・・・、元々はWeb小説からマンガ化された作品で、なんと原作者は、耳鼻科ながら本当の医師だった人物(イ・ナクジュン:女性医師)らしい。そのイ・ナクジュン氏自身が、韓国の救命医療体制を救うには、マーベルコミック並のスーパーヒーローが必要であるという思いで、ペク・ガンヒョクを生み出したと、インタビューで述べている。うーん。
ドラマを見だすとまず気になるのが、韓国有数の大学病院であるハングク大学病院には、どう考えても先進国で普及している「トラウマコード」体制が全くなく、国の肝いりでいやいや作った重症外傷科も風前の灯火だし、ましてや病院のその他の科が、緊急時にも重症外傷に協力する気が全くないところだ。
どこにもトラウマコードがない!!!!
「トラウマコード」というのは、そもそも「重症外傷患者への迅速な対応を目的としたシステムで、救急医、外科医、整形外科医、麻酔科医、手術部、輸血部、放射線科に一斉コールが流れ患者搬入の段階で直ちに輸血や手術を含めた治療介入が開始できる体制」を指す。いえば、「コードブルー」や「コードブラック」など、今ではよく知られた病院内の緊急体制をつげる警報の一種だ。
日本語版のタイトルは、英語タイトルに習って先進国で一般的な「トラウマコード」どなっているが、韓国語の原題を訳すと「重症外傷センター」である。
なーるほど。
こりゃあ、撮影もなかなか大変そうだ!
物語は、戦地で救命活動に従事してきた凄腕の医師、ほぼスーパーマンのようなペク・ガンヒョクの活躍を描くのだが、それだけでなく韓国の重症外傷にまつわる救急医療体制の問題点を深く掘り下げ、さらには、使命感だけでその現場を支える看護師チョン・ジャンミ(ハヨン)や、たまたま当直日にガンヒョクに気に入られ、楽な肛門外科から重症外傷センターに引き抜かれる若い医師ヤン・ジェウォン(チュ・ヨンウ)の成長をも描く。この辺が、視聴者を引っ張る部分でもある。
そして最後には、外科部長のハン・ユリム(ユン・ギョンホ)や病院長のチェ・ジョウン(キム・ウィソン)の気持ちまで動かして、病院に独自のヘリポートと専用ヘリの装備をさせるまでにいたるという展開だ。あまりに急展開なのだが、それなりに筋が通ったストーリーで好感が持てる。
なぜ最後の結論がドクターヘリの体制なのかというと、それはオリジナルの小説のタイトル(重症外傷センター:ゴールデンアワー)にあるように救命の「ゴールデンアワー」が関係しているのだろう。
救命医療におけるゴールデンアワーとは、重症外傷患者が受傷してから治療を開始するまでの最初の1時間のことを指す。この1時間で生死が大きく分かれるからだ。日本で一時話題になった救急車が、搬送先を決められずたらいまわしになる状況が、韓国でもあるようだが、それだけではない。韓国は日本よりはコンパクトなので、ソウルから何処へで車でいけないことはないが、医療のソウル集中が深刻な国である。ソウルの中心部にある大病院からドクターヘリが出動するというのは、日本ではあまり思いつかない光景だが、どこからでもソウルに運ぶのが現実的という国の事情があるにちがいない。
出演者は、そう多くはないが実に的を得たキャスティングだ。ペク・ガンヒョクをなんとか追い出そうと病院長のもとで画策する企画調整室長ホン・ジェフンを、おなじみのキム・ウォネ、その後輩で、最初は一緒に追い出しを画策するも、事故にあった自分の娘ジヨン(パク・ジョンユン)の命を助けられたことで、翻意しガンヒョク側につく肛門外科教授ハン・ユリムをユン・ギョンホが演じている。まず、このコンビが、定番だがなかなかだ。
何にでも顔を出している印象だが、キム・ウォネの出るドラマは、「最高!」でない場合でも最後まで見られるレベルであることがほとんどなので、この人で見るか見ないかを決めることにしている。今回は、かなり最後までペク・ガンヒョクの天敵として粘る悪役で喜ばしい。
映画『ラブリセット 30日後、離婚します』『正直政治家 チュ・サンスク』シリーズ、ドラマ「今、私たちの学校は…」「クライムパズル」「梨泰院クラス」などで、ダメな刑事やダメ中間管理職的=イメージ通りの演技をしてくれるユン・ギョンホも、期待を裏切らない。
もちろん主演のチュ・ジフンは、スーパースターだが、8話のドラマとともに成長を遂げる若きフェロー、ヤン・ジェウォンを演じたチュ・ヨンウは、この作品と、JTBCドラマ「オク氏夫人伝」で大注目の若手に躍り出た。とにかくよく走る演技が印象的だ。
出会いから、ペク・ガンヒョクに「暴力団」と命名される、重症外傷のシニア・ナース、チョン・ジャンミを演じたのは、シン・ハヨン。あ?、あまりにパサパサ女子のリアルな看護婦さんで、気づかなかったが、ペ・スジの「イ・ドゥナ!」で、元アイドルのイ・ドゥナの彼氏になるイ・ウォンジュンが、高校時代に片思いしていた同級生ジンジュを演じていたあの女優さんだ。ぺ・スジより清楚で可愛いくらいだったのに〜、あっという間にこんなになっている!(笑)「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」では、結婚式の最中に、大きめのドレスが’脱げて背中の刺青を披露してしまう新婦役も印象的だった。結局レズビアンの役だったが・・。
次期大統領候補で、保健福祉省長官のカン・ミョンヒを演じているキム・ソニョンも、このところの活躍が目覚ましい。JTBCの「貞淑なお仕事」にも、キム・ウォネと一緒に出ていたし、チョン・ソミン、カン・ハヌルのコメディ映画『ラブリセット 30日後、離婚します』では、ユン・ギョンホと仕事をしている。
『コンフェッション 友の告白』で知られる監督のイ・ドユンは、チュ・ジフンから監督に誘われたようだ。自分が、こういう作品に向いているかは疑問だったようだが、チュ・ジフン自身が、この作品のペ・ガンヒョク役が「これは自分に合っている」と、感じたのだろうと語っている。
兎にも角にも、一時とはいえ、「イカゲーム2」を抜いてNetflixの世界チャートで2位に上がったのだから、その誘いは正解だったと言えるだろう。
ただし、オープニングの3Dアニメは、いい感じでダサい!
当然、シーズン2の可能性が気になるが、ハンサンイガ作家自身は、その気はあるようだ。ただし、Netflixからの依頼は、現時点(2025.1月末)では、まだらしい。