海外ドラマ

次の被害者 シーズン1/2

残虐シーンのための超絶展開がやや難ありだが、確かに目を引く!

誰是被害者/The Victims’ Game
2020年/2024年 台湾 62~67分 全8話x2 Third Man Entertainment、瀚草影視/Netflix Netflixで配信
監督:デヴィッド・チャン、アラン・チェン 脚本:ジェン・シーゲン 原作:天地無限『第四名被害者 (原題)』
出演:ジョセフ・チャン、シュー・ウェイニン、ワン・シーシェン、ムーン・リー、チャン・ツァイシン、ルビー・リン(シーズン1)、ディーン・フジオカ(シーズン2) ほか

 台湾ドラマというと、これまでHBOが出資した「悪との距離」(2019)が有名だったが、このドラマでも完成度という点では、いまいち詰めの甘さが目立っていた。それに比べ、Netflixが出資し、中国語ドラマとしては初めてシーズン2まで制作が進められることになった本作は、さすがに段違いの作品である。
 もちろん韓国ドラマ、欧米ドラマの影響も受けてはいるのだが、面白いのは韓国モノより日本のドラマ、特にWOWOWのテイストに似ているところだ。ユーモアがなく全体的に暗いところなどは「石の繭」「水晶の鼓動」「蝶の力学」「邪神の天秤」と続いた殺人分析班シリーズを思わせる。人為的に日本文化を拒否してきた韓国よりも、台湾の方が文化的にはナチュラルに日本に近いのを感じる。

 シーズン1で、アスペルガー傾向の強い警察の鑑識官であるファン・イーレン(ジョセフ・チャン)は、担当した猟奇事件で、たった一つ他とは違う指紋を発見する。かつて有名であった女性歌手と思われる人物が、ホテルの部屋の浴槽で、薬物で全身が溶けた状態で発見された事件。しかし、特殊加工された風呂の栓についた指紋は、未成年のホステスとして検挙された少女、ジャン・シャオモン(ムーン・リー)の指紋だとわかる。その名前を見た途端、まじめ一辺倒に見えるファンは、その指紋を隠し、猟奇的な死体が次々発見される関連事件の現場にも出向いて、警察とは別の捜査を開始する。
 ジャン・シャオモンは、幼い頃に母親とともに自分の元から去った実の娘だったのだ。

 プロダクション・デザイン、SFX特殊加工技術、ライティングやカメラも良い。雰囲気のある廃墟などのロケーションも韓国以上にリアルなものが多いようだ。
 生真面目なファンが、娘と知った途端、何の葛藤もなく証拠を握りつぶすのは、家族至上主義の中華文化ならではだと思うが、少々展開には無理がある部分も!

 高校の頃、理解のない周囲に「変人」としていじめられていたファンの潜在能力を見出した警察官のチンルイ(キン・ジェウェン/ジェイソン・キング)に鑑識の道に進むよう説得されたことは、ほんの少し描かれるのだが、そもそものファンの人格がよく分からない。
 数学的、理化学的理解力の高さと、散文的に感情や経緯の説明をする能力がないことはわかるのだが・・程度がわからないとこまる。鑑識が務まるかどうかは、さておいたとして、結婚して子供がいるとか、どう考えても無理があるのでは?
 仕事に没頭し家族をないがしろにして、「自分では離れることが一番だ」と考えていたこというようなセリフはあるが、15年ほど元妻子がどうしているかなど、全く気にしてもいなかったというのは、「変人」でもありえないのでは?全く気にしていない関係ならわかるのだが、娘だと分かった途端に狼狽して隠蔽を図るわけだから、正直、人格がおかしくなっている。
 シーズン1では、警察の裏をかいて事件の重要な情報を掴む野心的な美人ジャーナリストとして登場するユー・ハイイン(シュー・ウェイニン)は、事件を追うちにファン・イーレンと協力するようになる。それはいいのだが、シーズン2ではすでにハイインは、ファン・イーレンの彼女になっているという展開!
 ファン・イーレンは、アスペルガーだが女には間違いなく「手が早い」!

 シーズン2では15年前の家出した2人の若い男女が死亡した事件の真相を巡り、当時の捜査を批判していた容疑者の親が、当時の鑑識担当者であったファン・イーレンを呼び出したあとで殺されたことを皮切りに、2人とともに一緒に家出をしていた若者たちのグループ全員が、非常に残忍に殺される連続殺人事件が起こる。
 事件が始まる前に亡くなった、ファンの恩人であるチンルイが15年前の事件の担当だった。当時、自分の娘が火傷を負った事で、動転していたファンは、チンルイを信じて自らのチェックを怠っていたが、このことが最後まで彼自身を苦しめることに。恩人への信頼と、証拠が語る新たな疑惑の中で、ファンを追い詰めるのは、突然警察に乗り込んできて15年前の事件の再捜査の開始を宣言する怪しげな検事チャン・ゲェンハウ(ディーン・フジオカ)と、新任の監察医シュエ・シンニン(ターシー・スー)。
 シーズン1では、ファン・イーレンを信用しないで彼に立ちはだかった刑事課長チャオ・チョンクワン(ワン・シーシェン/ジェイソン・ワン)は、今回はファン・イーレンをかばってくれるが、途中で撃たれて重傷を。さらに、前の事件から3年で刑期を終えて出所したシャオモオンも、自らの生活や心の葛藤だけで無く、被害者の一人でシンガー・ソングライター、ユエン・チーリン(Karencici)のファンであったことから、ファンの捜査に関わってくることになる。
 脚本的にも、シーズン1より成熟している感じはあるのだが・・、全ての原因が、「親子の愛であった」という構造は同じ。ファン・イーレンと娘のジャン・シャオモンの関係も長い間、愛情も示さず放置された関係だったが、シーズン2の事件の中核となるチンルイとその息子リン・ミンチュン(チュンンヒム・ラウ/テレンス・ラウ)の関係も、驚きの主犯と娘の関係も、問題が起こるまでは、同様に親密ではない関係だったにもかかわらず、最後の最後で異常に執着する関係に変わってゆく。
 ひょっとすると、中国人的な家族主義を背景にしながらも、表面上はあまりうまくいかない親子関係というのが、現代的な台湾の社会問題なのかもしれない。
 
 あと、スポンサータイアップなので、致し方ないことはわかるのだが、シーズン1では、全員がやたらに三菱自動車に乗っているのだが、これがシーズン2になるとタイアップ先が変わって、全員今度はベンツに乗っているのだ!警察を退職して警察学校で職を得ているファン・イーレンも、大手の総合メディア企業を退社して、雑誌メディアでフリーで働くユー・ハイインも、なぜか大幅に生活レベルが向上したようだ!
 
 正直ツッコミどころは多いのだが、全体の印象としては展開も早く、驚きも順当に用意されていて視聴者を飽きさせない。明らかに台湾ドラマのランクを一つ上げた作品と言えるだろう。

 シーズン2の終わりには、謎の人物だったディーン・フジオカ演じる検事が、どうやらヤクザ組織の命令で送り込まれた人物であることが明かされて、さらなる過去の警察の闇を掘り起こすことを宣言。完全にシーズン3の予告をしてるが、さて、Netflixはお金を出してくれるでしょうか!?

By 寅松
 
シーズン1 トレーラー

シーズン2 トレーラー