海外ドラマ

ユー・ドント・ノウ・ミー

語りだけで証拠を覆す!リアリティの深さが主役の、ミニ・シリーズ。

You Don’t Know Me
2021年 イギリス カラーHD 54〜57分 全4話 Snowed-In Productions/BBC One Netflixで視聴可能
原作:イムラン・マムード クリエイター:トム・エッジ 監督:サーマド・マスウード
出演:サミュエル・アデウンミ、ソフィー・ワイルド、ブッキー・バックレイ、
ロジャー・ンセンギユムワ、トゥウェイン・バレット、イェトゥンデ・オデュウォーレ、ニコラス・カーン ほか

 全編が、法廷での陳述という形をとりながら、ディティールのあるナラティブの力が、ほぼ確定していたはずの犯罪の構図をひっくり返してゆくという・・驚きのあるストーリー。4話の小品だが、小説のような極上の面白さがある。
 原作が、法廷弁護士でもあるイムラン・マムードが自らの法定経験を踏まえて書いた、同名小説なのもうなづける。
 2017年の<My Pure Land>で知られるパキスタン系イギリス人映画監督、サーマド・マスウードと、脚本家のトム・エッジは、法廷劇そのものではなく、現実世界の複雑な物語を丁寧に紡ぐことに力点を置いて、無駄なく構成している。
 
 主人公のヒーロー(サミュエル・アデウンミ)は、自身に殺人容疑のかかった法廷で、弁護士を解任し、自ら最終弁論に臨む。ドラマはその後、ほぼすべて最終弁論の内容という形をとって進行する。
 彼が殺したとされている、ジャミル(ロジャー・ンセンギユムワ)は、もともと地元(ロンドン南部)のケチなワルで、知り合いでもあった。大学生ながら、最近はドラッグ取引を始めたらしく、地元で目立つようになっていた。
 それに対し、アフリカ系ながらヒーローは頭も良く、信心深い妹と一緒に信心深い母親に育てられたため、ドラッグに染まらず、高級車のディーラーで販売の仕事についていた。
 すべての発端は、ヒーローがバスの中でいつも本を読んでいるキュートな美女、カイラ(ソフィー・ワイルド)を見初めたところから始まる。ヒーローは、なんとかカイラとデートの約束を取り付け、彼女が読んでいた小説に出てきたカルボナーラを作るべく、イタリアンのシェフに教えを乞うて、(ベーコンやパンチェッタではなく)グアンチャーレを使ったイギリスにしてはなかなか「本物」のカルボナーラで彼女の心つかむ。
 自分の過去や生い立ちについてはなにも語らずに、毎日いろいろな本ばかり読んでいる不思議なカイラだったが、ヒーローは彼女との将来を真面目に考えていた。
 しかし、そんなある日、カイラは前触れもなく同棲していたアパートから姿を消してしまう。
 警察に行くも、手がかりを探すための尋問を受けて、ヒーロは自身が、彼女については何も知らないことを思い知らされる。
 諦めきれず、彼女の行方を探し続けていたヒーローに、夜の北部カムデンで彼女を見かけた人がいるという情報が入る。
 悩みながら、夜のカムデンに出かけたヒーローが目にしたのは、地元のポン引きに強要され、売春婦として車に乗りこまされたカイラの姿だった。

 1話目は、白人と先住のインド系が中心の陪審人たちから見れば、アフリカ系の移民というだけでギャングであろうという偏見を持っている状態から、ドラッグの汚染がひどい周囲の環境にも染まらず、意外なほど着実な毎日を送るヒーローの姿と、カイラとの小説的な出会いが描かれて、唸らせられる。
 2話目では、突然消えたカイラの想像を超える過酷な運命と、ヒーローが彼女のために行った決断が描かれ、そのために追い詰められてゆく姿が描かれる。
 これで、もはや2人とヒーローの家族、妹ブレス(ブッキー・バックレイ)、母親(イェトゥンデ・オデュウォーレ)も万事休すと思われる展開の中、3話目では、カムデンに移住し、麻薬絡みの仕事にも関わっていたヒーローたちの幼馴染、カート(トゥウェイン・バレット)が登場し、家族の窮地を救う計画を提案するのだ。
 展開がすごく早いというわけではないが、かったるい部分はなく、毎回驚きを用意して、視聴者の興味を繋げてゆく。
 4話では、警察が単純化した犯行とはかけ離れた、実に複雑な真実の物語を語ったあとで、最後にヒーローが仕込んだ、嘘と仕掛けが明らかにされる。
 
 最後の最後、陪審員による評決が’下されたと伝えられたところで物語は終わり、その結果は、両方のパターンがヒーローの夢想として描かれて終わるが・・。
 検事側の反論のレベルを考えれば、この物語はたぶんハッピーエンドだったのではないか?と思わせるエンディンングだ。

 物語の中で、「(ロンドン)サウスが地元の俺には、北部のカムデンは、また区馴染みのない別世界で・・」みたいなナレーションをするヒーロー役のサミュエル・アデウンミだが、本人はカムデン出身。2019年に英国スクリーン・インターナショナル紙で、期待される「明日のスター」に選ばれたアデウンミだが、この作品の演技が高く評価されて、BAFTA(英国アカデミー賞)にノミネートされた。

By 寅松