海外ドラマ

死亡記事担当エルビーラの殺人予測ノート

アイルランドの女デクスターと簡単に片付けられないおかしさ!?

Obituary
2023年 アイルランド カラーHD 55分 6話 APC Studios、Magamedia/RTÉ AXNミステリーにて放映
クリエイター:レイ・ロウラー 監督:ジョン・ヘイズ、オオナー・カーニー
出演:シボーン・カレン、ダニエル・ギャリガン、ローナン・ラフテリー、マイケル・スマイリー、デイビット・ガンリー、ノニ・ステープルトン ほか

 簡単にいうと田舎町の地元紙で死亡記事を担当記者が、あしき資本主義の流れに乗って、社員を解雇され、死亡記事1本にあたり200ユーロというフリーランス身分に格下げされたのを機に、編集長の助言に従い生活のためにも自発的に殺人を初めるというお話。
 これだけ聞くと、馬鹿らしいB級コメディだが、主人公のエルビーラの生い立ちは、なかなか奇妙。出生自体が母親の死と引き換えであったために、「死」にとても親近感を抱いていて、アイルランドの田舎町の人々の奇妙さとあいまって、「殺人」の罪の意識が曖昧化するのがこのドラマのポイントだ!

 Netflixオリジナルでアメリカ製作のアイルランドもの「ポドキン」でも主演を務めたシボーン・カレンが本作も主演を務める。
 「ポドキン」がアメリカ人が直面する、「アイルランド」であったのとは対照的に、本作が見せてくれるのはモノホンのディープ・アイルランドとだ。「ポドキン」が撮影されたのは、西アイルランドの沿岸部で対岸がフランスにあたるコーク周辺。ここは、アイルランドでは観光地で十分アメリカナイズされた土地だ。それでも、アメリカ人から見たら、アイルランド人の「正義感」はかなり怪しいものに映るというドラマだった。
 本作の舞台はキルレイブンという名前の架空の街だが、撮影されたのはドネゴールにあるバリーシャノン(アイルランド最古の街の一つ)やその近くのバンドランあたり。ドネゴールは、1980年代くらいまでは、日常会話でゲール語(ケルトの言語)が唯一残っていたと言われるほど、アイルランドの中でのケルト文化が色濃い場所だった(エルビーラの父ウードは、時々嫌味のようにゲール語で挨拶する)・・・。ま、現代では、アイルランドの中でも取り残された、すごく「田舎」と言う感じだと思うが、とにかくどんよりした天候の悪さや、人々のひねくれた感じは、この土地柄を実によく表している。
 
 さらに主人公のエルビーラ・クランシー(カレン)のキャラクターが、キンキーだ。幼児の頃から「死」に取り憑かれ、中学の頃には不穏な殺人を題材にした小説を発表して変人扱いされた。ただ一人、庇ってくれたのは親友のマロリー(ダニエル・ギャリガン)だけ。エルビーラは変人で、マロリーは万引きがやめられない問題児!性格も趣味もルックスも共通点はないように見えるが、母親が幼児期に死んだという共通点があるのだ。
 エルビーラは、かつてうつ病になり薬を服用していたが、自殺未遂を図り、それ以来薬をやめた。その時期の記憶は、あまりなかった。
 今は、めでたく前任者が死亡したため、地元紙キルレイブン・クロニクルの死亡記事(Obituary)担当の記者として就職していた。彼女にとって、人の「死」を記事にするのは、天職とも言って良い。

 しかし、ある時彼女を呼び出した編集長のヒュー・バーンズ(デイビット・ガンリー)は、業績低下を理由に彼女の社員契約を打ち切り、記事あたり200ユーロのフリーランスとして再契約するように告げた。(のちに、これは編集長が横領するための独断であったことがわかるのだが・・。)
 彼女は、人が死なない時もあるのに「生活できません!」と拒否するが、「たくさん死ねば、それだけ儲かる」と編集長。
 エルビーラは仕方なく死にそうな町民を選んで、先に記事を書いて効率化を図ろうとするが、ガンで余命が僅かのはずだったサンディ(バリー・マクガヴァン)ですら死ぬ気配もない。実は、末期ガンをSNSで公開して募金を募っていたサンディは、とっくに全快していたが詐病を続けていたのだ。
 エルビーラは、毎日海岸のそばの崖でジョギングするサンディと口論になり、彼を崖から突き落としてしまう。もちろん多少後悔はしたが、それ以来、効率的に死亡記事で稼ぐ方法=死者を自分で用意する方法に思い至るのだ。

 一方、高齢で余命も僅かな前任の事件記者、クライブ・キャヴェンディッシュ(ララー・ロディ)の代わりに、フリーランスとして雇われた新聞記者エマソン(ローナン・ラフテリー)のことが気に入ったエルビーラだったが、男の趣味が悪いはずだった親友マロリーに先を越される。しかし、次第にエマソンは、クライブに指示されて、クライブがずっと追いかけていた地元の珍しい殺人事件、ドイツ人女性マリアが亡くなった事件の真相を追っていることがわかってくる。
 ただし、その事件を追っていたのはエマソンだけでなく、編集長のバーンズも個人的な理由から、事件の真相を探っていた。
 その事件以降飲んだくれになっている、エルビーラの父ウード(マイケル・スマイリー)が、真相を知っているらしいのだが・・。

 ドラマは、ダーク・コメディだが、暗すぎるわけでも、とんがり過ぎでもない。話の骨子はシンプルなのだが、アイルランドの取り残された町に住む、奇妙な住人たちによって、方向があらぬ方向にねじれてゆくのは、なかなか面白い。
 観光ドラマではないので、アイルランド文化が強調されるわけでもないのだが、やはり住民の考え方はアイルランド的なのだ。
 実際、ドネゴールに行っても誰もケルト民謡なんぞ歌っていないし、住民がパブで喜んで聴いているのは、アメリカのカントリーである。

 脚本は、なかなかだ。クリエイターのレイ・ロウラーは、47歳。西アイルランド生まれで、業界ではまだ新人のようだが、元銀行員らしく様々な助成金や創作補助のローンを活用して、ここまでたどり着いた人物だ。
 主演のシボーン・カレン(現在35歳)、マロリー役のダニエル・ギャリガン(現在31歳)、撮影は2年前だとしても二人とも25歳というのはやや厳しいか?(笑)
 エルビーラの飲んだくれの父親、ウードを演じているのは、カナダ/アイルランド合作の「弔い写真家の事件アルバム」で主演していた、俳優でコメディアンのマイケル・スマイリー。
 キルレイブン・クロニクル、前任の事件記者で、余命僅かな身ながらエマソンを操って、マリーの事件の真相を暴こうとするクライブ・キャヴェンディッシュを、「ゲーム・オブ・スローンズ」などで知られる名優、ララー・ロディが演じている。

 一応、6話からなるシーズン2も決定しているとの報道がある。

By 寅松