海外ドラマ

マーロー殺人倶楽部の事件簿 シリーズ1

超お金持ちしか住んでいなさそうな、バッキンガムの美しい村の殺人事件!

The Marlow Murder Club Series1
2024年 イギリス カラー 90分 全2話 ITV Studios、Monumental Television/U & Drama ミステリーチャンネルで放映
原作/クリエイター:ロバート・ソログッド 監督:スティーヴ・バロン
出演:サマンサ・ボンド、ジョー・マーティン、カーラ・ホーガン、ナタリー・デュー、フィリッパ・ピーク、マーク・フロスト、マーク・フライシュマン ほか

 ロンドンから西へ50キロほどテムズ川を遡った、バッキンガムシャーの「最も良く手入れされた村(Best Kept Village)」の称号をもつ、美しい村、マーロー。「湖が干上がった土地」という意味だという地名が示す通り、湿地帯も多い緑豊かな土地は、歴史的には、〈釣りの聖書〉と賛えられる歴史的名著で英国で「欽定訳聖書に次いで印刷数が2番目に多い英語の本」とも言われる「釣魚大全」(1653年)を、アイザック・ウォルトンが書き上げた地として知られている。
 まあイギリスのピースフルで牧歌的な土地の代表みたいな場所だ。
 しかし、その後19世紀にここに滞在した、メアリー・シェリー夫人が、コテージで『フランケンシュタイン』を執筆した土地でもある。
 のんびりしすぎていて、趣味でミステリーに首をつっこむには、もってこいという土地なのだろうか。

 同作は、「ミステリー in パラダイス」の脚本家、ロバート・ソログッドが上梓した小説を元に、本人がクリエイターとして脚本化して、ITV Studioがドラマ化した作品。シーズン1は、本国では4話に分けたようだが、日本の含むその他の国では90分ドラマとして放映された。
 アガサ・クリスティー以来の伝統を受け継ぐ、暇なおばさんミステリーの最新版と言うべき作品。
 サマンサ・ボンドが演じる、川辺の大豪邸に住む引退した考古学者、ジュディス・ポッツが中心となり、ペットの散歩代行業を営むシングルマザーのスージー(ジョー・マーティン)と、地元の教会の司祭の妻ベックス(カーラ・ホーガン)が、地元警察のインド系女性刑事タニカ(ナタリー・デュー)とも連携して、マーロー始まって以来の連続殺人事件を解決してゆく。

 川沿いの自宅から、裸で川でひと泳ぎするのを日課にしているジュディスは、ある日向かいの豪邸に住む美術商ステファン・ダンウッディ(ルーファス・ライト)が、トラブルに巻き込まれたのを目撃し、その後の銃声を聞いたことで慌てて自宅に戻り警察に連絡するが、到着した警官たちは、全く捜査もせずに引き上げていってしまった。
 刑事課の巡査部長、タニカ・マリクに抗議するも、「このマーローで殺人事件は起こったことがありません」とニベもない。
 仕方なく、船で対岸の屋敷の敷地に乗り込むと、ジュディスは、ついに敷地内の川の支流に浮かんでいる死体を見つけ出してしまう!
 2人目の殺人犠牲者である、タクシー運転手のイクバル(ウミット・ウルゲン)を発見したのは、彼の愛犬を散歩させていたスージーだった。どうやら、あまり関連のなさそうな二人の犠牲者は、同じドイツ製の拳銃ルガー(ドイツ軍が使用していた)で殺されており、警察もようやく連続殺人事件として、慌て始める。
 ジュディスは、犠牲になったダンウッディともめていたという美術オークション業者のエリオット・ハワード(ダニエル・ラパイン)を調べる目的で、司祭の妻のベックスを巻き込み、最終的にジュディス、スージー、ベックスの3人は、警察にも協力して事件の謎解きをすることになる。

 しかし、それぞれの被害者に恨みのある人物はいるのだが、都合よくみなアリバイがあり、なかなか決定的な証拠が出てこない。
 ダンウッディの葬儀を遠巻きに眺めていた不審な女性について、警察も特定できいなかったが、顔の広いベッックスは、その女性がボートクラブを経営するリズ・カーティス(フィリッパ・ピーク)であることを知っていた。ボートクラブを訪問した3人に嘘ついたリズに、疑いの目を向けるジュディスたちだったが、なんと彼女は3人目の犠牲者になってしまったのだ・・。一番に疑われる夫ダニーは、1泊でレガッタのコーチに出張しており、その日家にはいなかった。
 ジュディスは、このパズルはどこかがおかしいと感じ始めていた。

 観光地、保養地として歴史のあるこの土地は、要するにお金持ちしか住んでいないのだが、趣味探偵にのめり込んでゆく3人は、3者3様ではあるが、実はマーローではよそから入ってきた人物だ。
 娘を捨てて、ジャマイカに逃げ帰った夫と離婚してからは、一人で娘を育て上げてきたスージーは、もちろん移民だが、テムズ沿いの大豪邸に住む、引退した考古学者であるジュディスも、住んでいたギリシャでは過去には苦い経験を抱えており、この地には、大叔母が残してくれた豪邸を相続した為に移り住んできたのだった。
 地元の保守層とも、それなりにうまくやっているように見える司祭の妻ベックスだが、実は司祭である夫は、もとはロンドンの音楽産業で働く重役で、同じ会社で人事を担当していた女性だった。夫が、啓示を受けて司祭になった為に、仕方なくこの地にやってきたのだった。
 一方、殺人を企てる犯人側は、マーロー特権階級出身者たちだ。
 そのあたりの人物像も周到に構成してあるところは、一応小説として出版したストーリーならではだろう。
 トリック自体は、斬新でもなく、サスペンスぶりもそこそこで見るべきものはないが、ほのぼの系のユーモアは、好感が持てる程度に仕上がっている。

 カメラクルーが、大変充実しているのを見ても分かる通り、マーローの風景の撮影が素晴らしい。残念ながら、ドラマの何倍も・・・。
  しかし、それでも概ね視聴者の受け止めは好評だったようで、すでにシリーズ2が決定しており2025年公開をよていしているらしい。

By 寅松