海外ドラマ

ペナック父娘のモンペリエ事件簿

道理で親子の雰囲気だけは妙に出ている!

Les Pennac(s) / Un Air de Famille
2021年 フランス カラー 52分 全8話 M.F.P. Be-FILMS、France Télévisions/France 3 ミステリーチャンネルで放映
脚本:ピエール・モンジャネル、マリエ・アリス・ガデア 監督:ニコラ・ピカール・ドレフュス、クリス・ナオン、エマニュエル・コキーユ、ベルジニール・ペリエッティ
出演:ジュリー=アンヌ・ロス、クリスチャン・ラウス、アレクシア・チコット、ヴァレンティン・ピネット、フェイリア・ドゥリバ、マリー=ソーナ・コンデ、マチュー・ペンチナト ほか

 南フランスのモンペリエは、マルセイユよりさらに西側に位置する、中世かから続く学園都市だ。プロヴァンスの端っこと言えなくもないが、ここまで来ると、ワインで知られる、ラングドック=ルシヨンの一部としての方がスッキリくるだろいう。
 ドラマの中でアナベルが言うように、別れた夫が配属されている、プロヴァンスの中心地、エクサン・プロヴァンスからも車で2時間程度の距離である。
 しかし、アナベルがもともと住んでいた、レユニオン島の方は、ばか遠い!というか、確かにフランスの海外県ではあるが、アフリカのマダガスカル島の東海上の小さな島で、モーリシャス諸島のすぐ脇である。島全体が火山のこの島は、世界遺産に登録されている絶景の観光地であることは確かだが、人が住むのはなかなか大変そうだ。そもそも、マダガスカルからの犯罪者の流刑地だったくらいなのだ。

 子供が、もし島から内地、モンペリエへ引っ越してきたら、もう戻りたいとは思わないだろうなあ。

 レユニオンからモンペリエへ移動してきた女性警部、アナベル・ペナック(ジュリー=アンヌ・ロス)は、モンペリエから車で2時間の田舎に住む引退した警部である実の父、アニバル(クリスチャン・ラウス)とは絶縁状態で、モンペリエへ赴任して以来、次々父が送りつけて来る手紙も無視し続けている。
 アナベルは、父親には強い憎しみを抱いていた。
 父が大好きだったアナベルは、両親の離婚により母親に連れられて6歳でレユニオン島へ。10年間も、会いにきてくれるはずの父親を待ち続けて裏切られた彼女は、もはやアニバルを許す気は無かったのだ。
 しかし、モンペリエに赴任3ヶ月で、関わることになったひき逃げ事件かと思われた事件は、被害者が実は10年前に、夫の暴行で死亡したとされていたアリーヌ・デュレル(カロール・ビアニク)であることがわかり思わぬ方向へ。妻殺しで、10年間収監されている犯人、ジョルジュ・デュレルを逮捕した当時の担当者が、父のアニバルだったのだ。もともと父親と働いていた上司の警視正、モード・フェヴル(ザベル・オテロ)に促され、渋々アニバルを訪問し、最終的にはともにアニバルの違法捜査の嫌疑を晴らすために、デュレルの犯罪を暴くことに・・。

 本国では90分ドラマとして放映された、パイロットがこの話で、日本では2話分として放送された。なので、日本では8話だが、本国ではパイロット作+6話だったようだ。
 パイロットのあと3話目からは、アニバルもちゃっかりモンペリエに引っ越してきて、警察の嘱託として働く条件で、娘とその子供である(孫の)リア(アレクシア・チコット)とルイス(ヴァレンティン・ピネット)を心配する毎日をおくる、定番コメディとなる。
 アニバルが娘を心配するのには訳があり、密かに娘の家に忍びこんだアニバルは、娘が、幼い頃からディスレクシア(読字障害)の症状があり、書類作成や、地名表記視認に問題があることを知ってしまったからだ。
 ディスレクシア(読字障害)というのは、学習障害の一種で、文字の視覚処理ができなかったり、発音と文字が紐づかなかったりする症状が出る。
 知能の発達には問題がないが、ドラマ中の言語療法士によれば、失敗を恐れることから、ディスレクシア患者は秩序を重視する傾向があり、一方でサヴァン症候群的な優れた映像記憶や三次元把握能力を示すことがある。アインシュタインやダーウィン、NASAの職員たちなどにもこの傾向が見られるとか・・・。
 と言うわけで、ドラマではモーフィングを多用して、道路標識の綴りが入れ替わったり、カーナビの音声が「左です」と言うたびに、アナベルはハンドルを右に切ったりと、その困難さをやたらに強調するのだが、正直、そのハンディが主題になっているわけでもないし、捜査と関連するわけでもなく、少々うざったい。
 いっぽう、彼女の画像認識の鋭さや把握力は、単に想像力が豊かな人にしか見えないので、こちらもそんなに成功しているようには見えない。が、とにかくアナベルは、なかなか現場では鋭い観察力を発揮して、事件の本質を見過ごさない。(しかし、男を見る目は全然ないのだが・・)

 アニバルは、娘が町の標識の視認ができないのを分かっていて、車の運転を指示したり、娘が溜め込んでいた捜査書類を、同僚の主任巡査部長・ディーン(マリー=ソーナ・コンデ)と協力してこっそり終わらせたり、学校でいじめに遭っているルイスを助けるために、いじめっ子を脅したりと大忙しだ。
 脚本としては、正直、どのキャラクターも十分描けているとは言えない出来だと思うのだが、なぜか主演のアナベルとアニバルの雰囲気は、ちょっと絶妙で見てしまう。息がぴったりと言うより、アニバルとの関係に、ちょっと居心地が悪そうで、少し照れくさそうな雰囲気が、自然に出ているのだ・・。と、思ったら、実はこの二人、ジュリー=アンヌ・ロスと、クリスチャン・ラウスは、実際にも実の娘と父親だとか?
 ドラマと同様に、クリスチャン・ラウスは、妻である女優、マリー=リーヌ・レミューと離婚したため、娘のジュリー=アンからは、疎まれていたらしい。
 娘は元々の名前である、ロスを名乗っているが、73歳の父親クリスチャンは、劇団での通り名を選んで、ラウトに改名したのだ。
 2人は一緒に、<Buzz TV>のインタビューを受けている。

「インタビュー:クリスチャン・ラウトが娘のジュリー=アン・ロスと同じ姓を名乗らない理由を明かす」

 このドラマには、結構残念なことが2つある。
 一つは、パイロットと本編でありがちなことだが、重要な役者が何気無くチェンジしてること。現在のアナベルの上司であり、元は父親のアニバルとともに働いていた女性警視正が、パイロットではモード・フェヴルという名前で、イザベル・オテロが演じているが、3話目からの本シーズンでは何気にソニア・アイドという名前に変わっており、演者もフェイリア・ドゥリバに変更になっている。
 実は第8話で、このソニアは、父アニバルの元恋人で、20年以上前に行方不明になっていて、湖から銃殺死体で発見されたジュリアン・ブロメット警部補と、そのバディであったアニバルが、2人ともに恋した女性であることがわかる。
 1話目のモード・フェヴルも、そんな雰囲気で話が進んでいたので、おそらくキャラクターとしては変更はないのだが、役者を交代させるために名前を変えたのだろう。
 どちらの女優が似合っていると言うわけでもないのだが、重要な役なので少々残念だ。
 
 しかし、もう一つの方は結構大問題だ!
 7話までは、それぞれ完結ものとして普通に進んでくるが、フランスものにありがちではあるが、8話で突然、アニバルとソニアの過去につながる事件が持ち上がる。
 <Google Earth>を駆使して近くの湖に車の陰を見つけたルイスに付き合って、アニバルが潜水士を頼んで湖を捜索すると、実際に20年以上前に投棄された車が見つかり、前述したように、中からジュリアン・ブロメット警部補の銃殺死体が発見されたのだ。
 アニバルとソニアは被害者との関係から捜査から離れ、捜査自体は新任の警視として着任したばかりのニコラ・トリスタン(ステファン・ブレル)とアナベルが担当することになる。
 なぜかアニバルは最初から、ニコラのことが気に入らない様子だが、前の夫が新しい恋人とパリに転勤して以来、男日照りだったアナベルは、イケメンのニコラが気に入った様子。
 実はニコラは、アニバルやジュリアンが現役だったころ、新任の刑事としてモンペリエに配属されたことがあり、その時にアニバルは悪い印象を持っていたのだ。
 ニコラは「検察庁にジュリアン失踪当時の資料は、デジタル化されていないので 何も残っていない」と、捜査に乗り気でないが、アニバルとソニアが、ジュリアンの姉が保存していた紙の捜査資料を持ち帰り、そこからアナベルは、すでに死亡している清掃会社の警備員ダオンの単独犯だと結論づける。
 しかし、生前のジュリアンをよく知るアニバルだけは、納得していない。清掃会社の社長ラコンブを乱暴に銃で脅して、当時の犯人に警察内部の協力者がいたことを吐かせるのだ。社長は、協力者の名前を覚えていないが、アニバルがニコラの写真を見せると、こいつだとうなづいた!
 一方、仕事を終えたアナベルは、ニコラと急接近中!おい!どーなるんだ!?というところで、話はぶっちぎれ、シーズン1は終了。
 はいはいわかりましたよ、シーズン2ですか・・と、思っていたら、なんとフランスTVは、本作のシーズン2をキャンセル。なんだよ〜!こんな展開しといて、打ち切りとは無責任すぎるぞ〜!
 

トホホなドラマです。

By 寅松