海外ドラマ

自由研究に向かない殺人

美しい英国の郊外で、オタク優等生の危うい夏休み課題!

A Good Girl’s Guide to Murder
2024年 イギリス カラー 40~48分 全6話 Moonage Pictures、BBC Three/Netflix Netflixで視聴可能
原作:ホリー・ジャクソン(『自由研究には向かない殺人』:服部京子 訳 株式会社 東京創元社刊) クリエイター:ポピー・コーガン 監督:ドリー・ウェルズ、トム・ヴォーン
出演:エマ・マイヤーズ、ゼイン・イクバル、アシャ・バンクス、ライコ・ゴーハラ、ジュード・モーガン・コリー、ヤスミン・アル・クダイリ、ヤリ・トポル・マルガリス、ヘンリー・アッシュトン、カーラ・ウッドコック、インディア・リリー・デイヴィス、アンナ・マックスウェル・マーティン ほか

 17歳の高校生ピップを主人公にした英国のミステリー・ドラマ。どーも、米英圏では、大人よりもヤングアダルトものに力を入れている傾向のあるNetflixが、BBCと相乗りでドラマ化した作品のようだ。
 イギリスの若手作家、ホリー・ジャクソンが書いたピップを主人公にした3部作、『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』『卒業生には向かない真実』は、21年から23年にかけて日本でも発売され、話題になった。
 原題は、「良い娘のための殺人ガイド」みたいな意味だが、邦題はさすがに書籍タイトルそのままなので、よく練ってある。

 ドラマ自体は、西南イングランド、ブリストルに近い美しい村アックスブリッジ(Axbridge)あたりで撮影されたようで、いわゆるイギリスの「美しい村」のような背景である。そんなところにも若い子たちがいて、おバカさんたちは不良になりたくても「ウェイステッド」の若者たちみたいに、鬱屈した青春を送るしかないだろう・・。
 しかし、ピップ(エマ・マイヤーズ)は高校(おそらくアカデミックコース)でも大半の生徒からは浮いた優等生。それでも、親友のカーラ(アシャ・バンクス)をはじめ、ローレン(ヤリ・トポル・マルガリス)、ザック(ライコ・ゴーハラ)、コナー(ジュード・モーガン・コリー)という女3人男2人の浮いた5人組で過ごしているので、いじめられたりする日常ではない。
 ピップは、おたくたちの中でもとびきり頭が良いようで、大学進学、それもケンブリッジを目指している。実は、彼女の父親はケンブリッジのトリニティ・カレッジ (英国教育の最高峰の一つ)出身だが若くして亡くなった。母親は、アフリカ出身の人の良いヴィクター(ゲイリー・ビードル)と再婚していて幸せな家庭だが、出来の良い娘には父親の出身校を目指して欲しいと思っているのだ。
 しかし、ピップは大学入学の必須項目である、コースの卒業課題(自由研究)のテーマを、5年前に村で起こった17歳女子高生行方不明事件と、その犯人とされた、黒人同級生の恋人が自殺した事件の再捜査にすると言いだした。
 親も反対するが、担任の教師もテーマを変えるようにせまり、当時担当した警官は「事件を掘り返すな!」と怒り、被害者女子高生アンディー・ベル(インディア・リリー・デイヴィス)の妹、ベッカ(カーラ・ウッドコック)にも反発されることとなる。
 ピップの元には、メモやメッセージで脅迫文も送りつけられる。
 それでも、一度思い込んだら、ピップはなかなか後には引かない度胸がある。
 彼女は、12歳の頃、行方不明になる直前のアンディー・ベルとその恋人サル(ラウール・パットニ)を見かけた記憶があるのだ。幼い自分にも優しかったサルが、アンディーを殺害したとはどうしても信じられなかった。

クラスのオタク5人組

 最初は、協力することを拒んでいたサルの弟ラヴィ(ゼイン・イクバル)だったが、ピップの打ち明けた真摯な気持ちに触れて、相棒として解明を手伝う約束をする。
 しかし、二人の前に突きつけられたのは、自分たちを取り囲む人々の思いもしなかった一面だった!そして、なんと・・・。

 ヤングアダルト物とは思えない、本格ミステリーという評判通りの驚きではあるが、ストーリーだけが取り柄ではない。
 登場人物の印象が、事件を追ってゆくとガラリと変わってくるのは、ミステリー小説手法としてよくあるのだが・・・本作はジュブナイル小説らしく、少年少女がはじめて大人の世界を体験して感じる、あのなんともいえないドキドキ、ワクワク感、失望、辛さ、そして少し大人になってしまう・・感覚と、知っている人たちの違う一面を見出す捜査(自由研究)活動が、見事に合体しているのだ。
 17歳というのは、確かに自分の世界観がガラリと変わってしまう年齢かもしれない。
 初めて体験する、森でのドラッグ・パーティー!
 年上の優しそうなお姉さんは、仲間にドラッグを売っていたし、真面目そうな警官は、交通事故を隠蔽していたり、自分の父親ヴィクターまで、嘘をついてたことがわかってしまう。親友カーラとその姉ナオミ(ヤスミン・アル・クダイリ)の父親で、ピップの担任であるワード先生(マシュー・ベイントン)まで何かを隠している・・・。
 
 事件は、ウルトラ意外な人物が犯人として登場、さらにそれだけでは解決しない疑問が湧き上がり、二転三転してピップの命にも危険が迫る。6話のドラマなので、展開も早く、最後まで一気に見られるのはいいのだが、全部終わって「あれ?」という疑問が。
 途中、気丈なピップが落ち込んで、捜査を止めようとする大事件。「謎解きをやめないと2度と会えなくなるぞ!」という何者かの脅迫のあとで、無残に殺されていたピップ家の愛犬、バーニーの謎はどうなったんだよ〜!
 実はドラマ版では説明のための尺が足りなかったのか、割愛されてしまっているのだが、原作によれば、この犯人はどいうやら最後の犯人とその父親らしい!しかし、これを割愛って・・・うーん。

 主人公のピップを演じたのは、Netflixオリジナルの「ウェンディ」でジェナ・オルテガとともにブレイクを果たした、22歳のアメリカ人女優エマ・マイヤーズ。フロリダ生まれの彼女が、めちゃイギリス英語で演技するのも意外だが、確かに優等生っぽい彼女が、実はホームスクールで勉強したために一度も学校に通ったことがないというのも驚きだ。
 彼女のパートナー、そして最後には恋人らしきものに発展するラヴィ役のゼイン・イクバルは新人。
 他も高校生役なので皆若い俳優だが、5人組の一人アジア系(名前は中国系)オタク少年ザック・チェンを演じているライコ・ゴーハラは、日本と韓国ルーツを持つ英国人らしい。「郷原」という名字なのか?

By 寅松