奈落のマイホーム
韓国というかソウルの抱える住宅問題を逆なでするパニック・ムービー!
2021年 韓国 114分 The Tower Pictures/Showbox Netflixで視聴可能
脚本:チョン・チョルホン キム・ジョンハン 監督:キム・ジフン
出演:キム・ソンギュン、チャ・スンウォン、イ・グァンス、キム・ヘジュン、キム・ホンパ、クォン・ソヒョン ほか
11年必死に働いて手に入れたマイホームが、住み始めてほんの数週間で地中深くに沈んだらどんな気分になるだろう!?という映画。
正直、都市の真ん中で500mも沈み込むような巨大シンクホール(巨大陥没穴)が、自然に出現するのは考えにくいが、本作では建築の不備や、陥没事故の原因を掘り下げたりはせず、建物にたまたま閉じ込められた、不運な一般人たちの壮絶なサバイバルにフォーカスしたパニック作になっている。
『ザ・タワー 超高層ビル大火災』『第7鉱区』など、パニク映画では実績のあるキム・ジフンが監督だが、実はこのひとなかなか災難が重なった人だ。
安易な怪獣が出てくる2011年の『第7鉱区』は、大韓民国映画史上最悪の作品とこき下ろされて、2012年の『ザ・タワー 超高層ビル大火災』は、まあだ、はるかにマシな作品と言われたが、その次に監督した、日本人の戯曲をもとに映画化した『親の顔が見たい (니 부모 얼굴이 보고 싶다)』という作品は、主演の一人、オ・ダルスに性加害疑惑が持ち上がったために公開が延期となり、2022年にようやく公開されることになった。
この作品は、そんなジフン監督が久々に放ったヒット作で、なんとかキャリアをつなぎとめることに成功した作品でもある。
映画の方は、パニック映画というより、地下500メートルの崩れ落ちたマンションの中に取り残された、運のない人々の生き残りを描く、シンプルなサバイバルムービーなのだが、キャストの方はなかなか変化球で面白い。
主演がキム・ソンギュンというのが、まずもってなかなか良い!ドラマでも映画でも活躍する、おっさんぽいあの人だ。
存在感のある脇役が多かったが、「D.P. -脱走兵追跡官-」で演じたアン・ジュノらを束ねるD.P.部門の責任者パク・ボムグで大いに注目された。続けて、「離婚弁護士シン・ソンハン」では主役の親友役に。この映画で主演を勝ち取った。さらには、ディズニー・プラスの話題作「ムービング」でも重要な役を演じている。
キム・ソンギュン演じるサラリーマン課長のパク・ドンウォンの妻、ヨンイを演じるのは、もともとミュージカル女優のクォン・ソヒョン。よく見かける人ではないが、tvNの「ブラックドック」で、コ・ハヌルの窮地を救うために、自ら身を引いた臨時採用教員ソン・ジソンを演じていたのが印象的だ。
同じ「ブラックドック」で校長役をやっていた、キム・ホンパが、救助隊を指揮する責任者として出てくるのもおかしい。
パク・ドンウォンとともに、サバイバルの中心になる「兄貴」ことチョン・マンスを演じるのは、チャ・スンウォン。映画『がんばれ!チョルス』やドラマ「私たちのブルース」でも知られるが、むしろtvNのバラエティ「三食ごはん」シリーズの方が有名かもしれない。
ドンウォンの部下で、新居祝いに来て一緒に奈落の底まで落ちる間抜けなキム代理を演じたのが、なんだか、動作やまくし立てる姿が、アンガールズ田中を思わせるイ・グァンス。チョン・ソミンと共演したコメディ、「サウンド・オブ・ハート」が当たり役だろう。
そして、隠し球として一緒に奈落に落ちた地味なインターンOLを演じているは、なんと今注目の女優キム・ヘジュン。子役からスタートしたが、2019年の俳優でもあるキム・ユンソクが監督した映画『未成年』のジュリ役、「調査官ク・ギョンイ」の美少女シリアルキラー、ケイ役で頭角を表した。
最新作としては、ディズニー・プラスのオリジナルドラマ「殺し屋たちの店」で主演を務めている。これも、殺し屋たちの武器供給人をやっていた叔父から、その店を受け継いでしまう女子大生という、とんでもないヘンテコな役をこなしている。
この映画では、彼女のキャリアの中では比較的無難な役柄ではあるだろうが、最初の方では、そのキャラがまったくつかめない不思議な女子で、この子ならではの雰囲気が出ているように思う。
メイキング映像
地下に落ちたマンションのセットや、崩落のCGの出来に関しては、なかなかの出来で、現代の日本映画の予算では到底足元にも及ばないレベルである。リアリティという意味では、ハリウッドですら、ここまでのディティールは難しいかもしれない。
ただし、シンクホール全体に雨水が流入し、もはや絶望的と思われる状況で、巨大なプラスティック製水タンクにマンス以外の全員が乗り込んで浮上するどんでん返しは、お笑い級。
最後に生き残ったものたちが、キム代理の新居であるトレーラー・ハウスに新居祝いに集まるのも、さほど感動や面白さはない。
無難な終わり方と言うべきか・・・。
By 寅松