海外ドラマ

正直すぎる捜査官ヴェルネと聖域捜査班

正直すぎるというより、偏屈な元警官とへそ曲がりが揃った検察特別捜査班

Tout le monde ment(英題:Everybody Lies)
2022年 フランス カラー 90分 全2話 CPB Films, France Télévisions
Be-FILMS/France 2 ミステリーチャンネルで放映
脚本:オリヴィエ・ノレック 監督:エレーヌ・アンジェル、アキム・イスカー
出演:ヴァンサン・エルバズ、マリアマ・ゲイェ、ジョゼフィーヌ・ドゥ・モー、トーマス・シルバーシュタイン、アンヌ・ジルアード、ジャッキー・ベロワイエ、ニコラ・マリエ ほか

 原題は、「誰もが嘘をつく」という、映画的タイトル。TVドラマシリーズというより、TVムービー的な雰囲気で、のっけからテーマ曲も古き良きイタリア映画の映画音楽を思わせる。(音楽を担当したのは、黒沢清監督のセルフ・リメイク新作『蛇の道』の音楽も担当しているニコラ・エレラ)。
 日本では連続ドラマとして放映されたが、2022年にフランス/ベルギーで放映された1本目が好評だったので、2023年にシーズン2として2本目が制作されたようだ。物語の中でも、最後後に「えっ、そんな謎?」というモヤモヤを残して終わるが、めでたくシーズン3も製作中のようである。

 物語の方は、「正直すぎる」というより偏屈で、上からの命令に逆らって警察を追い出された元警官ヴェルネ(ヴァンサン・エルバズ)が、野心的な検事モジョディが立ち上げた、社会的影響力が強い大物が関わった事件をあえて捜査する「聖域捜査班」に、検事局の捜査官として加わって、大物達に引導を渡すストーリーだ。

 警察をクビになってからは、もともと犯罪者だったマックス(ジャッキー・ベロワイエ)が経営するパリの古書店で、勝手に自分の推薦図書を買わせようとする迷惑な押しかけ店員をやっているヴェルネ。マックス(マクシミリアン)とヴェルネは2人とも、クラシカルな推理小説/推理ドラマ・ファンらしく、そのやりとり自体もそうだが「刑事コロンボ」や「メグレ警視」シリーズなどのオマージュが見受けられる。
 往年の名作オマージュ作などというとあまりろくな作品はないが、本作は登場人物の2人が推理もののファンなだけで、ドラマの方は十分現代的だ。

 エピソート1では、ヴェルネの元に現れた黒人の若い検事モジョディ(マリアマ・ゲイェ)が検察内に立ち上げたチームには、ヴェルネの他に、ハッキングの技術にも長けた女性刑事マロリー(ジョゼフィーヌ・ドゥ・モー)、特権階級出身の若手、ジュリアン(トーマス・シルバーシュタイン)が加わり、エスコート・サービスの若い女性が会社所有の別荘で死亡した事件を手掛かりに、フランスの大手自動車会社ソールヴェンのCEOで、これまでも多くの疑惑をもみ消してきたファヴァン(ニコラ・マリエ)を追い詰めるストーリーが描かれる。
 政府と強いつながりを持つファヴァンには、検察からの情報もダダ漏れで、マロリーの自宅が狙われたのを機に、モジョディは検察の外にチームの臨時拠点を作ることを申請し、マックスの古書店の地下室に「聖域捜査班」が誕生する・・というのもご愛嬌だ。
 エスコート・ガールとして殺されたジュリーのルームメイトとして登場する、弁護士を目指している大学生サム(レア・イゼール)も、この回ではチームの一員として捜査に協力して、エピゾード2ではすでに弁護士となって再登場する。

 エピソード2では、刑事ドラマ「ジャコメッティ」シリーズの人気俳優マチュー・ルセルフ(ジュリアン・ボワッスリエ)の本当の顔が暴かれる。ルセルフのファンだったクレア(マティルデ・サーフ)が、死体で発見され、警察は物取りの犯行と断定して6日で操作を打ちきった事件を再捜査するために、聖域捜査班は、当然のようにマックスの古書店の地下に集まってくる。
 次第に、マチューは多くのファン女性をデートに誘っては、暴力的に犯すという盗撮性癖の持ち主で、マネージャーのデルフィーネ(ジャンヌ・ロサ)とともに、訴えた女性を威圧し、それを抑え込んできた過去が明らかになってくる。
 しかし、どうしても訴えを取り消さないと言い張ったクレアを殺害したのは、デルフィーネの方であった。

 「刑事コロンボ」へのオマージュか、どの話も、殺人事件の犯人は最初から描かれていて、それを聖域捜査班が暴いてゆく。
 原作と脚本を担当しているのが、気鋭のフレンチ・ミステリー作家オリヴィエ・ノレックであるため、ストーリー自体が緩すぎるということもない。エンタテイメントではあるものの、最低限のリアリティは確保されている。
 フランス刑事物全体がそういう傾向にある気がするが、「最後の詰め」が、英米の警察のように物証にこだわるというより、犯人に自白させるものが多い気がする。オリヴィエ・ノレックは、長年、セーヌ=サン=ドゥニ県で警部補として勤務していた作家なので、その辺は、作り事というよりフランス的には、リアリティがある手法なのだろう。
 フランスの犯人は、どーも最後には自分から自慢したくなるようだ。
 
 ストーリーには、事件の解決だけでなく、偏屈なヴェルネが、アパルトマンの隣に引っ越してきたシングルマザーのイザベラ(アンヌ・ジルアード)とADHDらしきその息子トム(ディラン・ホークス)との関わりにより、徐々に心を開いてゆく姿も描かれる。
 ヴェルネは、一見辛辣で嫌な奴だが、傷つきやすく純粋な一面がある。ヴェルネのキャラクターこそが、ミステリー自体よりもこのドラマの見所であるのは間違いない。
 実は、イザベラには、ヴェルネに対して秘密があるらしきことが、エピソード2の最後に囁かれ、ヴェネルの仲間たちは心配するのだが・・・その真相がエピソード3では、明らかになるらしい。
 
By 寅松