海外ドラマ

ジェントルメン

大谷翔平・通訳の違法賭博事件に興味のある向きにもお薦め!

The Gentlemen
2024年 イギリス/アメリカ カラーHD 44~67分 全8話 Moonage Pictures、Miramax Television/Netflix Netflixにて視聴可能
クリエイター:ガイ・リッチー 監督:ガイ・リッチー、ニマ・ヌリザデ、エラン・クリーヴィー、デイビット・カフリー
出演:テオ・ジェームズ、カヤ・スコデラリオ、ダニエル・イングス、ヴィニー・ジョーンズ、ジャンカルロ・エスポジート、レイ・ウィンストン、ジャスミン・ブラックボロー、ジョエリー・リチャードソン、ジョシュア・マクガイア ほか

 こーゆーのを「スピンオフ」というのだろうか?ともかくも、ガイ・リッチーは、間違いなく2019年の自身の映画『ジェントルメン』のストーリーを元に、Netflixのオリジナル・ドラマシルーズである「ジェントルメン」を企画したのは間違いだろう。
 映画の方は、マシュー・マコノヒー主演で、アメリカからイギリスに渡り、マリファナ・ビジネスでのし上がったミッキー・ピアソンがそのビジネスを誰かに売り渡して引退しようとしたことから起こる、ドタバタ死闘を描いた映画だ。しかし、このドラマのストーリーは同じ業界を描きながらも、随分と違ってしまってる。前の映画に関わる人物も出てこない。最後の方に事業の売却話がでてくるところだけが、重なるがメインの話でもない。
 物語は、PKOでトルコ・シリア国境に派遣されている陸軍将校エディ・ホーニマン(テオ・ジェームズ)が、父親であるハルステッド公爵の危篤の知らせを受けイングランドに戻り、弁護士から父の遺言により、ヤク中の兄フレンディを差し置いて、公爵位と土地屋敷屋敷すべてを相続するところから始まる。
 財産を相続できなかった兄のフレディは逆上した。実は、フレディはタチの悪い北部ギャング、トミー・ディクソンに8万ポンド(16億円)の借金があり、それを返済できないと殺されてしまうのだ。
 兄をなんとか助けるために、屋敷と財産のい売却を検討するエディだが、彼の前に現れたスージー・グラスは、彼を屋敷の敷地内の地下工場に案内し、そこでは、すでに彼の父親と合意して長きにわたりマリファナの栽培事業が行われていることを告げる。スージーは、父親であるボス、ボビー・グラスが刑務所にいる間の管理を任されていたのだ。
 スージーは、事業の維持のためにトミー・ディクソン側と交渉し、借金を半額にまで値切ることに成功するが、エディがなんとか地下のワイン蔵のコレクションを売り払い、残りは父の残した現金で払うところまでこぎつけると、フレディはその金を持ち出して、虚偽のボクシング賭博で全額巻き上がられてしまった。
 なるべくはやくボビー・グラスと縁を切り、彼らを敷地から追い出すつもりであったボビーの目算ははやくも崩れ、マフィアたちとの関わりは、次第に泥沼化してゆくのだった・・。

 映画版が、マリファナ流通を仕切って来た「紳士(ジェントルメン)面をした」ギャングの映画であるのに対して、ドラマ版は、ギャングに協力する、ほんものの紳士というか本物の「貴族」を描くという大胆な展開である。
 正直、ガイ・リッチーはすでに映画版の『ジェントルメン』のストーリーについては、以前共同で仕事をしていたミッキー・デ・ハラから、自分の納品した脚本をお蔵入りにしながら、内容はそれをパクったものだと訴えられたようなので、内容は別物にしたいと考えたのかもしれない。
 
 とりあえず、物語はテンポよく、ガイ・リッチーらしくスリリングに展開。
 ようやく難関を切り抜けたかと思うと、思わぬ展開が続くというのは、彼のトレードマーク・そのものである。
 ガイ・リッチーの映画は、正直このジェット・コースター展開を2時間の間に詰め込みすぎて、ちょっとわかりにくくなる部分もあるのだが、ドラマであれば8話もあるので、その辺は逆に映画よりわかりやすく、見易いと言える。

 ロケーションも素晴らしい。ホーニマン家のシーンは、実際に、グロスターシャー州にあるバドミントン・ハウスで撮影された。17世紀に、ボーフォート公爵一族が取得し住み続けた邸宅で、その名から多くの方がお気付きのように、今日の「バドミントン」というゲームが発祥した邸宅でもある。この大広間で、行われたたものらしい。(ジョン・ウートン作の等身大の馬の肖像画に傷をつけないようにするため、羽根つきコルクシャトルを考案したとか・・)

 ドラマの方は、借金を割引してもらった代わりに、巨大な鶏の衣装を着たダニエル・イングス演じるフレディが、踊りながらトミー(ピーター・セラフィノヴィッツ)に謝る爆笑シーン、エディが密輸を手伝わせることにしたロマの集団を屋敷に招き、その連中と(ロマ式の契約儀式として)一晩飲み明かすパーティー・シーン、グラス一家と関わっている貴族の名前を確認するために、知人のホワイトクロフト公爵(ナイジェル・ヘイヴァース)を尋ねると、屋敷は廃墟と化して黒人のチンピラが居座っている光景・・など、印象に残るいくつかのシチュエーションと、ガイ・リッチーにしては珍しい、門番のジェフ(ヴィニー・ジョーンズ)とホーニマン家の末娘、シャーロット(ジャスミン・ブラックボロー)の秘密をめぐる心温まるシーンなどもある。
 もちろん、キャラクター設定は、ガイ・リッチー映画の命なので秀逸なのはいうまでもない。
 刑務所内で、受刑者「カワサキさん」を専用料理人として美食の限りをつくし、伝書鳩の飼育を趣味としている、ボビー・グラス(レイ・ウィンストン、アメリカの薬物ディーラーながら、英国貴族好きであくまで優雅なスタンリー・ジョンストン(ジャンカルロ・エスポジート、リバブールの荒っぽいコカイン売人の元締めながら、神父のように振る舞うゴスペル・ジョン(ピアース・クイグリー)など、それぞれの元締の個性はさすが。自閉症スペクトラム傾向があり、エディがなんとか逃がしてやろうとする、トミーの部下のジェスロ(ジョッシュ・フィナン)や、スージーの部下で、ホーニマン領地マリファナ工場の責任者でもあるジミー・チャン(マイケル・ヴゥー)など、間抜けで憎めないキャラもいる。
 それにくらべると、イケメンと美女のメイン二人はおとなし目の設定だが、逆にそれが周りのキャラのおかしさを引き立てている。
 韓国ドラマなら間違いなくエディとスージーのラブ・ロマンスを入れ込むこと間違いなしだが、ギリギリ、二人の気持ちをほのめかしながらも、最後までビジネスパートナーの関係を貫かせるあたりが、さすがというべきだろう。

 余談だが、ダメ兄のフィレディが、性懲りも無く「今度は絶対大丈夫だ」とハイになって架空のボクシング賭博で大金を巻き上げられる過程は、日本人にとっては大谷翔平のバカ通訳、水原がどのようにはめられてカモにされたかが、まさにそもまま理解できる良き教科書でもある。最終的には払えるカモをじっくり狙って近づいているという、元も子もない間抜けな構造だ。大谷事件に興味のある向きにも、お薦めできる。

 とりあえず楽しく観れたシリーズなので、欲をかいて、ダメダメなシーズン2を作って評判を落とさないことを願う!

By 寅松