マテーラの検察官インマ・タタランニ
おばさん副検事が、なぜか事件だけでなくロマンスにも暴走!
2019年 イタリア カラーHD 115~135分 全6話 Rai Fiction, ITV Movie/Rai1 ミステリーチャンネルで放映
原案:マリオリーナ・ヴェネツィア 脚本:サルヴァトーレ・デ・モラ、マリオリーナ・ヴェネツィアほか 監督:フランチェスコ・アマート
出演:ヴァネッサ・スカレーラ、アレッシオ・ラピーチェ、マッシミリアーノ・ガッロ、アリーチェ・アッツァリーティ、カルロ・ルカ・デ・ルッジェーリ、バルバラ・ロンキ、エスター・パンターノ ほか
マテーラは、バジリカータ州の都市。なんといっても、イタリア版「吉見の百穴」、世界遺産の「サッシ」=洞窟住居群があることで有名な古都である。キャリー・ジョージ・フクナガ監督の2021年の007映画『ノー・タイム・トゥ・ダイ』のド派手なカーアクションの舞台として知った方も多いだろう。
石灰岩の岩肌に点々と開けた洞窟に8~13世紀にかけてイズラムを逃れた修道僧が住み始めたと言われているが、その後人口が増え、街になって住環境が悪化したという。バジリカータはもともと、比較豊かな農業地帯であるプーリアと、マフィア経済で有名なカラブリアに挟まれた貧しい州として有名で、サッシはその昔は貧困の象徴として攻撃の憂き目にあった。サッシの住民も1950年代に、概ね強制的に移住させられたようだ。
いまは、観光地として大変有名になり、旧市街下のサッシ住居の多くがホテルや土産物屋に改装された。
ドローン撮影が可能になったことにより、再確認された部分もあるだろうが、全面が赤茶けた岩肌に、へばりつくように多くの家が密集している光景は、まさに絶景としか言いようがない。
このドラマは、マテーラの検事局の女性副検事インマ・タタランニの活躍を描く、イタリア地上波お得意の2時間ドラマ。バーリの美人警視の活躍を描いた「刑事ロボスコ」の成功に気を良くして制作したのかと思ったら、2019年なので、こちらの方が数年先である。今回シーズン1が放映されたが、イタリアではすでにシーズン3まで放映されている。
正直、セクシーでも美熟女でもない、ド派手の上、センスのないファッションで、機関銃のごとく喋る大阪のおばさんのごときインマ・タタランニ副検事(ヴァネッサ・スカレーラ)。
やや気の弱く優しい夫ピエトロ(マッシミリアーノ・ガッロ)は、いつも姑と娘のいいなりで頼りにならず、その上、最近稽古を始めたサックスの美人先生との仲も怪しい。
思春期の娘、バレンティナは(アリーチェ・アッツァリーティ)の行動は、危うくていつもインマには気にくわないことだらけ。
新しく派遣されてきた、上司にあたるヴィターリ検事正(カルロ・ブチロッソ)は、事なかれ主義のナポリ人で凡庸な判断しかしないが、最後には責任を押し付けるし、インマとは高校の同窓生で検事補佐を務める美熟女ダイアナ(バルバラ・ロンキ)は、一年中夫の不満を喋ることしか興味がない。
そんななかで、インマの捜査に進んで付き合ってくれる若いイケメン軍警察官、カロジューリ(アレッシオ・ラピーチェ)だけが頼れる相棒だが・・、そこはイタリア女のインマ。夫のことは愛していながらも、カロジューリとのロマンスを妄想せずにはおられず、いつも危ない雰囲気に!
カロジューリに、准将への昇格試験を強く薦めておきながらも、彼が受験のためにマテーラを離れてローマに向かうと不機嫌になったりするから始末に負えない。て、こんな設定必要でしたかね?
ま、イタリア的には欠かせないのかもしれないが・・、どうも主役のコメディ女優ヴァネッサ・スカレーラは、どーもイケメンとのロマンスは無理があるようにしか見えない。
2時間ドラマなので、物語の方は一応1話完結の形式だが、全体を通して悪い奴らは最後の方で結託していることがわかるという構造。
1話目は、インマがバカンス中に海岸で見つけた人間の「指」を辿ってゆくと、環境ビジネスと更生施設をかねたエコ農場のビジネスをする男が、変態セックスのために雇った、難民の売春婦を殺した事件にたどり着く。
2話目は、街で発見された若い男は農場を経営するロザリオの息子ヌンジオであった。彼のが何故殺されたのかを辿ると、つい最近始めた、産業廃棄物の投棄を仲介する仕事にたどり着くが・・・という話。
3話目は、マテーラ郊外の溪谷で発見された遺体が、15年前に失踪した有名建築家ドメニコ・ブルーノの遺体だと断定されることから始まる。ブルーノの息子、ジュリオも建築家だが、ブルーノが発見された郊外の渓谷を「記憶の庭園」と名付けた公園樹宅地にする計画を否定されて以来、対立して絶縁していた。カロジュリとシチリアから赴任してきた美人警官ジェシカ(エスター・パンターノ)の捜査で、ブルーノがゲイであった証言を固めるのだが・・。
4話目は、広場の崖から落下して、自殺だろうと片付けられそうになる若い女性の遺体が、少し前に自分が出会った「自称ジャーナリストのドナーダ・ミウリだ」とインマが気づくことから始まる。彼女は、今まさにバジリカータ州知事戦に臨んでいる候補者、ルイジ・ロンバルディの愛人でスキャンダルを握っていると打ち明けていた。
5話目は、インマの高校の同級生ステラ・ピシッキオが一人暮らしのアパートで殺された事件。捜査の過程で、同じアパートに住む小学生のスタッキオと知り合うインマだが、ステラの家にくる客を目撃したスタッキオが行方不明になる。
そして6話目では、かつてマテーラに放射性廃棄物を埋設する計画が持ち上がった時、反対運動の先頭に立ってこれを潰した地元を愛する神父が、インマに何かを告発するために会ってほしいと電話した後に、郊外のガソリンスタンドの近くで、なんども轢かれ殺された事件。事件は、神父が夫の暴力から人妻をかくまったために、その夫イアンヌッツィの逆恨みで殺されたと片付けられそうになるが・・、インマはついにその背後にある大きな射性廃棄物の不法処理プロジェクトに行き着くことになる。
ドラマ自体は、かったるいと怒るほどでも、かといってアメリカナイズされすぎたテキパキさでもなく、ちょうど良い。
難民を食い物にするあくどい事業主、超保守的なマテーラでのゲイの人生、先の人生になんの希望も見出せない南イタリアの若者問題、貧しいマテーラからかつてスイスなどに出稼ぎした家族の子供が抱えたトラウマなどなど、細かく様々な社会問題も入れ込まれた物語だが、いちいちコメディ・ロマンス要素も入れこんでくるので、正直集中はできないが、それでも退屈ではないだろう。
しかし、全部見を割って最後まで引っ張った、悪辣な計画は、結局放射性廃棄物問題。なんといっても、貧しい土地柄なので、金儲けといっても不法投棄くらいしかないんですなあ。
かつてのイタリア映画を思わせる優雅なサントラ「インマの冒険」
ただ1話1話の殺人に絡む人間ドラマは、それなりに仲しい背景があり、そのへんのうまさは、なんとなく伝統のイタリア映画のエッセンスを微妙に感じ取れる。2019年と時代がちょっと古いからか、監督のフランチェスコ・アマートのテイストなのか?
アンドレア・ファッリが担当したサウンド・トラックが、モリコーネ巨匠をはじめとした、イタリア映画の華麗な伝統を受け継いでいるように思えるのも、そう感じる理由かもしれないな。
素晴らしい景色と、サントラの良さだけでもちょっと見る価値がある。
By 寅松